職業・産業別人口動態ミクロデータによる死因の社会・経済的要因についての統計的国際比較分析

文献情報

文献番号
199800118A
報告書区分
総括
研究課題名
職業・産業別人口動態ミクロデータによる死因の社会・経済的要因についての統計的国際比較分析
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
森 博美(法政大学)
研究分担者(所属機関)
  • 藤岡光夫(静岡大学)
  • 金子治平(神戸大学)
  • 良永康平(関西大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
1,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の人口動態統計は全数データでもあり、またその精度面で国際的にも極めて高く、人口動態現象の解明の唯一のデータソースである。とはいえ、既存の集計表では、死亡の地域別特性や社会・経済的特性の分析さらには、項目
分類が異なるため、国際比較には十分対応しきれていない。この結果、諸外国の
国際比較研究でしばしば日本が比較の対象外となるなど、わが国の人口動態統計
は、統計の質にふさわしい正当な評価を受けていない。そこで本研究では、人口
動態統計の死亡データを再集計し、死亡の主に社会・経済面に焦点を当てた国際
比較、地域分析を中心とした分析を行った。本研究は、主として次の3つの内容
から構成される。(イ) わが国の人口動態統計の個票の再集計により、死因別死
亡率の地域特性、特に死亡に対する社会的、経済的要因の影響について分析する
こと、(ロ) 公表されている死亡率の国際比較表と比較可能な形で集計データを
作成し、職業、産業別死亡を中心とした国際比較を行うこと、さらに(ハ)わが国
における外国人の死因別死亡の国籍、世代間の特性,日本人との比較研究、がそ
れである。
研究方法
(イ)死亡の地域的、社会経済的特性の研究死因別死亡と地域の社会特
性に関しては、従来、特定の地域に固有な死因については疫学の分野でいくつか
の研究が行われてきた。本研究では、SSDSその他のデータに基づき地域を社会経
済的属性に従って地域を独自に類型化し、それとの関連で死亡特性の分析を行っ
た。なお、分析結果の一部は、金子治平「死因別死亡の地域特性分析」(結果報
告書『死因別死亡の社会経済的特性に関する研究』所収)、良永康平「産業・職
業クロス表による全国及び都道府県の死亡分析」(『統計研究参考資料』No.59法
政大学日本統計研究所所収)としてすでに公刊した。(ロ) 死因別死亡の国際比較
本研究では、まずこの分野での国際的な研究動向ならびに各国統計機関における
死亡統計の整備面での最新動向のサーベイを行った。その結果、北欧ならびに英
仏などを中心に多くの国で人口動態データとセンサスその他の情報をリンクさせ
た縦断的コーホートデータ(longitudinal cohort data) が作成されており、職
業の死亡、社会階層別の死亡率比較、その他出生や死亡に関する社会経済面の分
析、政策課題の発見さらには死亡の国際比較に広く利用されていることが明らか
になった。なお、この点についての詳細は、森博美「人口動態統計利用の国際
的動向について」(同結果報告書『死因別死亡の社会経済的特性に関する研究』
所収)にゆずる。個票の再集計結果を海外の既存の集計結果表と比較するために
は、両者のあいだの職業・産業分類の相互調整が必要である。本研究では、わが
国の職業・産業のクロスに基づき既発表の海外表にそれを可能な限り合わせると
いう作業を経て、比較を行った。分類の対照表ならびに比較結果については、詳
しくは藤岡光夫「北欧及び日本の職業別死亡統計の比較」(同結果報告書『死因
別死亡の社会経済的特性に関する研究』所収)を参照されたい。 (ハ)外国人の死
亡特性の研究平成10年度は、一方で、前年度の推計方法を改善するとともに、他
方で、保管統計表の平成7?9年の3年分の死亡データをプールすることにより、単
年データに基づく死亡率よりも安定的な死亡率の推計を試みた。なお、その際に、
平成7年1月17日に発生した阪神淡路震災による死亡の取扱いが問題となる。本研究で
はそれを、人口動態の死亡面での統計的な異常値として除去するのが適当と考え
た。そこで、人口動態個票から性・国籍・年齢階層別の地震による死亡者を再集
計し、保管統計の選択死因のうち不慮の事故による死亡者数から除去し、死亡率
の推計作業を行った。
結果と考察
本研究の3つの課題のうち(イ)については、次のような成果が得られた。まず、
疾病による死亡率は、性別に関係なく人口5,000人未満の町村で他の人口規模の
地点に比較して明らかに低いこと、また農業地域類型別の年齢調整死亡率では、
おおむね都市的地域よりも農業地域の方が疾病による死亡率は低い。特に、悪性
新生物による死亡率は、都市的地域、平地農業地域、中間農業地域、山間農業地
域の順に低下しているという特徴が明らかになった。また、良永は、死亡率を年
齢要因を調整するだけでなく、産業・職業構成を調整したいわば「産職調整死亡
率」を新たに導入して、地域間の死亡率の比較データを作成した。
(ロ)について藤岡は、まず北欧表と日本の職業・産業分類の比較対照表を作成
し、それに基づき北欧4カ国の経済活動人口を基準としたSMR比較を行った。
日本の就業者の死亡率の低水準、特に管理職や製造業の生産・作業職のそれが低
水準にある事実を発見した。北欧各国では、専門・技術職や管理職などの上層階
層の低死亡水準と、建設・建築労働者、生産・作業職、サービス労働者や管理職
など下層階層における死亡率の高さとが対照的であった。一方、日本では、非サ
ービス業の専門・技術職、卸小売・サービス業のサービス職従事者の著しい高水
準と管理職、製造業の生産・作業職における低水準が対照的である。
研究課題(ハ)の3年分のプールデータから求めた外国人死亡特徴としては、結
核による死亡が、特に25-44歳および45-64歳の韓国・朝鮮人で高いこと、循環器
系疾患による死亡は、15-24歳世代のブラジル人、中国人女性で日本人より高い
が、25-64歳では、日本人の方が高いこと、25-44歳世代のフィリピン・タイ人、
45-64歳世代での韓国・朝鮮人そしてフィリピン・タイ人、英国・米国人で心疾
患による死亡が日本人をかなり上回る、といったような知見を得ることができ
た。人口規模別にみた疾病による死亡率は、5千人未満の町村で他の地域よりも低
い。これは、主に悪性新生物による死亡率の低さによる。また、農業地域類型別
の年齢調整死亡率は農業地域の方が疾病による死亡率は低く、特に悪性新生物に
よる死亡率は、都市的地域、平地農業地域、中間農業地域、山間農業地域の順に
低下している。しかし、循環系疾患、心疾患、脳血管疾患では、むしろ都市的地
域での死亡率の方が低い。北欧各国とのSMR比較では、管理職の低水準やサー
ビス職従事者の高水準が両者に共通している。これに対し、日本の製造業の生産
作業職での低水準並びに非サービス業の専門技術職でSMRが著しく高いなど、
今回の分析から職業死亡での日本の特徴を見いだすことができた。
結論
本研究によって、わが国の人口動態統計の再集計によって、これまでの既存の集
計結果に基づく分析では得られなかったいくつかの新たな知見を提示することが
できた。そかしながら、統計データそのもとについて一言付言すれば、わが国の
職業別死亡統計は、あくまでも死亡時点での職業、しかも産業、職業とも大分類
レベル統計として作成されている。このため死亡者の過半数は無職者の死亡とな
っている。職業、産業さらには生活状態と死亡との関連は単に死亡時点よりもむしろ過去の
諸要因に規定されることの方が一般的である。この点、欧米では、すでに早いと
ころでは1970年代から、人口動態統計とセンサスとのマッチングあるいは登録ベ
ースでのcohort longitudinal dataが政府統計として作成されており、出生や死
亡といった人口動態事象について、職歴、居住歴、世帯の経済状態等の死亡率へ
の影響といった構造的分析がいろいろな角度から行われている。
この種の統計がわが国でも整備されることになれば、研究さらには政策課題の検
出の面での遅れを一挙に解消することができ、国際比較の面でもわが国の統計の
利用価値は格段に高まるものと期待される。この意味で、わが国でも人口動態統
計について、国レベルでのこの種の統計の整備が急務であるように考えられる。

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