文献情報
文献番号
201228005A
報告書区分
総括
研究課題名
HBVの感染初期過程を評価する系の開発とそれを用いた感染阻害低分子化合物およびレセプター探索
課題番号
H24-B創-肝炎-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
下遠野 邦忠(千葉工業大学 附属総合研究所)
研究分担者(所属機関)
- 落谷 孝広(国立がん研究センター研究所)
- 杉山 真也(国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター)
- 長田 裕之(理化学研究所基幹研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 B型肝炎創薬実用化等研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
70,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HBV感染による肝疾患の増悪抑制には、ウイルスの再活性化、耐性変異の出現などを克服しつつウイルス量を安定的に抑える治療法が必要である。HBV感染による肝疾患増悪を予防するためインターフェロンや他の免疫賦活化剤による治療や、逆転写酵素活性を抑える薬剤などによる治療が行われている。後者はウイルスの増殖を抑えるが完全に排除できない。また耐性ウイルス出現、薬剤投与中断による再活性化の問題がある。本研究ではHBV生活環の感染初期過程を標的にした抗HBV剤開発に向けた研究を行う。そのために、ウイルス感染を正確かつ高感度で検出する系の開発を行い、それを用いて感染を阻害する物質のスクリーニングを行う。それをもとにして得られる抗HBV剤はこれまでの薬剤とは作用点が異なるので、併用投与等により抗HBV作用を高めたり、耐性ウイルスの出現を効率よく抑えたりすると期待できる。
研究方法
(1) 培養細胞へHBVが効率よく感染する系の開発
蛍光標識HBV様粒子の作成を行う。ウイルスゲノムに蛍光発光蛋白質をコードする遺伝子、あるいはルシフェラーゼ活性を持つ遺伝子を挿入して、擬ウイルス粒子を産生させる。
(2) ヒト肝細胞増殖系の開発
感染効率の高い培養細胞系の選択と樹立。各種ヒト肝細胞、初代ヒト肝臓細胞の培養をおこない、感染効率の高い細胞を選択する。特に、近年班員の落谷が開発した4種のインヒビター・カクテル(YPAC)を含む培地を利用して、肝細胞機能が維持される細胞の培養系を試みる。この培養系が適正である事をラット肝細胞を用いて検証する。
(3) スクリーニング用天然化合物ライブラリーの整備
世界的にもユニークでかつ貴重な化合物集団である放線菌、糸状菌の二次代謝産物ライブラリー(理研天然化合物バンクNPDepo)を用いて抗HBV候補をスクリーニングするための整備を行う。
蛍光標識HBV様粒子の作成を行う。ウイルスゲノムに蛍光発光蛋白質をコードする遺伝子、あるいはルシフェラーゼ活性を持つ遺伝子を挿入して、擬ウイルス粒子を産生させる。
(2) ヒト肝細胞増殖系の開発
感染効率の高い培養細胞系の選択と樹立。各種ヒト肝細胞、初代ヒト肝臓細胞の培養をおこない、感染効率の高い細胞を選択する。特に、近年班員の落谷が開発した4種のインヒビター・カクテル(YPAC)を含む培地を利用して、肝細胞機能が維持される細胞の培養系を試みる。この培養系が適正である事をラット肝細胞を用いて検証する。
(3) スクリーニング用天然化合物ライブラリーの整備
世界的にもユニークでかつ貴重な化合物集団である放線菌、糸状菌の二次代謝産物ライブラリー(理研天然化合物バンクNPDepo)を用いて抗HBV候補をスクリーニングするための整備を行う。
結果と考察
蛍光遺伝子を内包するウイルスゲノムを作成した。HBVのプレゲノムにGFPあるいはルシフェラーゼを組み込んだゲノムを構築した。このゲノムはHBV遺伝子が部分的に欠失するので、それを補う目的でHBV遺伝子を全て発現するプラスミドも構築した。
また、肝細胞内でのウイルス蛋白質の動態を観察するために、HBSとGFPまたはmCherryを融合させた蛍光HBS蛋白を産生するゲノムを持つプラスミドも構築した。これらのプラスミドを細胞に導入する事により、組み換え粒子が産生される事を明らかにした。
YPAC因子(インヒビターカクテル)存在下で初代肝細胞を培養し細胞株を樹立する試みをラット肝細胞を用いて行った。4種のシグナル伝達阻害剤カクテルであるYPAC(Y-27632; Rho-associated kinase inhibitor, PD0325901; mitogen-activated protein kinase inhibitor, A-83-01; type 1 TGF beta receptor Alk5 inhibitor, CHIR99021; glycogen synthase kinase-3 inhibitor)をラット初代培養肝細胞に添加し,その細胞増殖,肝細胞様形態の維持を観察した結果,YPAC未処理の細胞は培養14日後には97%が細胞老化用の形態を示して死滅したのに対し、YPAC処理群では,正常な染色体数を保ちながら、70%の肝細胞が正常な肝細胞様の形態と生存率を保っており、YPACの有効性が示唆された。 今後ヒト肝臓細胞を用いて同様の培養を行い、細胞樹立を試みる。
抗HBVを微生物や植物の二次代謝産物、およびその誘導体の中に見いだすために、それらに存在する化合物ライブラリー整備した。本年度は微生物生合成遺伝子改変技術やフラクションライブラリー、表現型スクリーニング基盤を利用し、新規天然化合物の創製を行った。
また、肝細胞内でのウイルス蛋白質の動態を観察するために、HBSとGFPまたはmCherryを融合させた蛍光HBS蛋白を産生するゲノムを持つプラスミドも構築した。これらのプラスミドを細胞に導入する事により、組み換え粒子が産生される事を明らかにした。
YPAC因子(インヒビターカクテル)存在下で初代肝細胞を培養し細胞株を樹立する試みをラット肝細胞を用いて行った。4種のシグナル伝達阻害剤カクテルであるYPAC(Y-27632; Rho-associated kinase inhibitor, PD0325901; mitogen-activated protein kinase inhibitor, A-83-01; type 1 TGF beta receptor Alk5 inhibitor, CHIR99021; glycogen synthase kinase-3 inhibitor)をラット初代培養肝細胞に添加し,その細胞増殖,肝細胞様形態の維持を観察した結果,YPAC未処理の細胞は培養14日後には97%が細胞老化用の形態を示して死滅したのに対し、YPAC処理群では,正常な染色体数を保ちながら、70%の肝細胞が正常な肝細胞様の形態と生存率を保っており、YPACの有効性が示唆された。 今後ヒト肝臓細胞を用いて同様の培養を行い、細胞樹立を試みる。
抗HBVを微生物や植物の二次代謝産物、およびその誘導体の中に見いだすために、それらに存在する化合物ライブラリー整備した。本年度は微生物生合成遺伝子改変技術やフラクションライブラリー、表現型スクリーニング基盤を利用し、新規天然化合物の創製を行った。
結論
蛍光発光あるいはルシフェラーゼ活性を持つ遺伝子を内包したHBVゲノムを構築し、それを、HBV蛋白質を発現する細胞に導入してウイルス粒子が産生されるのを見た。
また、HBV感染高率の高い新規細胞を樹立する目的で、初代肝細胞あるいは既に樹立されている肝細胞の培養を特殊な培地を用いて行った。まずラット肝細胞を用いて培養を試験的に行い、YPAC存在条件では正常な肝細胞様の形態と生存率を保つ事を確認した。また、抗HBV剤スクリーニングのために、微生物や植物の二次代謝産物の整備をおこなった。これまでの研究は順調に進み、今後HBV阻害剤のスクリーニング開発に向けて準備が整いつつある。
また、HBV感染高率の高い新規細胞を樹立する目的で、初代肝細胞あるいは既に樹立されている肝細胞の培養を特殊な培地を用いて行った。まずラット肝細胞を用いて培養を試験的に行い、YPAC存在条件では正常な肝細胞様の形態と生存率を保つ事を確認した。また、抗HBV剤スクリーニングのために、微生物や植物の二次代謝産物の整備をおこなった。これまでの研究は順調に進み、今後HBV阻害剤のスクリーニング開発に向けて準備が整いつつある。
公開日・更新日
公開日
2015-06-03
更新日
-