成人独自のアナフィラキシーの実態と病態に関する研究

文献情報

文献番号
201229033A
報告書区分
総括
研究課題名
成人独自のアナフィラキシーの実態と病態に関する研究
課題番号
H23-免疫-若手-021
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
福冨 友馬(独立行政法人国立病院機構相模原病院 臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 相原 道子(横浜市立大学医学研究科環境免疫病態皮膚科学)
  • 板垣 康治(北海道文教大学人間科学部 健康栄養学科)
  • 海老澤 元宏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター)
  • 岸川 禮子(国立病院機構福岡病院 アレルギー科)
  • 谷口 正実(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター)
  • 千貫 祐子(島根大学医学部皮膚科学教室)
  • 手島 玲子(国立医薬品食品衛生研究所 代謝生化学部)
  • 東 朋美(金沢大学医薬保健研究域医学系環境生体分子応答学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 アナフィラキシーは、最重症型の致死性の即時型アレルギー反応であり、死の恐怖と隣り合わせで日常生活を送る患者のみならず、患者を抱える社会に対しても重大な負担を強いる原因となっている疾患である。今年度は、社会問題になっている加水分解小麦に対するアレルギーの実態把握と病態解明と同時に、その他の小児・成人の食物アレルギーに関する臨床研究、成人の薬剤アレルギーに関する疫学研究を行った。
研究方法
手島(国立医薬品食品衛生研究所)らは、動物実験モデルにおいて、加水分解小麦の感作能を評価した。さらに独自に開発した細胞を用いるin vitro惹起試験を用いて、加水分解小麦の惹起能を検討した。板垣(北海道文教大学)らは、ウエスタンブロッティング、クロマトグラフィ、グルテンの酵素分解と逆相クロマトグラフィによるペプチドマッピングにより、加水分解小麦の抗原性に関して検討した。千貫(島根大学)らは、各種の加水分解小麦を対象に、ウエスタンブロット法、患者好塩基球活性化マーカーCD203c発現測定によりアレルゲン性の違いについて検討した。岸川(福岡病院)らは加水分解小麦関連経口小麦アレルギー症例の、長期予後に関して検討した。東(金沢大学)らインターネットを介して、小麦アレルギーの大規模疫学調査を行い、調査結果の妥当性に関して検討した。谷口(相模原病院)らは、インターネットを介して薬剤アレルギーの疫学調査を行い、薬剤アレルギーの危険因子解析を行った。相原(横浜市立大学)らは、成人大豆アレルギー患者の感作プロファイル解析を行った。福冨(研究代表者)らは、成人果物野菜アレルギー患者の感作プロファイル解析を行った。海老澤(相模原病院)らは、小児鶏卵アレルギー患者の抗原刺激時の末梢血好塩基球CD203c発現量の測定が鶏卵負荷試験の重症度予測に有用かどうかを検討した。
結果と考察
加水分解小麦への経皮経粘膜感作によって発症した小麦アレルギー(主に(旧)茶のしずく石鹸による小麦アレルギー)に関して、本研究で明らかになったことを要約すると以下のとおりである。

1)当該疾患による小麦アレルギーは、小麦の経口摂取により発症した小麦アレルギーと臨床像が大きく異なる(H23年度成果)。
2)臨床的観察から、当該疾患の患者の大部分が加水分解小麦を含有する「(旧)茶のしずく石鹸」を使用していた(H23年度成果)。
3)この石鹸の使用と小麦アレルギーの流行の疫学的な関係も証明された(H23年度成果)。
4) この石鹸に含有されていたグルパール19Sという加水分解小麦は、天然の小麦にはない独自の抗原性を有している(H23年度成果)。さらにこの抗原性にはグルテンの脱アミド化と加水分解小麦の分子量が大きく関与している(H24年度成果)。
5)グルパール19Sは、天然小麦に比べて新規の感作能力という意味でも、抗原性が高い(H24年度成果)。
6)当該疾患は石鹸の使用の中止(加水分解小麦への暴露の消失)により、病態が改善傾向に向かう患者が多いが、現状では完治している症例は稀である(H24年度成果)。

今後は、グルテンの脱アミド化がどの程度新規の感作性の亢進に寄与していたか、共存する界面活性剤の感作性に与える影響、脱アミド化したエピトープによるエピトープ解析を行ってゆく予定である。
果物野菜アレルギーに関しては、PR-10タンパクへの感作の重要性が再確認された。今後は、PR-10の次に重要なプロフィリン感作の臨床的意義について検討する必要があると考えている。また、これらの知見は、上述の化粧品関連食物アレルギーと合わせて、成人食物アレルギーの発症において腸管外感作ルートに特に留意しなければいけないことを示していると考察する。
 薬剤アレルギーの危険因子も明らかになった。今回の検討では薬剤アレルギーの危険因子として肥満が上がってきており、薬剤アレルギーにも生活習慣病的因子が関与している可能性が示唆された。
結論
今年度は、現在社会問題になっている加水分解小麦に対するアレルギーの実態把握と病態解明、さらには正確な情報の普及啓発活動を最重要課題とし、研究を進めてきた。来年度以降も加水分解小麦アレルギーに関する知見を早急に集積し、その結果を行政に還元、一般市民に普及啓発してゆくとともに、その他の原因による成人アナフィラキシーの実態解明、病態解明に関する研究を進めてゆく。

公開日・更新日

公開日
2013-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201229033Z