厚生統計情報の国際的情報発信戦略の基盤確立に関する研究

文献情報

文献番号
199800117A
報告書区分
総括
研究課題名
厚生統計情報の国際的情報発信戦略の基盤確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
林 謙治(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
3,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は厚生統計情報の国際的情報発信戦略の基盤確立の方向性を確定することを目的としている。わが国は従来国内の健康問題を解決するために政策上の必要から厚生統計情報の収集、分析に努力してきた。一方、経済発展の結果、健康へのニーズが多様化し、かつ国際交流の環境の変化から諸外国との情報交換が重要な課題となってきた。感染症情報の交換、高齢化に関わる健康指標、行政指標の国際比較、途上国の情報の信頼性等の把握を通してわが国の国内問題に役立てると同時に国際貢献にも資することを目的とする。
研究方法
インターネットを通して米国連邦政府、州政府および政府系保健医療研究機関の情報発信の内容と方法を検討すると共に日本が行っているプライマリヘルスケア分野の国際援助プロジェクトの内容を総括してわが国が発信すべき内容を検討した。また、国内の衛生研究所の業務のうち発信する意義のあるある項目をアンケート調査により把握し、リンクを含むホームページを作製した。さらに、国内厚生統計情報を分類し国際比較が相手国と共に受益できる研究テーマを設定した。
結果と考察
我が国の発信の戦略を検討する前に情報発信の先進国といわれれている米国の現状について調査を行った。米国における有用な統計情報の非常に大きな部分は、統計を主務とする行政機関ではなく、行政活動の副産物として生まれる。行政記録は予算・決算や公共施策の実施・法施行に関わる書類をはじめ極めて多岐にわたり、これらの情報は、記録・蓄積されているものの、実際に政策評価や決定に利用されることは少ないのが現状である。一方、DHHS/CDCの情報は電子媒体・冊子媒体を通じて入手が容易であり、上記の情報は国際的にも開示されている。その意味で、米国については自国民・自国組織に対する情報開示が副次的にspill-Overとして海外機関にも役立つものとなっている。とりわけ、保健医療分野の科学情報は一流でありその役割は高く評価できる。
ところでわが国の厚生統計情報の国際的発信の現状について考察すると、主に国際機関(WHO,OECD,World Bank等)に対してかなりの量の情報提供を行ってきた。例えば、OECDに対して生存期間、保健医療収入・支出、医療資源の利用、退院患者情報、健康習慣・環境、医薬品の生産と消費、医薬品・機器類の輸出入そのほか人口・教育、経済情報等その量は膨大でありかつ詳細である。これらの情報は国際機関の要請によるものであり、それなりの意義を持つが、必ずしもわが国が目的を持って意図的に発信しているわけではない。
わが国の国際的な立場からすると発展途上国への発信はまた視野に入れることが期待されるが、現在の所組織的な情報発信はほとんど行われていない。発展途上国への発信は技術協力の一環として考慮する必要がある。わが国が独自に蓄積した情報のうち発展途上国への発信が意味をを持つものは何であるか、また、発信の方法は何か検討されねばならない。発信の方法は国際会議、教育研修等による人的交流、二国間国際協力プロジェクトを通して、さらに各種媒体(印刷物、インターネット等が挙げられる。その上にネットワークの構築が必要となる。交流の方法と内容を組み合わせると、以下、三つの分野(教育研修分野、研究分野、情報交換分野)に分類する事が現実的と思われるので順次述べたい。①教育研修分野:近年二国間協力の枠組みで発展途上国の研修生を受け入れており、その数は少なくない。研修内容として日本の経験を伝達することを中心としているが、とりわけ日本におけるプライマリーヘルスケア医療の発展経過に関する情報は重要である。本研究ではプライマリーヘルスケア医療の発展過程を整理すると共に、各発展段階に対応する保健社会統計、活動記録を参照できるデータベースのモデル開発した。
②研究分野:実用的な意味からすると先端研究よりも生活衛生関連分野の研究交流が重要である。本研究においては全国衛生研究所80施設を対象に調査を行い66施設から回答を得た。調査項目は連絡先(E-Mailを含む)、ホームページの設置の他研究テーマ、発行雑誌、経験豊富な検査項目をはじめ、海外への情報発信および海外からの照会可能性である。大多数の研究所は海外からの照会に応じることが可能であると答えている。研究テーマおよび特殊検査技術のうち発展途上国に関連が深い項目を拾い上げると以下の通りである。
感染症関連:腸管出血性大腸菌、Q熱、レジオネラ、サルモネラ、角膜ヘルペス、レピトスピラ、SRSV、原虫、ツツガ虫、HIV、リケッチア、結核のDNA型
環境関連:地下水モニタリング、大気中の有害化学物質、火山灰土壌の汚染物質浄化、カキによる重金属モニタリング、酸性雨、下水汚泥固形分離
生活衛生関連:食品残留農薬、下痢性貝毒、淡水魚汚染、ハエ幼虫研究、生薬の製剤化、カンピロバクタ食中毒、アニサキス、カビ毒、チョウセンアサガオ毒、ハブ毒
これらの収集した情報をもとにホームページ原稿とそのリンクサイトを作製した。
③情報交換分野:わが国が近年もしくは現在直面している公衆衛生課題例えば高齢化の問題は外国特にアジア中進国においても近い将来遭遇するものと思われる。また、現在国内で行われている公衆衛生研究は厚生統計資料を利用したものが少なくない。これらはアジア中進国の参考に資するところが多いと思われるが有用な情報の選択と統合をいかに図り、そして表現するかが情報発信戦略の鍵となる。まず内容であるが、例えば感染症に関する情報、高齢者に関する情報、出生に関する情報等々のように分類できよう。情報の選択について感染症を例に挙げると以下のようにまとめることが可能である。
a)感染症による死亡:人口動態統計(厚生省統計情報部)
b)感染症の罹患率、有病率の年次・月別:伝染病統計(厚生省統計情報部)
c)感染症特にウィルス疾患、結核、性病、疾患名とその時間的経過:結核・感染症サーベランス週報・月報・年報(厚生省保健医療局)
d)結核・感染症サーベランスあるいは法定伝染病の時間的、地理的情報(都道府県地方衛生研究所)
e)食中毒とその原因菌:食中毒統計、地理的情報と時間的経過に関する情報は都道府県地方衛生研究所
f)疾患の臨床・治療に関する時間的経過またはその予後については担当病院の情報
g)その他の病原菌等の速報:保健所、地方衛生研究所、国立公衆衛生院研究所、大学、病院等
情報の解析と表現の問題については例示的に ヘルスマンパワーの減少率と将来予測を取り上げると次のような手順で進めることができる。将来予測モデルを行うとすれば資料としてまず死亡数、年齢別就業者数、免許取得数等が必要となる。次に減少率の計算では結婚(女性)、海外流出の資料が必要となる。以上のものがそろえれば将来予測の国際比較が可能となる。本研究ではシンガポール、台湾、韓国を対象に日本と比較できることを確認している。
今まで述べたように厚生統計情報を整理し、研究方法、分析結果のデータベースを作成すれば情報交換の基盤を築くことが可能となる。。
結論
我が国の国際的な立場から考えると厚生統計情報の国際的情報発信は今後発展途上国を視野に入れることが重要である。その戦略の基盤確立に向けて教育研修分野、研究分野、情報交換分野におけるデータベースの構築する際の具体的な方法論を示した。

公開日・更新日

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