末梢血単核球の網羅的遺伝子発現解析による関節リウマチに対するトシリズマブの薬効予測と効果発現機序の解明

文献情報

文献番号
201229032A
報告書区分
総括
研究課題名
末梢血単核球の網羅的遺伝子発現解析による関節リウマチに対するトシリズマブの薬効予測と効果発現機序の解明
課題番号
H23-免疫-若手-020
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
池田 啓(国立大学法人千葉大学 医学部附属病院アレルギー・膠原病内科)
研究分担者(所属機関)
  • 中島 裕史(千葉大学大学院医学研究院遺伝子制御学)
  • 廣瀬 晃一(千葉大学大学院医学研究院遺伝子制御学)
  • 高取 宏昌(国立大学法人千葉大学 医学部附属病院アレルギー・膠原病内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究では、末梢血単核球(PBMC)およびCD4陽性T細胞の網羅的遺伝子発現解析のデータをもとに、1) トシリズマブ(TCZ)の薬効予測モデルを構築し実用化すること、2) TCZの新規薬効評価マーカーを同定すること、3) TCZ効果発現の分子機構を解明することを目的とする。
研究方法
 TCZを新規に投与したRA患者を6ヵ月間経過観察し、治療効果判定を行った。TCZ治療前後のPBMCおよびCD4陽性T細胞における遺伝子発現の網羅的解析をDNAアレイを用いて行い、治療効果予測マーカーおよび治療効果判定マーカーの抽出を行った。候補マーカーについては半定量的PCRによる遺伝子発現の確認を行った。さらにTCZ有効例特異的に治療前後でCD4陽性T細胞において発現の変化する遺伝子を抽出し、そのCD4陽性T細胞分化における役割を解析した。
結果と考察
 トレーニングコホート20症例において、TCZ治療開始6ヵ月後、CDAI変化量による無効群(n = 3)と有効群(n = 13)、また医師総合評価による無効群(n = 3)と有効群(n = 17)がそれぞれ同定された。それぞれの治療効果判定基準での無効群と有効群でt検定にてp値の低い上位20遺伝子を抽出したところ、共通する17遺伝子が同定された。同定された17遺伝子を用いたクラスター解析では、いずれの効果判定方法でも無効群3症例が異なる発現パターンとして分離された。17遺伝子中10遺伝子につき、複数検体でreal-time PCRとDNAアレイのシグナル値との相関を解析し、10遺伝子中5遺伝子において両者の高い相関が認められた。しかしながらバリデーションコホートの無効症例におけるDNAアレイ解析の中間結果では、初期解析とは異なるプローブが抽出された。
 TCZ投与症例およびコントロール薬剤投与症例の有効例において、末梢血CD4陽性T細胞のDNAアレイ解析で治療後12週で有意にシグナル値の変動するプローブをそれぞれ上位100個ずつ抽出した。その中でTCZ特異的に発現が変動している遺伝子が18個抽出され、17遺伝子はTCZにより発現が低下する遺伝子であった。その中で従来ヘルパーT細胞分化に関する知見のない遺伝子Xに注目した。
 ヒト末梢血およびマウス脾臓由来のナイーブCD4陽性T細胞から各種条件で分化誘導した細胞では、Th17細胞において遺伝子XのmRNA発現が亢進していた。マウス脾臓由来のCD4陽性T細胞にレトロウイルスベクターを用いて遺伝子Xを強制発現させると、興味深いことにTh17細胞分化が低下した。Treg細胞分化に対する影響はなかった。T細胞特異的STAT3欠損マウス由来のTh17細胞では遺伝子XのmRNA発現が著明に低下していた。レポーター解析では遺伝子Xの強制発現はRORgtによるIL-17発現を抑制し、またウェスタンブロットにより蛋白XとRORgtの直接結合が示された。
結論
 TCZ投与RA患者の末梢血単核球の網羅的遺伝子発現解析により薬効予測遺伝子候補ならびに薬効反映遺伝子候補が抽出された。薬効反映遺伝子候補のうち、遺伝子Xに関しては既にTh17細胞分化への関与を明らかにしている。次年度以降の追加の検証とより詳細な解析により、TCZの薬効予測の実用化、新規薬効評価マーカーの同定、TCZ効果発現の分子機構の解明が期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201229032Z