B型肝炎ウイルスの感染複製機構の解明に関する研究

文献情報

文献番号
201228003A
報告書区分
総括
研究課題名
B型肝炎ウイルスの感染複製機構の解明に関する研究
課題番号
H24-B創-肝炎-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
脇田 隆字(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 哲朗(浜松医科大学 医学部)
  • 梁 明秀(横浜市立大学大学院 医学研究科)
  • 朴 三用(横浜市立大学大学院 生命医科学研究科)
  • 菅 裕明(東京大学大学院 理学系研究科)
  • 千葉 勉(京都大学大学院 医学研究科)
  • 加藤 直也(東京大学 医科学研究所)
  • 飯島 沙幸(名古屋市立大学大学院 医学研究科)
  • 堀田 博(神戸大学大学院 医学研究科)
  • 竹原 徹郎(大阪大学大学院 医学系研究科)
  • 加藤 孝宣(国立感染症研究所 ウイルス第二部 )
  • 相崎 英樹(国立感染症研究所 ウイルス第二部 )
  • 岡本 徹(大阪大学 微生物研究所)
  • 榎本 信幸(山梨大学大学院 医学工学総合研究部)
  • 馬場 昌範(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科)
  • アクバル シェイクモハマドファズレ(東芝病院 研究部)
  • 森川賢一(昭和大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 B型肝炎創薬実用化等研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
200,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
B型肝炎の治療では逆転写酵素阻害剤が導入されて、抗ウイルス療法が可能となった。しかし、逆転写酵素阻害剤単剤の治療ではウイルス排除に向けた根治は困難で、またウイルス量の制御のために抗ウイルス薬を中止することも難しい。さらに薬剤耐性ウイルス出現のリスクがある。従って、多くのHBVキャリアの治療法開発、改善のために新たな抗HBV治療薬の開発が望まれている。
 本研究ではB型肝炎の新規治療薬開発に向けて、HBVの感染複製増殖機構の解明を目指す。HBVは細胞表面から細胞内へ侵入し、核へ運ばれる。核内で不完全二重鎖DNAが完全二重鎖となり、cccDNAとなる。複数のウイルスRNAが転写され、翻訳されたコアタンパクが形成するキャプシドにpregenomic RNAが逆転写酵素と共にパッケージングされ、ヌクレオキャプシドを形成する。pregenomic RNAはキャプシド内でマイナス鎖DNAに逆転写され、さらにプラス鎖DNAが合成され不完全二重鎖DNAとなる。ヌクレオキャプシドはHBs抗原を表面に持つエンベロープを被り、ウイルス粒子が完成して細胞外へ分泌される。このウイルスの生活環の各過程を詳細に検討し、関与する宿主因子の同定などを通じてそのメカニズムを解明して新たな抗ウイルス薬標的を同定する
研究方法
HBVに対する新規治療薬開発に向けて、HBV感染複製増殖機構の解明を目指す。ウイルスの生活環の各過程を網羅的かつ詳細に検討し、関与する宿主因子の同定などを通じてそのメカニズムを解明する。さらに、各過程の解析から新たな抗ウイルス薬標的を同定する。下記の研究項目について研究を進める。
1.ウイルス生活環各ステップを制御する因子の同定とその分子メカニズム解析
2.初期感染過程(ウイルス吸着から侵入、核への輸送)の解析
3.cccDNA転写機構、ウイルスゲノムインテグレーション機構、ウイルスゲノム複製機構の解析
4.ウイルス構造蛋白質、逆転写酵素の発現、酵素活性、構造の解析
5.ウイルス粒子形成および分泌機構の解析
6.HBc抗原、HBx抗原の発現、機能、構造の解析
結果と考察
1.ウイルス生活環の制御因子同定: HBV感染により誘導される宿主因子の網羅的プロテオーム解析のため、テトラサイクリンによるHBV発現調整細胞株作成を試みている。
2.初期感染過程の解析:HBVゲノム複製細胞へのsiRNAライブラリー導入条件を検討した。また、患者血中HBVゲノムPreS/S領域変異・欠失と野生型の混在比率が、肝炎の病態進展と関連する可能性を示した。
3.転写機構、インテグレーション機構の解析: HBV mRNAの核外輸送機構解明ため、HBVゲノムの転写後調節エレメント(PRE)結合因子をスクリーニングした。分子量45~150 kDaの約10種類の結合候補を得た。
4.ウイルス蛋白質発現、機能および構造の解析:カプシド蛋白を標的とした抗HBV薬の同定と開発を目的として,薬剤ライブラリーの中から169,320個の薬剤について,in silicoスクリーニングアッセイを実施し,docking scoreの高かった50薬剤を選び出した。現在,その中から19薬剤を入手し,培養細胞を用いた抗HBV活性の検討を進めている。
コムギ無細胞タンパク質合成系を用いてHBV逆転写酵素を合成し、活性を指標とした阻害剤アッセイ系を構築中である。
5.ウイルス粒子形成および分泌機構の解析:任意の時期に肝細胞にHBV全タンパク質を発現し、肝炎としての免疫応答を惹起する新規モデルマウスの作成を進めている。肝細胞特異的にHBVを誘導発現するコンストラクトを作成し、マウス胚へinjectionした。
6.HBx抗原の発現、機能、構造の解析:HBx蛋白質の構造情報を得るため、大腸菌発現系を用いたが、可溶性の蛋白質を得られず、GST融合蛋白質として発現確認中である。また、昆虫細胞およびBrevibacillus発現系での発現確認を行う。HBxタンパク質と相互作用する宿主因子を質量分析法で解析し、脱メチル化酵素であるJumonji domain containing 5 (JMJD5) を同定した。JMJD5はHBxと直接結合し、HBVの粒子産生を抑制した。JMJD5はp53との相互作用が示唆されており、HBVの粒子産生にp53の関与を示す成績が得られた
結論
平成24年度の各研究はアッセイ系の構築等が中心となったが、すでに多くの研究成果が得られている。抗ウイルス活性を有する候補化合物の同定、HBV蛋白質と結合する宿主因子の同定などが進んだ。本研究により、HBV感染による肝硬変および肝臓癌という高度な医療が必要な疾患の患者数を減らすことができれば、結果的に医療費の低減に寄与し、社会の福祉に寄与することが可能となる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-30
更新日
-

収支報告書

文献番号
201228003Z