卵膜由来間葉系幹細胞を用いた難治性疾患に対する新規移植再生療法の開発

文献情報

文献番号
201229023A
報告書区分
総括
研究課題名
卵膜由来間葉系幹細胞を用いた難治性疾患に対する新規移植再生療法の開発
課題番号
H23-免疫-一般-011
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
池田 智明(国立循環器病研究センター 周産期・婦人科部)
研究分担者(所属機関)
  • 高原 史郎(大阪大学大学院医学系研究科先端移植基盤医療学・移植学)
  • 丸井 晃(京都大学医学部附属病院探索医療センター・心臓血管外科学)
  • 相馬 俊裕(兵庫医科大学・血液内科・血液学)
  • 田口 明彦(先端医療振興財団先端医療センター再生医療研究部・神経細胞学)
  • 大西 俊介(北海道大学大学院医学研究科消化器内科学分野・消化器学)
  • 山原 研一(国立循環器病研究センター再生医療部・再生医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,092,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、骨髄や脂肪組織などに存在する間葉系幹細胞(MSC:mesenchymal stem cells)を用いた再生医療応用研究が行われている。我々は自己骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)移植の難治性心不全に対する基礎および臨床応用研究(臨床試験登録:UMIN000000656)を行い、その効果をヒトを含め証明してきた。自己骨髄MSCは、その樹立に侵襲を伴い重病人には不適である、培養時間を要するため迅速対応が困難である、白血病など骨髄疾患では不適である、といった問題点がある。これら問題を解決すべく、最近我々は通常破棄され、侵襲性がなく、倫理的問題の少ない胎児付属物である卵膜・臍帯からMSCの樹立に成功し、その細胞移植による組織再生効果を確認している。このように組織再生を目的とした研究が進んできたMSC移植であるが、最近ではその免疫調節作用が注目され骨髄移植におけるGVHD予防、クローン病、敗血症などに効果のある可能性が示され、臨床応用も開始されつつある。
研究方法
昨年度に引き続き、卵膜MSCによる免疫・炎症調節機能解析、並びに各分担研究者の専門分野においてその治療が問題となっている難治性疾患のモデル動物確立と卵膜MSC移植による治療効果検討を行った。ラット腎虚血再灌流障害モデルを用い、卵膜MSC移植による病態改善効果ならびにその作用機序を検討した。人工心肺モデルを確立し、卵膜MSC移植による抗炎症効果、臓器保護効果を証明した。ラット炎症性腸疾患モデル、を確立し、病理学的評価並びに局所における炎症性サイトカイン分泌の検討、更には卵膜MSC移植による治療効果を証明した。更に今年度は胎児付属物MSCの早期臨床応用を目指し、特に骨髄MSCにおいて先行治験が行われている同種造血幹細胞移植後の急性GVHDに対する治療応用を検討した。胎児付属物MSCの同種造血幹細胞移植後の急性GVHDに対する臨床試験の準備を開始した。臨床試験使用に相応しい胎児付属物MSC調整を目指し、その製剤化に向けた検討を行った。
結果と考察
①ラット腎虚血再灌流障害モデルにおける卵膜MSC移植による治療効果検討、ラット腎虚血再灌流障害モデルは、Lewisラットの右腎を摘出後、左腎動脈を60分間結紮することで作成した。再灌流時に卵膜MSC(5x105細胞)を経静脈的に投与した。再灌流後の評価から、卵膜MSC移植により、血中BUN・クレアチニンの改善、病理学的所見におけるT細胞・マクロファージ浸潤の改善、腎組織におけるMCP-1やIL-6の発現減少、を認めた。更に卵膜MSC移植による治療効果にIL-10増加が関与していることを、同モデルにおける中和抗体を用いた検討により確認した。卵膜MSC移植が腎虚血再灌流モデルにおいて、治療効果を発揮することが明らかとなった。②ラット人工心肺モデルにおける卵膜MSC移植による治療効果検討、ラット人工心肺モデルを、ラット用の人工心肺回路を独自考案し、作成した。人工心肺により著明に増加した血中および肺組織中のTNF-やIL-6濃度は、卵膜MSCに移植により顕著に減少し、組織学的検討においてもその肺障害が移植により抑制されていた。更に、卵膜MSC移植による肺障害抑制メカニズムを検討したところ、KGF発現増加が関与していることが示唆された。④ラット炎症性腸疾患における卵膜MSC移植による治療効果検討、ラット炎症性腸疾患モデルは8%デキストラン硫酸(DSS)を5日間連日経口投与し作成した。投与開始2日目に卵膜MSC(1x106)を経静脈的に投与し、細胞投与4日間の体重変化・臨床重症度検討と、4日目の大腸の長さ、病理学的検討を行ったところ、全ての項目において、卵膜MSC移植による改善を認めた。組織学的検討では卵膜MSC移植による腸管組織におけるマクロファージ浸潤の抑制を認めた
結論
卵膜MSC移植による各種難治性疾患に対する新たな治療法確立を目指し、様々なモデル動物の確立に加え、作成したモデル動物に対する卵膜MSC移植の、免疫・炎症調整効果による病態改善を確認した。更に、卵膜・臍帯MSC移植の早期臨床応用を目指し、既に骨髄MSCを用いた治験が進んでいる急性GVHD治療応用を検討し、その細胞調整、第一相臨床試験の整備を行った。来年度は同臨床試験の開始を予定しており、今後、GVHDやCrohn病を含む各種難治性免疫関連疾患に対し、胎児付属物MSCを用いた新規細胞治療を強力に推進していきたい。

公開日・更新日

公開日
2013-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201229023Z