文献情報
文献番号
201229003A
報告書区分
総括
研究課題名
皮膚バリア障害によるアレルギーマーチ発症機序解明に関する研究
課題番号
H22-免疫-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
天谷 雅行(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 菅井 基行(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科)
- 工藤 純(慶應義塾大学 医学部)
- 加藤 則人(京都府立医科大学 大学院医学研究科)
- 浅野 浩一郎(東海大学 医学部)
- 松井 毅(京都大学 物質-細胞統合システム拠点 (iCeMS))
- 海老原 全(慶應義塾大学 医学部)
- 久保 亮治(慶應義塾大学 医学部)
- 永尾 圭介(慶應義塾大学 医学部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
28,980,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、皮膚バリア機能障害の観点から、アレルギーマーチを起こすアトピー性疾患の発症に関する病態解明を行い、皮膚バリア機能補正によるアレルギー疾患発症抑制・予防への分子基盤を確立する。フィラグリン欠損に伴う角層バリア機能障害に起因するアレルギーマーチ発症機序を解明するとともに、フィラグリン以外のアトピー性疾患発症新規因子を同定する。
本年度は、フィラグリンノックアウト(KO) マウスをヘアレスマウスに交配し、より効率的な角層機能評価系を確立するとともに、経皮抗原感作による喘息モデルマウスを免疫学的に解析する。アトピー性皮膚炎(AD)患者皮膚において高率に検出される黄色ブドウ球菌が、皮膚炎発症後付着するのか、皮膚炎発症前からフィラグリンが欠損しているだけで皮膚に付着しやすくなるのか、フィラグリン欠損の有無と黄色ブドウ球菌の角層への付着性、固着性の関連を検討する。フィラグリン欠損時、皮膚炎発症時のタイトジャンクションの構造、機能を解析する。本研究開始時より継続的に行っているフィラグリン遺伝子新規変異の探索、フィラグリン以外の皮膚バリア機能関連蛋白の遺伝子解析を進めるとともに、日本人データの蓄積、バリア機能低下とアレルギー性疾患発症の疫学的解析を継続する。
本年度は、フィラグリンノックアウト(KO) マウスをヘアレスマウスに交配し、より効率的な角層機能評価系を確立するとともに、経皮抗原感作による喘息モデルマウスを免疫学的に解析する。アトピー性皮膚炎(AD)患者皮膚において高率に検出される黄色ブドウ球菌が、皮膚炎発症後付着するのか、皮膚炎発症前からフィラグリンが欠損しているだけで皮膚に付着しやすくなるのか、フィラグリン欠損の有無と黄色ブドウ球菌の角層への付着性、固着性の関連を検討する。フィラグリン欠損時、皮膚炎発症時のタイトジャンクションの構造、機能を解析する。本研究開始時より継続的に行っているフィラグリン遺伝子新規変異の探索、フィラグリン以外の皮膚バリア機能関連蛋白の遺伝子解析を進めるとともに、日本人データの蓄積、バリア機能低下とアレルギー性疾患発症の疫学的解析を継続する。
研究方法
フィラグリンKOマウスをHos:HR-1マウスと交配し、フィラグリンKOヘアレスマウスを作成した。角層内水分量とTEWLを、標準湿度環境(湿度40-60%)下で、それぞれVAPOSCAN AS-VT100RS (Asahi Biomed), Corneometer ASA-M2(Asahi Biomed)を用いて測定、評価した。フィラグリンKO角層における黄色ブドウ球菌付着性・固着性の検討に関しては、AmCyan遺伝子を黄色ブドウ球菌発現用ベクターpKATに組込み、AD由来黄色ブドウ球菌TF3378株に導入し、GFP発現黄色ブドウ球菌を作製した。また、黄色ブドウ球菌の各種疾患由来臨床分離21株について、Illumina GIIxを用いてゲノムのドラフト配列を取得し、アトピー性皮膚炎由来株の特徴を解析した。
結果と考察
フィラグリンKOマウスとヘアレスマウスを交配し、より詳細に角層、表皮を観察する事が可能となった。親から離乳し、脱毛が終わる6週齡以降より、フィラグリンKOヘアレスマウスで角層内水分量の減少を認めたことにより、フィラグリン欠損は角層水分量の低下を導くが、毛で体表を覆われたり親の保護を受けたりする時期は、フィラグリン欠損があっても何らかの代償機構により、見かけ上角層水分量が維持された可能性が示唆された。また、体毛等の保護がなくなるとフィラグリン欠損マウスでは角層水分量の低下が進むことから、乾燥等の環境要因がフィラグリン欠損皮膚の角層水分保持に影響する可能性が考えられた。
AD由来ブドウ球菌株は野生型の皮膚より著しく強くフィラグリン欠損皮膚に固着していた。付着の程度は野生型、フィラグリンKOマウスで顕著な違いが認められないため、付着した後の皮膚での増殖に違いが生じたと考えられるが、その機序は不明である。アトピー性皮膚炎由来株の比較ゲノム解析アプローチから、特有遺伝子の保有等が見つかってきた。今後、これらの遺伝子の皮膚固着性への関与を解析する必要がある。今回の結果はアトピー性皮膚炎患者から分離される黄色ブドウ球菌の病理学的意義を明らかにする糸口になる可能性があると考えられる。さらに、TACE/SOX9マウスは掻痒や高IgE値を示すと共に、黄色ブドウ球菌のcolonizationというヒトのアトピー性皮膚炎に特徴的な表現型を示すことが明らかとなった。今後はTACE/SOX9マウス皮膚における黄色ブドウ球菌の増殖の機序および皮膚炎悪化への関与を解明したい。
次世代シーケンサーの膨大なデータ量を利用して、FLG-NGS shotgun法を新たに開発した。AD患者36人から4種類のFLG変異を新たに同定した。このうち2種類の新規変異は以前にFLG-shotgun法で全解読した際には見落としていたものであり、FLG-NGS shotgun法は、従来法に比べて簡便で低コストであるばかりか検出精度も上がっていることが実証された。このことから日本人集団にはこれまでの解析では見落とされていた頻度の低い未知のFLG変異が多く存在する事が予測された。
AD由来ブドウ球菌株は野生型の皮膚より著しく強くフィラグリン欠損皮膚に固着していた。付着の程度は野生型、フィラグリンKOマウスで顕著な違いが認められないため、付着した後の皮膚での増殖に違いが生じたと考えられるが、その機序は不明である。アトピー性皮膚炎由来株の比較ゲノム解析アプローチから、特有遺伝子の保有等が見つかってきた。今後、これらの遺伝子の皮膚固着性への関与を解析する必要がある。今回の結果はアトピー性皮膚炎患者から分離される黄色ブドウ球菌の病理学的意義を明らかにする糸口になる可能性があると考えられる。さらに、TACE/SOX9マウスは掻痒や高IgE値を示すと共に、黄色ブドウ球菌のcolonizationというヒトのアトピー性皮膚炎に特徴的な表現型を示すことが明らかとなった。今後はTACE/SOX9マウス皮膚における黄色ブドウ球菌の増殖の機序および皮膚炎悪化への関与を解明したい。
次世代シーケンサーの膨大なデータ量を利用して、FLG-NGS shotgun法を新たに開発した。AD患者36人から4種類のFLG変異を新たに同定した。このうち2種類の新規変異は以前にFLG-shotgun法で全解読した際には見落としていたものであり、FLG-NGS shotgun法は、従来法に比べて簡便で低コストであるばかりか検出精度も上がっていることが実証された。このことから日本人集団にはこれまでの解析では見落とされていた頻度の低い未知のFLG変異が多く存在する事が予測された。
結論
本研究の成果により、アレルギーマーチを起こすアトピー性疾患の発症機序において、皮膚バリア障害による持続的経皮免疫が根本的な要因であることを示す確固たる免疫学的基盤が確立されつつある。
公開日・更新日
公開日
2013-05-30
更新日
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