ヒト関節リウマチ特異的CD4陽性細胞および血漿・関節液miRNAの同定と治療・診断への応用

文献情報

文献番号
201229012A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト関節リウマチ特異的CD4陽性細胞および血漿・関節液miRNAの同定と治療・診断への応用
課題番号
H22-免疫-若手-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
吉富 啓之(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 孝志(京都大学 医学研究科 )
  • 伊藤 宣(京都大学 医学研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
6,020,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
関節リウマチの病態は充分に解明されているとはいえず、それが治療無効例につながっていると考えられる。不十分な病態解明の原因の1つには動物モデルとヒト関節リウマチの病態や免疫反応の違いがあると考えられ、実際にマウスモデルで得られた知見がヒトの疾患に応用できないことはしばしば経験される。そこで我々は関節リウマチ患者由来の検体から研究シードを探索し解析するという方針で研究を行ってきた。本研究ではヒト関節リウマチにおけるCD4陽性T細胞の役割の解明と疾患特異的マイクロRNAの同定を目的としている関節リウマチの病態を明らかにするために、1.関節リウマチ特異的な血漿・関節液中マイクロRNAの解析、2.マイクロRNAによる関節炎制御の解析、3. ヒト関節リウマチ関節炎中のリンパ球の解析、の3つの課題に関して研究を行った。
研究方法
1. 血漿中マイクロRNAによる関節リウマチ診断および病勢判定の臨床応用を目指し、血漿中マイクロRNAの網羅的な解析を行った。さらに、候補血漿中マイクロRNAに対して臨床的な状況にてどの程度の感度特異度、および臨床マーカーとの相関を認めるのかを、100人の健常人と関節リウマチ患者の血漿を用いて検証した。
2. 血漿中マイクロRNAはマーカーとしての役割だけでなく、自己免疫性関節炎の病態に関与している可能性がある。本解析では、詳細に機序を解明するために関節炎モデルを用いて解析した。関節炎にて変化するマイクロRNAがどのように関節炎の病態に関与するのかを、マイクロRNAが標的とする遺伝子や信号伝達系、さらに細胞群を明らかにすることを試みた。
3. 本研究では関節リウマチ患者の炎症滑膜に存在するCD4陽性細胞の組織内での分布や、表面抗原および産生するサイトカインの解析を行うことで、関節リウマチの未知の病態を明らかにし新たな治療へとつなげることが出来ると考え解析を行った。
結果と考察
1. 関節リウマチ特異的な血漿中マイクロRNAの解析
網羅的に解析されたマイクロRNA768個のうち健常人、関節リウマチそれぞれ3検体の解析で候補となった一次候補血漿中マイクロRNAは26種であった。これらのマイクロRNAについて、それぞれ100名の健常人と関節リウマチ患者を区別するROC解析にて、優れた検査の指標であるAUC0.8以上となるマイクロRNAはmiR-24、miR-26a、miR-125a-5pの3種類認められ、それぞれ感度63.7%で特異度89.5%、感度53.9%で特異度94.3%、感度64.7%で特異度89.5%であった。また、血漿中マイクロRNAの内、内部標準的な変化を示すものとしてmiR-30a-5pを同定した。これとmiR-24、miR-125a-5pを組み合わせた複合値 (Estimated Probability of RA by plasma MiRNA (ePRAM))を作成することにより、78.4%の感度と92.3%の特異度が得られた。また、抗CCP抗体陰性症例と陽性症例とでそれぞれの診断率を見たところ有意な差を認めなかったことから、血漿中マイクロRNAを用いて抗CCP抗体陰性症例の診断の臨床応用が期待された。
2. マイクロRNAによる関節炎制御
関節リウマチ患者の血漿にて低下する傾向を認め関節炎モデルでも関節炎にて血漿中濃度が低下するマイクロRNA、miR-451を同定した。マウスに対してmiR-451の導入を行うとp38 MAPKのリン酸化の抑制を介して好中球の遊走が阻害された。またmiR-451の全身投与により自己免疫性関節炎モデルでの関節炎重症度が低下した。
3.関節リウマチ滑膜炎局所に、Th1やTh17細胞と発現パターンの異なるCD4陽性T細胞集団が多数存在し、その機能には炎症性サイトカインが関与することを明らかにした。
結論
ヒト関節リウマチ検体を解析することで動物モデルからは得られない新たな研究シードを探索し、関節リウマチの新たな病態を明らかにする事を目的として本課題の研究を行った。その結果として、抗CCP抗体陰性患者にも使用可能な関節リウマチ特異的な血漿中マイクロRNA有用性、マイクロRNAが好中球を介して関節炎に作用するあらたな機序、さらにリウマチ滑膜炎局所に浸潤するCD4陽性細胞の新たな特徴を明らかにすることができた。これらの成果は、抗CCP抗体陰性患者の早期診断や、既存薬に抵抗性の関節リウマチ患者に対する新たな治療へとつなげることができると考える。

公開日・更新日

公開日
2013-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201229012B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒト関節リウマチ特異的CD4陽性細胞および血漿・関節液miRNAの同定と治療・診断への応用
課題番号
H22-免疫-若手-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
吉富 啓之(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 孝志(京都大学 医学研究科 )
  • 伊藤 宣(京都大学 医学研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
関節リウマチの病態は充分に解明されているとはいえず、それが治療無効例につながっていると考えられる。不十分な病態解明の原因の1つには動物モデルとヒト関節リウマチの病態や免疫反応の違いがあると考えられ、実際にマウスモデルで得られた知見がヒトの疾患に応用できないことはしばしば経験される。そこで我々は関節リウマチ患者由来の検体から研究シードを探索し解析するという方針で研究を行ってきた。本研究ではヒト関節リウマチにおけるCD4陽性T細胞の役割の解明と疾患特異的マイクロRNAの同定を目的としている。
研究方法
関節リウマチの病態を明らかにするために、1.ヒト関節リウマチ病態におけるIL-27の役割、2.関節リウマチ特異的な血漿・関節液中マイクロRNAの解析、3.マイクロRNAによる関節炎制御の解析、4. ヒト関節リウマチ関節炎中のリンパ球の解析、の4つの課題に関して研究を行った。
結果と考察
1. ヒト関節リウマチ病態におけるIL-27の役割  血漿中IL-27濃度は関節リウマチ、変形性関節症、健常人共に有意差はなかったが、関節液においては、関節リウマチでは100pg/ml程度のIL-27が存在したのに対し、変形性関節症ではほとんど検出されなかった。滑膜組織の免疫染色では、関節リウマチには多数のIL-27産生性CD14細胞の浸潤が認められたが、変形性関節症にはほとんど認めなかった。TNFαおよびIL-17により誘導される繊維芽細胞様滑膜細胞からのIL-6およびCCL20の産生はIL-27により抑制された。関節リウマチの関節液において、IL-27とIFN-γ濃度は有意な正の相関を示したのに対し、IL-27とIL-17は弱い負の相関を示した。これらのこのことから、関節リウマチ関節においてIL-27は実際にTh1の産生を促し、Th17の分化や遊走を抑制していることが示唆された。
2. 関節リウマチ特異的な血漿中マイクロRNAの解析
網羅的に解析されたマイクロRNA 768個のうち健常人、関節リウマチそれぞれ3検体の解析で候補となった一次候補血漿中マイクロRNAは26種であった。これらのマイクロRNAについて、それぞれ100名の健常人と関節リウマチ患者を区別するROC解析にて、優れた検査の指標であるAUC0.8以上となるマイクロRNAはmiR-24、miR-26a、miR-125a-5pの3種類認められ、それぞれ感度63.7%で特異度89.5%、感度53.9%で特異度94.3%、感度64.7%で特異度89.5%であった。また、血漿中マイクロRNAの内、内部標準的な変化を示すものとしてmiR-30a-5pを同定した。これとmiR-24、miR-125a-5pを組み合わせた複合値 (Estimated Probability of RA by plasma MiRNA (ePRAM))を作成することにより、78.4%の感度と92.3%の特異度が得られた。また、抗CCP抗体陰性症例と陽性症例とでそれぞれの診断率を見たところ有意な差を認めなかったことから、血漿中マイクロRNAを用いて抗CCP抗体陰性症例の診断の臨床応用が期待された。
3. マイクロRNAによる関節炎制御
関節リウマチ患者の血漿にて低下する傾向を認め関節炎モデルでも関節炎にて血漿中濃度が低下するマイクロRNA、miR-451を同定した。マウスに対してmiR-451の導入を行うとp38 MAPKのリン酸化の抑制を介して好中球の遊走が阻害された。またmiR-451の全身投与により自己免疫性関節炎モデルでの関節炎重症度が低下した。
4.関節リウマチ滑膜炎局所に、Th1やTh17細胞と発現パターンの異なるCD4陽性T細胞集団が多数存在し、その機能には炎症性サイトカインが関与することを明らかにした。
結論
以上の様にヒト関節リウマチ検体を用いた研究により、Th17細胞の分化遊走を抑制するIL-27産生細胞のリウマチ滑膜組織内への存在、抗CCP抗体陰症例にも使用可能な関節リウマチ特異的な血漿中マイクロRNAの有用性、マイクロRNAが好中球を介して関節炎に作用する新たな機序、さらにリウマチ滑膜炎局所に浸潤するCD4陽性細胞の新たな特徴を明らかにすることができた。これらの成果は、抗CCP抗体陰性患者の早期診断や、既存薬に抵抗性の関節リウマチ患者に対する新たな治療へとつなげることができると考える。

公開日・更新日

公開日
2013-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201229012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では学術的に大きく貢献する成果を複数得ている。本研究で見出した、関節リウマチ滑膜炎でのTh1やTh17細胞と独立したCXCL13産生CD4T細胞分画の存在と、炎症性サイトカインによるそれら新規細胞群の制御は、ヒトリンパ球分化の観点から免疫学の進歩に大きく貢献している。またマイクロRNAの研究から見出したmiR-451によるp38MAPKの抑制を介した好中球遊走の制御も、これまで知られていなかった新たな炎症の制御機構であり、関節リウマチのみならず様々な分野の現象の理解に貢献すると考えられる。
臨床的観点からの成果
本研究で見出した関節リウマチ特異的血漿中マイクロRNAであるmiR-24とmiR-125a-5pおよびそれらの複合値であるePRAMは新機軸のバイオマーカーであり、100名以上の患者からの解析にてそれぞれ63.7%、64.7%、78.4%の感度および89.5%、89.5%、92.3%の特異度を示した。さらに、抗CCP抗体陰性症例に対しても陽性症例と同様の診断率を示し、新分類準にて診断の遅れが指摘される抗CCP抗体陰性症例に対する早期診断への貢献ならびに新規細胞を標的とした治療が期待される。
ガイドライン等の開発
本研究で見出した関節リウマチ特異的血漿中マイクロRNAは、発症予測性や予後予測性をさらに解析する事により将来的には新たな関節リウマチの診断基準に使用される可能性がある知見であると考えている。また本研究は患者サンプルから研究のシードを探索するという方向性で研究を行い複数の重要な成果を得たことから、動物モデルだけではなく臨床検体から新たな知見を探すことの重要性を示したという意味でも有意義であると考える。
その他行政的観点からの成果
関節リウマチは早期に診断し早期に治療を開始することにより、関節変化を抑制することで患者の不可逆な日常生活動作能力の低下を防ぐことができると考えられている。ところが抗CCP抗体とリウマチ因子が両方陰性の症例では、早期診断を目的とした新分類基準でも確定診断を得るためには11箇所以上の関節に病変を認める必要があり早期診断は難しい。本研究で見出した新機軸のバイオマーカーである血漿中マイクロRNAは抗CCP抗体陰性患者の診断を通じてADLの低下を防ぎ、患者の健康および医療経済の面で行政に貢献できる。
その他のインパクト
本研究の成果は日本リウマチ学会にてJCR2011ワークショップ賞、JCR 2013およびJCR2014 International Workshop Awardを受賞しており、リウマチの臨床および研究に十分なインパクトを与えた。さらにCXCL13産生CD4細胞と血漿中マイクロRNAの研究成果は新聞にも取り上げられ、本研究の成果を社会全体に対してアナウンスすることができた。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
15件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
免疫系の異常疾患または関節系の異常疾患への罹患またはこれらの病勢を判定するための検査方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2010-101467
発明者名: 吉富啓之、村田浩一
権利者名: 吉富啓之、村田浩一
出願年月日: 20100408
国内外の別: 国内
特許の名称
マイクロRNAによる関節リウマチの診断
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2012-186937
発明者名: 吉富啓之、村田浩一
権利者名: 京都大学
出願年月日: 20120827
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Murata K, Yoshitomi H, Tanida S, et al.
Plasma and synovial fluid microRNAs as potential biomarkers of rheumatoid arthritis and osteoarthritis.
Arthritis Res Ther , 12 (3) , 86-86  (2010)
10.1186/ar3013
原著論文2
Tanida S, Yoshitomi H, Ishikawa M, et al.
IL-27-producing CD14+ cells infiltrate inflamed joints of rheumatoid arthritis and regulate inflammation and chemotactic migration.
Cytokine , 55 (2) , 237-244  (2011)
10.1016/j.cyto.2009.05.009
原著論文3
Kobayashi S, Murata K, Shibuya H, et al.
A distinct human CD4+ T cell subset that secretes CXCL13 in rheumatoid synovium.
Arthritis and Rheumatism , 65 (12) , 3063-3072  (2013)
10.1002/art.38173
原著論文4
Murata K, Furu M, Yoshitomi H, Ishikawa M, et al.
Comprehensive microRNA analysis identifies miR-24 and miR-125a-5p as plasma biomarkers for rheumatoid arthritis.
PLoS One , 8 (7) , e69118-e69118  (2013)
10.1371/journal.pone.0069118
原著論文5
Murata K, Yoshitomi H, Furu M, et al.
MicroRNA-451 Down-Regulates Neutrophil Chemotaxis via p38 MAPK.
Arthritis and Rheumatology , 66 (3) , 549-559  (2014)
10.1002/art.38269
原著論文6
Shibuya H, Yoshitomi H, Murata K, et al.
TNFα, PDGF, and TGFβ synergistically induce synovial lining hyperplasia via inducible PI3Kδ
Modern Rheumatology  (2014)
10.3109/14397595.2014.900847

公開日・更新日

公開日
2018-05-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
201229012Z