食物アレルギーにおける経口免疫療法の確立と治癒メカニズムの解明に関する研究

文献情報

文献番号
201229007A
報告書区分
総括
研究課題名
食物アレルギーにおける経口免疫療法の確立と治癒メカニズムの解明に関する研究
課題番号
H22-免疫-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 力(国立病院機構三重病院 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤澤 隆夫(国立病院機構三重病院 臨床研究部)
  • 竹森 利忠(理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センター)
  • 荒川 浩一(群馬大学大学院医学系研究科小児科学)
  • 下条 直樹(千葉大学大学院医学研究院小児病態学)
  • 吉原 重美(獨協医科大学医学部小児科)
  • 伊藤 節子(同志社女子大学生活科学部)
  • 北中 幸子(東京大学医学系研究科小児医学講座)
  • 北林 耐(国際医療福祉大学臨床医学研究センター)
  • 松田 幹(名古屋大学大学院生命農学研究科・農学部 分子生体制御学研究分野)
  • 木戸 博(徳島大学疾患酵素学研究センター 酵素分子化学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
17,753,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、自然寛解しない小児の食物アレルギーが増加している。これら患者と家族はアナフィラキシーの恐怖や不自由な除去食など長期にわたって大きな疾病負担を負う。経口免疫療法の有効性が報告されて注目を集めているが、方法の未確立や副反応の多発などの問題により、一般に普及できる標準治療とはなっていない。しかし、根本的治療法の確立はまさに切望されているところであり、アレルギー医療分野でも最優先課題といえる。そこで、本研究では食物アレルギーに対する経口免疫療法の確立と奏功機序の解明をめざして、ニーズの高い鶏卵と牛乳アレルギーに対して、急速経口免疫療法(rush oral immunotherapy: rush OIT)の多施設共同ランダム化比較試験を実施、包括的な免疫学的解析を行った。
研究方法
本年度は、牛乳アレルギー患者に対する治療を行った。二重盲検食物負荷試験で症状誘発閾値が牛乳10 ml以下の 5歳~15歳の牛乳アレルギー患者を登録し、治療群(rush OIT群)、対照群(除去食群)にランダム割付した。治療群では直ちに入院し、閾値より少ない量から連日最大3回漸増した牛乳を摂取し、目標維持量への到達を目指すrush OITを行った(急速免疫療法期)。目標維持量は牛乳200 mlとした。その後、自宅にて同量の維持量摂取を続けた(維持期)。対照群は除去食を継続し、割付3ヵ月後に治療群との比較を行った後(delayed control)、同様にrush OITを行い、維持期に移行した。登録時から維持期開始後12ヵ月まで、定期的に検体採取、QOL調査、負荷試験等を行った。維持期開始後12ヵ月では再度2週間以上の牛乳完全除去期間をおいて負荷試験を行い、耐性獲得か脱感作か、を判定した。
結果と考察
32例(年齢平均7歳、登録時負荷試験 症状誘発閾値1~3 ml、症状重症度grade 3、牛乳特異的IgE 56.1 UA/mL. 目標症例数40例)が登録され、治療群16例、対照群16例にランダム割付された。その結果、割付け3ヶ月後に、治療群でのみ閾値の有意な上昇を認めた。対照群はその後に治療を開始したが、全体として86%は急速免疫療法期に牛乳200 ml以上の摂取が可能となり、その所要日数は34日であった。急速免疫療法期の副反応は、Grade 3: 46%、Grade 4: 14%、Grade 5:4% (1例)で、副反応で試験中止を余儀なくされた症例は2例(アナフィラキシーショック1例、副反応による増量困難1例)であった。現在、試験は進行中で、19例が1年間の維持期を終了、耐性獲得の判定を行ったがしたが、閾値低下しなかったのは16%にとどまり、軽度低下が52%、明らかな低下が32%であった。すなわち、臨床効果としては本治療により多くの例で脱感作状態を誘導できたが、維持療法1年間では耐性獲得は少数であった。また、昨年までの鶏卵試験と比較すると、副反応がやや多く、治療はやや困難であると考えられた。そこで、経口免疫療法の安全性と有効性を高めることを目的に、Th1アジュバント活性を有するKW乳酸菌3110株の牛乳急速経口免疫療法における効果の解析を二重盲検プラセボ対照試験で開始した。まずパイロットスタディとして9名の患者を登録、すべて急速期を終了し、全員がKW乳酸菌3110株あるいはプラセボ口腔内崩壊錠によると考えられる副作用なく維持期へと移行している。今後キーオープンされたのち、有効性が認められるならば、大規模試験に移行する予定である。
 安全性の確保のためには副反応リスクの高い症例を事前に同定することが求められる。そこで治療前の血清中トリプターゼを検討すると、重篤なアレルギー症状が発現した症例の中で症状発現閾値が低かった群、急速免疫療法期において抗原摂取目標量に到達できなかった群では、血清中トリプターゼが高値であることを見いだした。
 免疫学的メカニズム解明のための研究では治療後にアレルゲン特異的IgG4のIgEに対する量比および抗体親和性が上昇すること、Th2亜群の機能上昇に関与する遺伝子の発現が抑制される可能性を明らかにした。ヒスタミン遊離反応でみた好塩基球の反応性も著効群で低下することを見いだした。特異抗体(IgE、IgG4、IgA)価の変動を高感度アレルゲンマイクロアレイ(DLCチップ)法によっても検証した。
結論
自然寛解困難な牛乳アレルギーに対して、RCTによる経口免疫療法を行い、多くの例で脱感作状態を達成した。しかし、耐性に至った例は多くなく、副反応もみられたことから、今後さらなる治療法の改善が必要であると考えられ、新たな試験にも着手している。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201229007B
報告書区分
総合
研究課題名
食物アレルギーにおける経口免疫療法の確立と治癒メカニズムの解明に関する研究
課題番号
H22-免疫-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 力(国立病院機構三重病院 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤澤 隆夫(国立病院機構三重病院 臨床研究部)
  • 竹森 利忠(理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センター)
  • 荒川 浩一(群馬大学大学院医学系研究科小児科学)
  • 下条 直樹(千葉大学大学院医学研究院小児病態学)
  • 吉原 重美(獨協医科大学医学部小児科)
  • 伊藤 節子(同志社女子大学生活科学部)
  • 北中 幸子(東京大学医学系研究科小児医学講座)
  • 北林 耐(国際医療福祉大学臨床医学研究センター)
  • 松田 幹(名古屋大学大学院生命農学研究科・農学部 分子生体制御学研究分野)
  • 木戸 博(徳島大学疾患酵素学研究センター 酵素分子化学部門)
  • 五十嵐 隆(元東京大学医学部小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 近年、自然寛解しない小児の食物アレルギーが増加している。これら患者と家族はアナフィラキシーの恐怖や不自由な除去食など長期にわたって大きな疾病負担を負う。経口免疫療法の有効性が報告されて注目を集めているが、方法の未確立や副反応の多発などの問題により、一般に普及できる標準治療とはなっていない。しかし、根本的治療法の確立はまさに切望されているところであり、アレルギー医療分野でも最優先課題といえる。そこで、本研究では食物アレルギーに対する経口免疫療法の確立と奏功機序の解明をめざして、ニーズの高い鶏卵と牛乳アレルギーに対して、急速経口免疫療法(rush oral immunotherapy: rush OIT)の多施設共同ランダム化比較試験を実施、包括的な免疫学的解析を行った。
研究方法
 二重盲検食物負荷試験で症状誘発閾値が卵白4g以下、牛乳10 ml以下の 5歳~15歳の鶏卵および牛乳アレルギー患者を登録し、治療群(rush OIT群)、対照群(除去食群)にランダム割付した。治療群では直ちに入院し、閾値より少ない量から連日最大3回漸増した当該食物を摂取し、目標維持量(弱加熱鶏卵1個、牛乳200ml)への到達を目指すrush OITを行った(急速免疫療法期)。その後、自宅にて同量の維持量摂取を続けた(維持期)。対照群は除去食を継続し、割付3ヵ月後に治療群との比較を行った後(delayed control)、同様にrush OITを行い、維持期に移行した。登録時から維持期開始後12ヵ月まで、定期的に検体採取、QOL調査、負荷試験等を行った。維持期開始後12ヵ月では再度2週間以上の完全除去期間をおいて負荷試験を行い、耐性獲得か脱感作か、を判定した。鶏卵アレルギー45例、牛乳アレルギー32例が登録され、それぞれランダム割付された。
結果と考察
 割付け3ヶ月後に、鶏卵、牛乳共に治療群でのみ閾値の有意な上昇を認めた。対照群はその後に治療を開始したが、全体として、鶏卵は88%が、牛乳は84%は急速免疫療法期に目標量の摂取が可能となり、その所要日数は鶏卵16日、牛乳34日であった。急速免疫療法期の副反応は、鶏卵はGrade 3: 54%、Grade 4: 5%、Grade 5:2%、牛乳はGrade 3: 46%、Grade 4: 14%、Grade 5:4% で、副反応で試験中止を余儀なくされた症例は鶏卵4例(アナフィラキシーショック1例、腸炎2例、副反応による増量困難1例)、牛乳2例(アナフィラキシーショック1例、副反応による増量困難1例)であった。1年間の維持期を終了、耐性獲得の判定を行ったがしたが、鶏卵は47.3%で閾値低下を認めず、34..2%で軽度の閾値低下、15.8%で明らかな閾値低下を認めた。一方、牛乳は閾値低下しなかったのは16%にとどまり、軽度低下が52%、明らかな低下が32%であった。以上、鶏卵および牛乳アレルギー患者にrush OITを行い、多くの例で脱感作状態を誘導できた。耐性獲得は鶏卵では約半数であったが、牛乳では少数であった。副反応も牛乳で多い傾向があり、抗原により治療反応性に差があることが明らかとなった。
 そこで、経口免疫療法の安全性と有効性を高めることを目的に、Th1アジュバント活性を有するKW乳酸菌3110株の牛乳急速経口免疫療法における効果の解析を二重盲検プラセボ対照試験で開始した。まずパイロットスタディとして9名の患者を登録した。今後キーオープンされたのち、有効性が認められるならば、大規模試験に移行する予定である。
 安全性の確保のためには副反応リスクの高い症例を事前に同定することが求められる。そこで、治療前の特異IgE抗体価と負荷試験の閾値、誘発症状を組み合わせたスコアが順調に治療目標を達成できた症例よりも副反応による治療困難例で高いことが観察された。また、治療前の血清中トリプターゼ高値も予後不良に関与することを見いだした。
 免疫学的メカニズムでは、即時型反応を抑制するIgG4抗体の上昇、その結果と推定される皮膚反応、好塩基球活性化反応の低下が治療早期に認められた。抗原特異的IgE抗体も低下したが、その時間経過はゆっくりしたものであった。これらの免疫学的変化は経口免疫療法の奏功機序の少なくとも一部は説明するものと考えられた。さらに探索的な検討を行い、IgG4抗体親和性の変化、Th2亜群の機能上昇に関与する遺伝子の発現抑制も関与すると考えられた。
結論
 食物アレルギーに対する経口免疫療法をわが国初のRCTで行い、その有効性を証明した。安全性については未だ解決すべき点があり、直ちに一般化できる治療には至っていないが、食物アレルギーの治癒に向けた重要な一歩を踏み出した。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201229007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
食物アレルギーに対して、最近、各地で経口免疫療法が試みられるようになったが、いずれも対照をおかない非科学的な研究であった。本研究は、わが国で初めて、科学性と倫理性を担保したDelayed controlによる無作為化比較試験を行い、鶏卵及び牛乳アレルギーに対して、急速免疫療法が有効であることを証明した。また、免疫学的メカニズムの解明にも着手して、すでに報告のあった特異抗体や好塩基球反応の変動だけでなく、新規技術による解析の道も開いた。
臨床的観点からの成果
小児期の食物アレルギーは学童期に多くが寛解するが、一部の例で持続、それら患者は不自由な除去食に加えて、誤食によるアナフィラキシーリスクなど大きな疾病負担を抱えている。本研究では、自然寛解できない食物アレルギーに経口免疫療法が有効であることをわが国で初めて科学的に証明して、新たな治療法確立への道を開いた。実際に、本治療法により患者の負担軽減ができることを、QOL改善という指標でも証明した。また、一定の比率で副反応がおこるが、それらに対する適切な対応方法についても整理した。
ガイドライン等の開発
食物アレルギーに対する経口免疫療法はアレルゲンを摂取するという治療法の性質上、アレルギー誘発症状のリスクを伴うため、現在、ガイドライン等でも一般化された治療としては推奨されていない。しかし、今後の治療法確立のためには、臨床研究を進めることは重要であるので、より安全な臨床研究を進めるためのハンドブックを作成した。
その他行政的観点からの成果
とくになし。
その他のインパクト
医師向けの雑誌から取材を受けて、本研究班の成果を伝えた。また、学会発表でも関心は高く、シンポジウムなどに取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
14件
アレルギーに関する学会発表
学会発表(国際学会等)
2件
アレルギーに関する学会発表
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Morita H, Nomura I, Orihara K, et al.
Antigen-specific T-cell responses in patients with non-IgE-mediated gastrointestinal food allergy are predominantly skewed to T(H)2.
J Allergy Clin Immunol , 15 (2) , 133-142  (2013)
10.1016/j.jaci.2012.09.005

公開日・更新日

公開日
2018-05-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
201229007Z