HLA不適合血縁者間移植の安全性および有効性向上のための包括的研究

文献情報

文献番号
201229021A
報告書区分
総括
研究課題名
HLA不適合血縁者間移植の安全性および有効性向上のための包括的研究
課題番号
H23-免疫-一般-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
神田 善伸(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小川 啓恭(兵庫医科大学 医学部)
  • 千葉 滋(筑波大学 医学群)
  • 谷口 修一(国家公務員共済組合連合会虎の門病院)
  • 田中 淳司(北海道大学大学院 医学研究科)
  • 平家 勇司(国立がん研究センター中央病院)
  • 一戸 辰夫(広島大学 医学部)
  • 高橋 義行(名古屋大学 医学部)
  • 前田 嘉信(岡山大学 医学部)
  • 森田 智視(横浜市立大学附属市民総合医療センター)
  • 熱田 由子(名古屋大学大学院 医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,880,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 HLA適合ドナーがいない患者のためにHLA不適合血縁者間移植が開発されている。国内では体外でのT細胞除去を行わない(非T細胞除去)独自のHLA不適合移植方法に関する世界の最先端の開発研究が行われている。本研究班では様々な方法で行われているHLA不適合移植の利点、欠点を明確にするとともに、臍帯血移植との優劣についても評価し、さらにHLA不適合移植の治療成績を改善するための基礎的な研究、医療費、薬剤の保険適応外使用の対策、ガイドラインの発表を含め、包括的な研究を行う。
研究方法
 平成24年度は、後述する様々な手法によるHLA二抗原以上不適合移植法の臨床試験を継続した。非介入の臨床研究としては造血細胞移植学会データベース用いた大規模な移植成績の解析を行った。基礎研究ではHLA不適合移植後の最大の問題である免疫回復の遷延について、移植後に問題となりやすい病原微生物や腫瘍抗原に対する特異的な免疫能の質的、量的評価を行う系を確立した。その他、マウスGVHDにおいてシクロスポリンやエバロリムスなどの免疫抑制剤がおよぼす影響の解析など多彩な研究が行われた。
結果と考察
 母子間免疫寛容を利用したHLA不適合移植は佐賀大学における臨床試験として進行している。兵庫医大の強力免疫抑制剤を併用したHLA不適合移植は体内T細胞除去薬をサイモグロブリンに変更し、その投与量を徐々に減量する臨床試験に移行している。自治医大さいたま医療センターのアレムツズマブを用いたHLA不適合移植は医師主導治験が終了し、アレムツズマブ減量の自主臨床試験を開始した。移植後シクロホスファミドを用いるHLA不適合移植は筑波大学で、体外でCD34陽性細胞を選択したHLA不適合移植およびHSV-TK遺伝子導入リンパ球輸注療法は国立がん研究センター中央病院で進行している。
 後方視的研究については、昨年度のHLA一抗原不適合血縁者間移植とHLA適合非血縁者間移植の比較に続き、HLA一抗原不適合血縁者間移植と非血縁者間臍帯血移植の比較を行い、現状のHLA一抗原不適合血縁者間移植の問題点としてGVHDの発症頻度が高いこと、そして抗ヒト胸腺細胞抗体を用いることで生存率が改善する傾向にあることを見いだした。この研究に基づいてHLA一抗原不適合血縁者間移植における至適なGVHD予防方法を模索する前方視的臨床試験を立案し、日本造血細胞移植学会主導研究として計画を進めている。
 統計ソフトウェア開発についてはマウス操作だけで一般的な名義変数、連続変数、生存期間の解析に加えて、移植領域の統計解析で必須となる時間依存性変数を扱う解析や競合イベントを扱う解析が実行できるソフトウェア(EZR)が完成し、自治医科大学附属さいたま医療センターのホームページで無料公開している。このソフトウェアを紹介する論文がBone Marrow Transplantation誌に掲載され、世界的にも広く使用されるようになると予想される。
 特異的免疫能の評価系についてはサイトメガロウイルスおよびEBウイルスに特異的に働く細胞傷害性T細胞をテトラマーによって同定する系が確立された。さらに細胞傷害性T細胞を単一細胞に分離した上でT細胞受容体レパトアの解析を行ったところ、ドナー由来の細胞傷害性T細胞がサイトメガロウイルス再活性化の抑制に貢献していることや、細胞傷害性T細胞の形質によって抗ウイルス能が異なることが示唆された。また、マウス慢性GVHDモデルにおいてシクロスポリンは制御性T細胞(Treg)の再構築を阻害して慢性GVHDの基礎的病態を形成するのに対して、mTOR阻害薬のエバロリムスやラパマイシンはTreg再構築を阻害しないことが明らかとなった。mTOR阻害薬は移植後免疫寛容を誘導し、慢性GVHDの治療薬として期待される。
結論
 本年度も前方視的臨床試験、後方視的臨床研究、基礎的研究のいずれにおいても順調な進捗を示している。HLA二抗原以上不適合の血縁ドナーは95%以上の患者が有するため、本研究でHLA不適合移植の有用性を明らかにすることで、将来的には骨髄バンク、さい帯血バンクのドナープール拡大の負担を軽減することが期待できる。また、様々なHLA不適合移植法の利点、欠点を明確にするとともに、臍帯血移植との優劣についても評価し、診療現場での治療選択に役立つ情報を提供する。医療経済的な観点からも比較することによって、社会と適合した健全な移植医療の発展が期待される。今後は、ガイドラインを作成することによって幅広く情報を発信する。また、本研究班の基礎的な研究成果は、HLA不適合移植のみならず、同じくHLA不適合の存在が前提となっている臍帯血移植の治療成績の改善にも応用することができる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201229021Z