炎症により誘導されるビタミンA非含有細胞のマトリクス産生とその機序 ―肝硬変の進行遮断と肝機能の再生を目指した線維化防御標的の発見―

文献情報

文献番号
201227038A
報告書区分
総括
研究課題名
炎症により誘導されるビタミンA非含有細胞のマトリクス産生とその機序 ―肝硬変の進行遮断と肝機能の再生を目指した線維化防御標的の発見―
課題番号
H24-肝炎-若手-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
朝霧 成挙(京都大学 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 上本 伸二(京都大学 医学研究科)
  • 池田 一雄(大阪市立大学 医学研究科)
  • 祝迫 惠子(大阪市立大学 医学研究科)
  • 武田 憲彦(東京大学医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 肝線維症は,肝臓におけるコラーゲンを主とした細胞外基質(ECM)の蓄積であり、この病態反応は、ほぼ全ての原因による慢性肝炎に共通である。慢性肝炎の終末像は肝硬変であり、肝硬変の治療法は肝移植を除けば対症療法のみである。肝線維化の進行を阻止する治療薬を開発することは、医学的にも医療経済上も重要である。本研究の目的は肝炎・肝障害時に誘導されるコラーゲン産生細胞の中から、新たな細胞群を分離、解析して、肝炎におけるコラーゲン産生メカニズムを明らかにするとともに、肝硬変への病態進行を阻止する治療薬を開発するための分子基盤を提供することである。
研究方法
 本研究において、祝迫、朝霧らは、カリフォルニア大学 Professor David Brenner との協働で、Collagen α1(I) promoter-GFP トランスジェニックマウスを用いて、このマウスに四塩化炭素を投与する実験を行い、肝臓内でコラーゲンを発現する細胞をモニターできる実験系を開発するとともに、ビタミンA非含有細胞(非肝星細胞系列細胞)が ECMを産生するという知見を得た。このマウスに、種々の肝炎モデルを導入することで、肝炎特異的なコラーゲン産生細胞を GFP蛍光を指標に網羅的に検討することができる。肝炎・肝臓線維化モデルとしては、四塩化炭素投与モデル (ウイルス肝炎や薬剤性肝障害における肝炎・肝臓線維化の動物モデル)、胆管結紮モデル (胆道閉鎖症, 原発性胆汁性肝硬変, 原発性硬化性胆管炎等における胆汁性肝線維症の動物モデル)などの一般的な実験系を用いた。上記遺伝子改変マウスと独自に開発した生体内解析系を組み合わせることで、肝障害に呼応して誘導されるECM産生細胞の性状解析を進めた。具体的には、上述マウスからセルソーターによりGFP陽性細胞を分取して、ビタミンA非含有細胞(非肝星細胞系列細胞)が肝障害時にECMを産生することを確認するとともに、細胞表面マーカーなどからその細胞の特異的な性状を決定し、肝星細胞を特徴づけるマーカー群との相違について検討した。また、分取細胞より RNA を回収して、DNA microarray 等により遺伝子発現解析も行った。これらの解析により、肝線維症でコラーゲンを産生する細胞群を網羅的に解析した。
結果と考察
 Collagenα1(I)promoter-GFPトランスジェニックマウスを用いて、四塩化炭素投与、胆管結紮を行い、肝炎・肝臓線維化モデルを作成した。Collagenase type Ⅳをマウスの門脈から潅流して肝組織を消化し、肝非実質細胞(コラーゲン産生細胞 を含む)を採取した。FACS にて、ビタミンA 含有とGFP 発現を指標に解析を行ったところ、四塩化炭素投与モデルでは、GFP を発現する細胞(コラーゲン産生細胞)の80%以上がビタミンA を含有しているのに対し、胆管結紮モデルのGFP 陽性細胞のビタミンA 含有細胞は56%であることがわかった。
 ビタミンA 含有GFP 陽性細胞とビタミンA 非含有GFP 陽性細胞を各モデルからセルソーターで分取し、プラスティックディッシュ上での培養を試みた。初代培養肝星細胞の培養法でいずれの分画も培養が可能であった。形態観察から、ビタミンA 含有GFP 陽性細胞の起源は肝星細胞、ビタミンA 非含有GFP 陽性細胞の起源は、胆管周囲線維芽細胞と考えられる。コラーゲン産生の代表的な刺激因子であるTGFβ1 や肝星細胞のアポトーシスを誘導するβNGF を添加し、関連遺伝子の発現レベルをRT-PCR で比較した。TGFβ1 の添加により、ビタミンA 含有GFP 陽性細胞とビタミンA 非含有GFP 陽性細胞のいずれにおいてもCollagenα1(I), αSMA, TIMP1 などの発現が上昇し、両細胞群で感受性に差は認められなかった。一方、βNGF の添加では、ビタミンA 含有GFP 陽性細胞のみでBcl-2 familyの遺伝子発現が上昇し、ビタミンA 非含有GFP 陽性細胞では反応がみられなかった。両者の性質の違いを明らかにするためにマイクロアレイによって網羅的な遺伝子発現解析を行った。Thy1の発現がビタミンA 含有GFP 陽性細胞と比較して、ビタミンA 非含有GFP 陽性細胞では1.8 倍という結果が得られた。
結論
 これまでにも、肝星細胞以外の細胞系列を起源とするECM産生細胞の存在が示唆されてきたが、生細胞として分取し、その性状を明らかにした報告はない。我々が確立した方法によって、肝炎・肝線維化進行時に細胞外マトリクスを産生するビタミンA 非含有細胞の解析が可能になり、活性化と細胞外マトリクス産生のメカニズムを明らかにすることにより、肝線維化の治療標的が見出されることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201227038Z