制御性T細胞治療による臨床肝移植における免疫寛容誘導法の開発

文献情報

文献番号
201229010A
報告書区分
総括
研究課題名
制御性T細胞治療による臨床肝移植における免疫寛容誘導法の開発
課題番号
H22-免疫-一般-010
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
藤堂 省(北海道大学 大学院医学研究科移植外科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 奥村 康(順天堂大学大学院医学研究科)
  • 垣生 園子(順天堂大学医学部)
  • 寺岡 慧(国際医療福祉大学熱海病院)
  • 場集田 寿(順天堂大学医学部)
  • 山下 健一郎(北海道大学 大学院医学研究科 移植外科学講座)
  • 清野 研一郎(北海道大学遺伝子病制御研究所 免疫生物分野)
  • 上本 伸二(京都大学大学院医学研究科 外科講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
10,228,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肝臓移植は末期肝不全患者に対する究極の治療法として広く普及してきた。しかし、これら移植患者は拒絶反応制御の為に、免疫抑制剤を生涯服用しなければならず、感染症・発癌・薬剤による副作用等の危険性に常に晒され、医学的にも又、医療経済の上からも重要な問題である。従って、これ等の問題を払拭するためには、免疫抑制剤を中止してもグラフトが正常に機能する、いわゆる「免疫寛容の誘導」が必須である。本研究では肝移植患者において、制御性T細胞を用いた細胞治療による免疫寛容誘導法の確立が目的である。
研究方法
肝移植患者を対象とし、レシピエントおよびドナーより成分採血法にて採取した末梢単核球細胞(PBMC)を抗CD80抗体および抗CD86抗体存在下に2週間共培養することでドナー抗原特異的な制御性T細胞を誘導し、細胞治療を行う。グラフト機能、肝生検病理所見や各種モニタリング法を用い免疫状態を検討しながら免疫抑制剤を漸減し、最終的に免疫抑制剤を中止する。
結果と考察
本年度末までに、生体肝移植患者10例において本治療法を施行した。症例3まではPBMCを用い、抗CD80および抗CD86抗体存在下に制御性T細胞を誘導した。症例4以降ではこれにレシピエント脾細胞を加え細胞量増加を図った。本培養法により8例中7例においてCD4+CD25+Foxp3+やCD4+CD127loFoxp3+制御性T細胞が高率に誘導され、特にCD4+CD25+Foxp3+ T細胞は培養開始時に比べ2.7から8.8倍上昇した。また、レシピエントPBMCに培養細胞を添加することでin vitroにおいてドナー抗原に対するMLRは抑制された。肝移植後はステロイド・MMF・カルシニューリン阻害剤(CNI)の3剤で免疫抑制を開始し、術後13日目に培養細胞を輸注した。全症例で培養細胞輸注に伴う副作用は認められなかった。本臨床試験10症例中、8症例で免疫抑制剤の減量に成功した。残り2症例は薬剤減量中に拒絶反応を来したが、その反応は軽微であり、免疫抑制剤増量により肝機能は正常化した。免疫抑制剤の減量に成功した症例のうち4症例は免疫抑制剤から完全に離脱し、現時点において既に4~8ヶ月間、免疫抑制剤フリーで経過している。
結論
肝移植症例10例において、制御性T細胞を用いた新しい免疫抑制療法の臨床試験を施行した。抗CD80・CD86抗体存在下にPBMCを共培養することで制御性T細胞は高率に誘導され、細胞輸注に伴う副作用を認めなかった。10症例中、8症例で免疫抑制剤の減量に成功し、なかでも4症例は免疫抑制剤から完全に離脱していることから、本細胞治療を用いた免疫抑制療法は有効である。免疫寛容誘導効果については今後の経過観察と症例追加が重要である。

公開日・更新日

公開日
2013-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201229010B
報告書区分
総合
研究課題名
制御性T細胞治療による臨床肝移植における免疫寛容誘導法の開発
課題番号
H22-免疫-一般-010
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
藤堂 省(北海道大学 大学院医学研究科移植外科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 奥村 康(順天堂大学 大学院医学研究科)
  • 垣生 園子(順天堂大学医学部 免疫学講座)
  • 寺岡 慧(国際医療福祉大学熱海病院)
  • 場集田 寿(順天堂大学医学部 免疫学講座)
  • 山下 健一郎(北海道大学 大学院医学研究科 移植外科学講座)
  • 清野 研一郎(北海道大学遺伝子病制御研究所 免疫生物分野)
  • 上本 伸二(京都大学大学院医学研究科 外科講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肝臓移植は末期肝不全患者に対する究極の治療法として広く普及してきた。しかし、これら移植患者は拒絶反応制御の為に、免疫抑制剤を生涯服用しなければならず、感染症・発癌・薬剤による副作用等の危険性に常に晒され、医学的にも又、医療経済の上からも重要な問題である。従って、これ等の問題を払拭するためには、免疫抑制剤を中止してもグラフトが正常に機能する、いわゆる「免疫寛容の誘導」が必須である。本研究では肝移植患者において、制御性T細胞を用いた細胞治療による免疫寛容誘導法の確立が目的である。
研究方法
肝移植患者を対象とし、レシピエントおよびドナーより成分採血法にて採取した末梢単核球細胞(PBMC)を抗CD80抗体および抗CD86抗体存在下に2週間共培養することでドナー抗原特異的な制御性T細胞を誘導し、細胞治療を行う。グラフト機能、肝生検病理所見や各種モニタリング法を用い免疫状態を検討しながら免疫抑制剤を漸減し、最終的に免疫抑制剤を中止する。
結果と考察
本年度末までに、生体肝移植患者10例において本治療法を施行した。症例3まではPBMCを用い、抗CD80および抗CD86抗体存在下に制御性T細胞を誘導した。症例4以降ではこれにレシピエント脾細胞を加え細胞量増加を図った。本培養法により8例中7例においてCD4+CD25+Foxp3+やCD4+CD127loFoxp3+制御性T細胞が高率に誘導され、特にCD4+CD25+Foxp3+ T細胞は培養開始時に比べ2.7から8.8倍上昇した。また、レシピエントPBMCに培養細胞を添加することでin vitroにおいてドナー抗原に対するMLRは抑制された。肝移植後はステロイド・MMF・カルシニューリン阻害剤(CNI)の3剤で免疫抑制を開始し、術後13日目に培養細胞を輸注した。全症例で培養細胞輸注に伴う副作用は認められなかった。本臨床試験10症例中、8症例で免疫抑制剤の減量に成功した。残り2症例は薬剤減量中に拒絶反応を来したが、その反応は軽微であり、免疫抑制剤増量により肝機能は正常化した。免疫抑制剤の減量に成功した症例のうち4症例は免疫抑制剤から完全に離脱し、現時点において既に4~8ヶ月間、免疫抑制剤フリーで経過している。
結論
肝移植症例10例において、制御性T細胞を用いた新しい免疫抑制療法の臨床試験を施行した。抗CD80・CD86抗体存在下にPBMCを共培養することで制御性T細胞は高率に誘導され、細胞輸注に伴う副作用を認めなかった。10症例中、8症例で免疫抑制剤の減量に成功し、なかでも4症例は免疫抑制剤から完全に離脱していることから、本細胞治療を用いた免疫抑制療法は有効である。免疫寛容誘導効果については今後の経過観察と症例追加が重要である。

公開日・更新日

公開日
2013-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201229010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
制御性T細胞を用いた新しい免疫抑制療法の臨床試験を生体肝移植症例10例において施行した。レシピエントの末梢単核球細胞をドナー抗原および抗CD80・CD86抗体と共に培養することで、体外にて制御性T細胞は高率に誘導された。また、誘導細胞を肝レシピエントに輸注することで、全例で免疫抑制剤の早期減量がなされ、現在、7症例は免疫抑制剤から完全離脱しており、世界に先駆けて本細胞治療の有効性が示された。
臨床的観点からの成果
臓器移植後は拒絶反応制御の為に、免疫抑制剤を生涯服用しなければならず、感染症・発癌・薬剤副作用等の危険性に常に晒される。本研究で細胞治療を施した70%の肝移植患者は、移植後約1年半で免疫抑制剤から完全に離脱できており、免疫抑制剤の服用のみならずその副作用等からも開放されている。また、他の30%の症例は免疫抑制剤から離脱できていないものの、最小量で移植肝機能は良好に維持されている。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
本研究の直接成果としては、移植患者の免疫抑制剤服用量を軽減もしくは中止できることにある。結果として医療行政的見地からも、高額医療の多くを占める免疫抑制療法と合併症治療にかかる医療経費を軽減でき、国民の保健・医療・福祉の向上等に資するものである。
その他のインパクト
本研究で示された結果はインパクトを有するものであるが、より多くの生体肝移植症例、既に肝移植後を受けている症例や死体肝移植症例においてもその有効が確認されれば、そのインパクトはさらに大きなものとなる。これらは本研究の次のステップとして着手している。また、本研究結果が自己免疫性疾患にも応用できる可能性がある。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2013-06-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201229010Z