純化自己幹細胞移植術による難治性自己免疫疾患治療の免疫再生メカニズムに関する研究

文献情報

文献番号
201229008A
報告書区分
総括
研究課題名
純化自己幹細胞移植術による難治性自己免疫疾患治療の免疫再生メカニズムに関する研究
課題番号
H22-免疫-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
赤司 浩一(九州大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 堀内 孝彦(九州大学 大学院医学研究院)
  • 宮本 敏浩(九州大学 大学病院)
  • 新納 宏昭(九州大学 大学病院)
  • 塚本 浩(九州大学 大学病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
28,980,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
自己免疫疾患の中には進行性の間質性肺炎や皮膚硬化を呈し、治療抵抗性で予後不良の疾患群が依然として存在する。これらの病態への新規治療法として、難治性自己免疫疾患23例に対し自己造血幹細胞移植(自己HSCT)を施行した。本年度の研究では、1) 既移植症例について移植後7年間にわたる有効性を評価するともにCD34陽性細胞純化自己HSCTと非純化自己HSCTを比較する、2) これら既移植症例におけるT細胞受容体レパトアの多様性の変化につき長期間追跡することにより本治療法の有効性とリンパ球の質的変化との関連を明らかにする、3)治療前後の末梢血リンパ球亜分画毎の遺伝子発現プロファイルを明らかにすると共に、SScにて特異的に発現が亢進または低下している遺伝子を抽出し(本年度はDNAM-1)機能解析を行う、事を目的とする。
研究方法
対象はSSc19例、皮膚筋炎3例で自己HSCT後7年間の有効性を評価した。T細胞受容体レパトアの多様性の解析ではSSc患者6例において自己HSCT前後のTCR Vβレパトア分布および相補性決定領域3(CDR3)サイズ分布解析を行った。SSc患者末梢血リンパ球を8分画に分け、遺伝子発現プロファイル解析を施行後、SSc患者において発現亢進していたDNAX accessary molecule 1 (DNAM-1, CD226)に着目し、SSc患者末梢血リンパ球のDNAM-1の発現と病態との関連を検討した。
結果と考察
自己HSCT後、皮膚硬化、間質性肺炎の改善や自己抗体の低下等多くの症例で臨床的寛解が得られ、その効果は7年間持続した。SScに対する自己HSCT 後の5、7年生存率はそれぞれ89%、78%, また5、7年無増悪生存率はそれぞれ65%、57%であり、海外と同等以上の成績であった。有効性のメカニズムを明らかにするため行った自己HSCT後のTCRレパトアの多様性の解析ではSSc患者において治療前は一部のVのCDR3サイズがoligoclonalまたはmonoclonalな分布を示したが、自己HSCT後にTCRレパトアの多様性が有意に回復した。SSc患者リンパ球各亜分画において健常人とは遺伝子発現プロファイルが異なり、自己HSCT後に遺伝子発現プロファイルが正常化する傾向が認められた。この遺伝子発現プロファイル解析においてSSc患者で発現亢進していた遺伝子の中から新しいバイオマーカーの候補としてDNAM-1を同定した。
結論
難治性自己免疫疾患に対する自己HSCTの臨床効果は7年間持続した。自己HSCT後のTCRレパトアの多様性の回復、リンパ球の遺伝子発現プロファイルの正常化等が臨床的寛解の誘導および維持に関連していると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201229008B
報告書区分
総合
研究課題名
純化自己幹細胞移植術による難治性自己免疫疾患治療の免疫再生メカニズムに関する研究
課題番号
H22-免疫-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
赤司 浩一(九州大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 堀内 孝彦(九州大学 大学院医学研究院)
  • 宮本 敏浩(九州大学 大学病院)
  • 新納 宏昭(九州大学 大学病院)
  • 塚本 浩(九州大学 大学病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
自己免疫疾患の中には進行性の間質性肺炎や皮膚硬化を呈し、治療抵抗性で予後不良の疾患群が依然として存在し、その克服が重要な課題となっている。これらの病態への新規治療法として、われわれは、難治性自己免疫疾患23例に対し自己造血幹細胞移植(自己HSCT)を施行した。本研究では、1) 既移植症例について長期間にわたる安全性と有効性を評価する、2) これら既移植症例における再構築リンパ球分画と各分画の遺伝子発現プロファイルの経時的変化を詳細に解析することにより、本治療法の有効性とリンパ球機能変化との関連を明らかにする3)臨床第II相試験のプロトコールを作成し学内の倫理委員会の承認を得、新たな症例において自己HSCTを続行する、事を目的とする。
研究方法
対象は全身性硬化症(SSc)19例、皮膚筋炎3例、ウェゲナー肉芽腫症1例の計23例で自己HSCT後の安全性と有効性を評価した。免疫学的再構築の解析では、治療開始前、自己HSCT直前、自己HSCT1-60ヶ月後にフローサイトメトリーを用いて、リンパ球亜分画の実数を算出した。T細胞受容体レパトアの多様性の解析ではSSc患者6例において自己HSCT前後のTCR Vβレパトア分布および相補性決定領域3(CDR3)サイズ分布解析を行った。SSc患者末梢血リンパ球を8分画に分け、遺伝子発現プロファイル解析を施行後、SSc患者において発現亢進していたDNAX accessary molecule 1 (DNAM-1, CD226)に着目し、SSc患者末梢血リンパ球のDNAM-1の発現と病態との関連を検討した。
結果と考察
自己HSCT後、皮膚硬化、間質性肺炎の改善や自己抗体の低下等多くの症例で臨床的寛解が得られ、その効果は長期間持続した。SScに対する自己HSCT 後の5年生存率は89%、また5年無増悪生存率は65%で、海外と同等以上の成績であった。自己HSCT後の免疫学的再構築において、SSc患者では自己HSCT後5年間Th1/Th2バランスはTh1優位が持続した。自己HSCT後のTCRレパトアの多様性の解析ではSSc患者において治療前は一部のVのCDR3サイズがoligoclonalまたはmonoclonalな分布を示したが、自己HSCT後にTCRレパトアの多様性が有意に回復した。SSc患者リンパ球各亜分画において健常人とは遺伝子発現プロファイルが異なり、自己HSCT後に遺伝子発現プロファイルが正常化する傾向が認められた。この遺伝子発現プロファイル解析においてSSc患者で発現亢進していた遺伝子の中から新しいバイオマーカーの候補としてDNAM-1を同定した。難治性SSc及び皮膚筋炎を対象とした臨床第II相試験のプロトコールを作成し、学内倫理委員会の承認を受け、新規SSc患者4例について自己HSCTを施行した。
結論
難治性自己免疫疾患に対する自己HSCTは有効かつ安全な治療法であり、自己HSCT後のTh1/Th2バランスにおけるTh1優位の免疫再構築、TCRレパトアの多様性の回復、リンパ球の遺伝子発現プロファイルの正常化等が臨床的寛解の誘導および維持に関連していると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201229008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究による有効性のメカニズムの解明は現在国内外で普及しつつある難治性自己免疫疾患に対する自己造血幹細胞移植(自己HSCT)に理論的背景を提供する。本研究では自己HSCT後のT細胞受容体レパトアの多様性の回復、リンパ球の遺伝子発現プロファイルの正常化、Th1/Th2バランスにおけるTh1優位の免疫再構築、等が臨床的寛解の誘導および維持に関連している事を明らかにした。
臨床的観点からの成果
自己免疫疾患の中には進行性の間質性肺炎や皮膚硬化を呈し、治療抵抗性で予後不良の疾患群が依然として存在する。本研究により当施設の臨床成績は生存率等において海外の成績と比較して同等以上である事が明らかとなり、難治性自己免疫疾患の生命予後の改善を可能にする新しい治療オプションを社会に提供する事が可能となった。全身性硬化症において純化、非純化HSCTを比較した研究はこれまで皆無で、我々の得た結果は重要な意義を有する。
ガイドライン等の開発
当施設での移植症例の臨床成績を解析し、また海外の臨床試験のプロトコールを参考に、適応基準および治療レジメンを決定し、難治性全身性硬化症及び皮膚筋炎を対象とした臨床第II相試験のプロトコールを作成し、学内倫理委員会の承認を受けた。自己HSCTの方法としては有効性に優る純化自己HSCTを選択した。本プロトコールは今後国内他施設において本療法を開始する際の貴重な参考資料になる。
その他行政的観点からの成果
自己免疫疾患のうち難治性稀少病態に関する薬剤開発は遅滞しており、これらの患者は薬物療法の進歩の恩恵を受ける機会が少ない。これら企業の支援の得られない稀少かつ重篤な病態を有する患者の救済は厚生労働行政において重要な課題である。本研究の成果により、難治性自己免疫疾患の完全治癒を狙う新しい治療オプションを社会に提供することが可能となった。
その他のインパクト
本研究の内容を病院の広報誌に掲載誌し他院に配布した。本研究に関するホームページを開設し、研究内容を紹介した。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
37件
その他論文(和文)
25件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
50件
学会発表(国際学会等)
35件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kikushige Y, Shima T, Takayanagi S, et al.
TIM-3 is a promising target to selectively kill acute myeloid leukemia stem cells.
Cell Stem Cell , 7 , 708-717  (2010)
10.1016/j.stem.
原著論文2
Asakura S, Hashimoto D, Takashima S, et al.
Alloantigen expression on non-hematopoietic cells reduces graft-versus-leukemia effects in mice.
J Clin Invest , 120 , 2370-2378  (2010)
10.1172/JCI39165.
原著論文3
Takashima S, Kadowaki M, Aoyama K, et al.
The Wnt agonist R-spondin1 regulates systemic graft-versus-host disease by protecting intestinal stem cells.
J Exp Med , 208 , 285-294  (2011)
10.1084/jem.20101559.
原著論文4
Tsukamoto H, Nagafuji K, Horiuchi T, et al.
Analysis of immune reconstitution after autologous CD34+ stem/progenitor cell transplantation for systemic sclerosis: predominant reconstitution of Th1 CD4+ T cells.
Rheumatology , 50 , 944-952  (2011)
10.1093/rheumatology/keq414.
原著論文5
Kikushige Y, Ishikawa F, Miyamoto T, et al.
Self-renewing hematopoietic stem cell is the primary target in pathogenesis of human chronic lymphocytic leukemia.
Cancer Cell , 20 , 246-259  (2011)
10.1016/j.ccr.
原著論文6
Yabuuchi H, Matsuo Y, Tsukamoto H, et al.
Correlation between pretreatment or follow-up CT findings and therapeutic effect of autologous peripheral blood stem cell transplantation for interstitial pneumonia associated with systemic sclerosis.
Eur J Radiol , 79 , 74-79  (2011)
10.1016/j.ejrad.2011.03.078.
原著論文7
Ferrara JL, Harris AC, Greenson JK, et.al
Regenerating islet-derived 3-alpha is a biomarker of gastrointestinal graft-versus-host disease.
Blood , 118 , 6702-6708  (2012)
10.1182/blood-2011-08-375006.
原著論文8
Harris AC, Ferrara JL, Braun TM, et al.
Plasma biomarkers of lower gastrointestinal and liver acute GVHD.
Blood , 119 , 2960-2963  (2012)
10.1182/blood-2011-10-387357.
原著論文9
Niiro H, Jabbarzadeh-Tabrizi S, Kikushige Y, et al.
CIN85 is required for Cbl-mediated regulation of antigen receptor signaling in human B cells.
Blood , 119 , 2263-2273  (2012)
10.1182/blood-2011-04-351965.
原著論文10
Kuriyama T, Takenaka K, Kohno K, et al.
Engulfment of hematopoietic stem cells caused by down-regulation of CD47 is critical in the pathogenesis of hemophagocytic lymphohistiocytosis.
Blood , 120 , 4058-4067  (2012)
10.1182/blood-2012-02-408864.
原著論文11
Eriguchi Y, Takashima S, Oka H, et al.
Graft-versus-host disease disrupts intestinal microbial ecology by inhibiting Paneth cell production of α-defensins.
Blood , 120 , 223-231  (2012)
10.1182/blood-2011-12-401166.
原著論文12
Yuki H, Ueno S, Tatetsu H, et al.
PU.1 is a potent tumor suppressor in classical Hodgkin lymphoma cells.
Blood , 121 , 962-970  (2012)
10.1182/blood-2012-05-431429.
原著論文13
Harada A, Okada S, Konno D, et al.
Chd2 interacts with H3.3 to determine myogenic cell fate.
EMBO J , 31 , 2994-3007  (2012)
10.1038/emboj.2012.136.
原著論文14
Yamauchi T, Takenaka K, Urata S, et al.
Polymorphic Sirpa is the genetic determinant for NOD-based mouse lines to achieve efficient human cell engraftment.
Blood , 121 , 1316-1325  (2013)
10.1182/blood-2012-06-440354.
原著論文15
Shima T, Miyamoto T, Kikushige Y, et al.
Quantitation of hematogones at the time of engraftment is a useful prognostic indicator in allogeneic hematopoietic stem cell transplantation.
Blood , 121 , 840-848  (2013)
10.1182/blood-2012-02-409607.
原著論文16
Ayano M, Tsukamoto H, Kohno K, et al.
Increased CD226 Expression on CD8+ T Cells Is Associated with Upregulated Cytokine Production and Endothelial Cell Injury in Patients with Systemic Sclerosis.
J Immunol , 195 (3) , 892-900  (2015)
10.4049/jimmunol.1403046
原著論文17
Chong Y, Shimoda S, Yakushiji H, et al
Antibiotic rotation for febrile neutropenic patients with hematological malignancies: clinical significance of antibiotic heterogeneity.
PLoS One , 8 , e54190-  (2013)
10.1371/journal.pone.0054190.
原著論文18
Chong Y, Shimoda S, Yakushiji H, et al:
Clinical Impact of Fluoroquinolone-Resistant Escherichia coli in the Fecal Flora of Hematological Patients with Neutropenia and Levofloxacin Prophylaxis.
PLoS One . , 9 , e85210-  (2014)
10.1371/journal.pone.0085210.
原著論文19
Yabuuchi H, Matsuo Y, Tsukamoto H, et al.
Evaluation of the extent of ground-glass opacity on high-resolution CT in patients with interstitial pneumonia associated with systemic sclerosis: Comparison between quantitative and qualitative analysis.
Clin Radiol ,  69 , 758-764  (2014)
10.1016/j.crad.2014.03.008
原著論文20
Tanaka A, Tsukamoto H, Mitoma H, et al.
Serum progranulin levels are elevated in dermatomyositis patients with acute interstitial lung disease, predicting prognosis.
Arthritis Res Ther , 17 , 27-  (2015)
10.1186/s13075-015-0547-z

公開日・更新日

公開日
2018-05-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
201229008Z