文献情報
文献番号
201228004A
報告書区分
総括
研究課題名
B型肝炎ウイルス感染受容体の分離・同定と感染系の樹立及び感染系による病態機構の解析と新規抗HBV剤の開発
課題番号
H24-B創-肝炎-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
上田 啓次(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
- 森石 恆司(山梨大学 大学院医学工学研究部医学学域)
- 黒田 俊一(名古屋大学 大学院産業生命工学)
- 黒木 和之(金沢大学 分子生物学)
- 岡本 徹(大阪大学 微生物病研究所)
- 三善 英知(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
- 三崎 亮(国立大学法人大阪大学 大学院工学研究科)
- 竹原 徹郎(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
- 考藤 達哉(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
- 大崎 恵理子(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 B型肝炎創薬実用化等研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
162,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
B型肝炎ウイルス(HBV)はウイルスの発見から半世紀になるが、簡便な実験室レベルでの感染系は未だ存在せず、HBVの感染・病態発症機構の解明や効果的な治療法の開発に多大な悪影響をもたらしている。ワクチンによりHBV新規感染はかなり制御されていると思われるが、ワクチン回避変異体の出現もあり、完璧な制御が達成されているとは言い難い。日本では今尚150万人前後の感染患者がいると推定され、医療財政的、社会的にも重要度の高い感染症である。世界的には2~3億人の感染患者が存在する世界最大級の感染症の一つであり、その制圧・制御に向けたエビデンスに基づく効率的でかつ確実な治療法の開発が不可欠である。そのためにはHBV感染受容体を分離・同定し、簡便なin vitro、in vivo感染系を構築する必要がある。本申請ではHBV感染系の構築を第一目標とし、本系を利用したHBV感染・病態発症機構の詳細な解明、治療法の開発、更にHBVベクターによる肝細胞を標的とした遺伝子治療の可能性に挑む。
研究方法
HBV膜粒子を被ったレトロウイルス(HBV pseudotype particle; HBVpp)の作製に成功し、感染能を指標にしたHBV感染受容体の生物学的スクリーニングを可能にした。本システムを有効に活用するとともに、複数の研究者が情報交換しながら、多角的にHBV感染受容体の分離・同定に挑む(上田、森石、黒田、黒木、岡本)。
また、HBV感染や遺伝子発現に伴う病態発症機構の解明に向けて、糖鎖修飾の変化(三善、三崎)や免疫監視機構の不全現象の解明に向けた研究(竹原、考藤)を同時に進行させ、感染系樹立時にみるべき標的を的確に絞り込む。更に、抗HBV創薬への直接的なアプローチとして、HBVポリメラーゼの発現・アッセイ系を確立する(大崎)。
また、HBV感染や遺伝子発現に伴う病態発症機構の解明に向けて、糖鎖修飾の変化(三善、三崎)や免疫監視機構の不全現象の解明に向けた研究(竹原、考藤)を同時に進行させ、感染系樹立時にみるべき標的を的確に絞り込む。更に、抗HBV創薬への直接的なアプローチとして、HBVポリメラーゼの発現・アッセイ系を確立する(大崎)。
結果と考察
HBV感染受容体を同定するため、B型肝炎ウイルス(HBV)膜蛋白のPreS1領域と相互作用する因子を分離した。また感染誘導処理+/-、分化誘導処理+/-で変動する蛋白分子を2次元電気泳動法で分離した。2012年11月にHBV感染受容体として報告されたNTCPについて、現存肝癌由来培養細胞株で発現動態を検討し、殆ど発現がみられないことを確認した。一方、酵母で発現精製したHBV L蛋白粒子が、肝癌由来培養細胞株Huh7細胞に低親和性・高親和性受容体を介して取込まれるという示唆を得た。
HBV産生細胞株HB611細胞(HBV産生細胞)ではHuh6細胞に較べて、SSAおよびAALレクチンとの結合が増加し、逆にE4-PHAとの著明な結合性の低下を認め、HBV産生状態では宿主細胞の糖鎖修飾状態が変化することが示唆された。
免疫抑制に関わる抹消血単核球のMDSCの頻度を測定し、健常人に比し、B型慢性肝炎患者ではMDS Cの頻度が高い傾向にあることを確認した。このことはMDSCがHBV感染に伴う免疫抑制状態に関わっていることを示唆している。免疫抑制作用をもつindoleamnine-2,3-dioxygenase (IDO)はHBV感染患者で亢進していることを見出し、更にHBV感染がIDOの活性亢進に必要であることを示した。
HBVポリメラーゼの大腸菌での発現により、ドメインを構成する末端蛋白、逆転写酵素領域の発現・精製に成功した。
HBV産生細胞株HB611細胞(HBV産生細胞)ではHuh6細胞に較べて、SSAおよびAALレクチンとの結合が増加し、逆にE4-PHAとの著明な結合性の低下を認め、HBV産生状態では宿主細胞の糖鎖修飾状態が変化することが示唆された。
免疫抑制に関わる抹消血単核球のMDSCの頻度を測定し、健常人に比し、B型慢性肝炎患者ではMDS Cの頻度が高い傾向にあることを確認した。このことはMDSCがHBV感染に伴う免疫抑制状態に関わっていることを示唆している。免疫抑制作用をもつindoleamnine-2,3-dioxygenase (IDO)はHBV感染患者で亢進していることを見出し、更にHBV感染がIDOの活性亢進に必要であることを示した。
HBVポリメラーゼの大腸菌での発現により、ドメインを構成する末端蛋白、逆転写酵素領域の発現・精製に成功した。
結論
HBV感染受容体の可能性のある因子を幾つか分離した。これらはNTCPと相互作用している可能性もある。
HBV感染・増殖で宿主糖鎖修飾状態、免疫動態が変化することが示唆された。
HBVポリメラーゼのドメンンは大腸菌での発現が可能であり、活性測定系確立への道筋が開かれた。
HBV感染・増殖で宿主糖鎖修飾状態、免疫動態が変化することが示唆された。
HBVポリメラーゼのドメンンは大腸菌での発現が可能であり、活性測定系確立への道筋が開かれた。
公開日・更新日
公開日
2015-06-03
更新日
-