関節リウマチにおける骨髄・骨格形成細胞間ネットワークの解明と根治療法の開発

文献情報

文献番号
201229015A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチにおける骨髄・骨格形成細胞間ネットワークの解明と根治療法の開発
課題番号
H23-免疫-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
西本 憲弘(東京医科大学 医学総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 中畑 龍俊(京都大学iPS細胞研究所)
  • 大平 充宣(大阪大学大学院医学系研究科 生命機能研究科 適応生理学教室)
  • 吉川 秀樹(大阪大学大学院医学系研究科 器官制御外科学 整形外科学)
  • 小守 壽文(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 生命医科学講座 細胞生物学分野)
  • 下村 伊一郎(大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学)
  • 田中 栄(東京大学医学部附属病院 整形外科・脊椎外科)
  • 桑名 正隆(慶應義塾大学医学部 リウマチ内科)
  • 松尾 光一(慶應義塾大学医学部 共同利用研究室 細胞組織学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
10,320,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
関節リウマチ(RA)の原因病巣は骨髄の可能性がある。そこで、RA患者の骨髄細胞の機能異常を明らかにするとともに、RA病態形成に関わる免疫細胞や骨、軟骨、筋細胞など骨格形成細胞の骨髄間葉系細胞からの初期分化における異常と増殖・分化制御機構を明らかにすることを目的とした。
研究方法
①RA患者の骨髄細胞の機能異常の解析: RA患者の腸骨から採取した骨髄細胞における遺伝子発現プロフィールを、マイクロアレイを用いて網羅的に解析した。さらにバイオインフォマティクス・ツールを用いて細胞機能異常を検討した。また、RA患者の骨髄に存在するCD14+CD15+細胞機能の解析を行った。
②RA骨髄造血細胞分化異常の解析:ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)から単球、マクロファージ、樹状細胞へ高純度に分化させる系を確立するとともに、インフォームドコンセントを得た親子あるいは同胞内発症のRA患者と未発症者の血液単核球ならびに皮膚線維芽細胞を用いて、RA患者特異的iPS細胞の樹立を試みた。
③RA骨髄間葉系由来の細胞間ネットワークと増殖・分化の制御機構異常の解析:骨細胞ネットワークを破綻させた遺伝子改変マウスを用い、骨細胞による骨量調節機構を解析した。また、破骨細胞特異的Stat5欠損マウスを用いて、破骨細胞分化機構を解析した。マウスにLPSを投与し炎症惹起によるOsteoprotegerin産生誘導メカニズムを、筋損傷マウスモデルを用いて筋再生促進メカニズムを、そしてアディポネクチンによる補体経路への作用を解析した。さらに骨・軟骨・滑膜のin vitro三次元培養組織を作製し、力学負荷細胞応答と関節治療薬剤の効果を検討した。臨床研究に関する倫理指針、ヒトゲノム・遺伝子解析研究指針、疫学研究指針、ヒトES指針に則って実験計画を提出し、それを遵守して研究を行った。
結果と考察
①RA患者の骨髄細胞の機能異常の解析:RA患者骨髄で末梢血では見られない免疫細胞の活性化、アポトーシスの亢進、骨格形成、筋肉形成、DNAパッケージング機能の低下が確認された。免疫応答関連分子のネットワーク解析では、インターフェロン、TNFなどのサイトカインが中心に位置した。RA骨髄に特徴的なCD14+CD15+細胞が、一部の患者末梢血中に存在することを昨年報告したが、この細胞はCXCR4lowであり、CD14+CD15-CXCR4high単球とは異なりTNF産生が亢進し、RA病態と矛盾しない。
②RA骨髄造血細胞分化異常の解析:iPS細胞株から単球系細胞へ安定して、かつ80-90%の純度で分化誘導が可能であった。マクロファージは刺激に対してM1/M2それぞれに一致するサイトカイン分泌能を示した。トシリズマブ使用中の2例、MTX使用中の1例ならびに健常人コントロールからiPS細胞の作製を試みた。末梢血単核球では、健常人からは8クローン、MTX使用例から5クローンが樹立できたが、トシリズマブ使用例からは1クローンしか樹立できなかった。現在、皮膚線維芽細胞からの作成を行っている。
③RA骨髄間葉系由来の細胞間ネットワークと増殖・分化の制御機構異常の解析:骨細胞ネットワークが破綻するBCL2tgマウスでは運動負荷による骨量の増加を認めなかった。BCL2tgマウスの骨芽細胞では誘導されない遺伝子としてFkbp5を同定した。Fkbp5 KOマウスの雌で有意な骨量低下を認めた。樹状細胞、好中球、リンパ節の内皮細胞がLPSに応答してOPGを産生し,炎症における骨量減少にOPGの関与が示された。破骨細胞特異的Stat5欠損マウスでは骨吸収が亢進し、Stat5の強制発現では骨吸収能は低下した。今後RA特異的iPS細胞を用いてこれらの機能をin vitroで検討したい。筋損傷後に浸潤する炎症系細胞はCD68陽性のマクロファージであり、IL-6阻害により線維化に関与するIL-10 やArginase の発現が抑制された。RA滑膜細胞由来三次元培養組織では、力学負荷によりIL-6, IL-8, PGE2、COX-2、マトリックス分解酵素の発現は亢進した。この系を用いたRA治療薬のスクリーニングが可能である。補体C1qと結合するアディポネクチンの過剰発現によって、マウスの関節炎が抑制され、RA病態への関与が示唆された。
結論
RA患者の骨髄細胞異常が明かになるとともに、骨格形成細胞の分化制御機構が明らかになりつつある。骨髄異常がどの分化段階で生じているかを明らかにし、根治療法の研究へと結び付けたい。

公開日・更新日

公開日
2013-04-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201229015Z