C型肝炎ウイルス感染特異的な長鎖ノンコーディングRNAの探索

文献情報

文献番号
201227037A
報告書区分
総括
研究課題名
C型肝炎ウイルス感染特異的な長鎖ノンコーディングRNAの探索
課題番号
H24-肝炎-若手-011
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
島上 哲朗(金沢大学 医薬保健研究域医学系)
研究分担者(所属機関)
  • 白崎 尚芳(金沢大学 医薬保健研究域保健学系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦におけるC型慢性肝に対する治療は、プロテアーゼ阻害剤の使用が可能となり、C型肝炎ウイルス(HCV)排除率は約80%にまで向上することが予想される。しかし、今後プロテアーゼ阻害剤耐性ウイルスによるbreakthrough肝炎、またインターフェロンの副作用による治療困難例への対策が必要となる。そのため既存治療とは異なる作用機序の新規抗HCV療法の開発が急務と考えられる。近年、200塩基以上のlong non-coding RNA(lncRNA)が、様々な疾患・病態において重要な役割を果たしていることが報告されている。本研究ではHCV感染を制御しうるlncRNAの同定を行なうことを目的とした。
 具体的に以下の目的に基づき研究を行う予定である。 (1)-(3)はHCVの培養細胞系を用い、(4)は患者サンプルを用い行い予定である。
1)HCV感染特異的に発現が増減するlncRNAを探索する。
2)さらにそれらのlncRNAの中からHCV複製および感染を制御するlncRNAを同定する。
3)同定したlncRNAによるHCV複製制御機構を解明する。
4)C型慢性肝炎感染肝組織のおけるlncRNAの発現と、インターフェロン治療効果およびインターフェロン治療抵抗性の関連を明らかにする。
研究方法
HCV培養細細胞系を用い上記目的のうち(1)と(2)を行った。島上が主にマイクロアレイ法を用いたlncRNAの発現解析を、また培養細胞系を用いたlncRNAの機能解析は白崎が行った。
1)細胞培養感染クローンである、遺伝子型Ia H77S株とIIa JFH1株のキメラであるHJ3-5株をヒト肝癌細胞株(Huh7.5)にMOI 5で感染させ、感染12、24、36、48、72時間後に細胞全RNAを回収した。また感染24時間後にEC50の5倍(50pM)、および100倍濃度(1nM)のNS5A阻害剤を投与し、その48時間後(感染72時間後)に同様に細胞全RNAを回収した。
2)これらのRNAのうちpolyAを有するRNAのみ選択的に増幅し、約15000個のlncRNAと約28000個のcoding RNAに対するプローブを有するDNAチップを用いてマイクロアレイ法にて各々のRNAの発現解析を行った。
3)同時にHCV RNA量をqRT-PCR法にて測定し、HCV RNA量とマイクロアレイ法にて測定したlncRNA量との相関を検討した。
4)マイクロアレイ法にて得られたlncRNAの発現量のデータを用いて、HCV RNA量と発現が相関するlncRNA群の抽出を行った。
5)HCV RNA量と最も強い負の相関を示したlncRNA-Aに着目した。lncRNA-Aに対するsiRNAを作成し、lncRNA-A発現抑制のHCV複製に与える影響を検討した。
結果と考察
1)マイクロアレイ法を用いたlncRNAの発現パターンは、HCV感染・非感染、また感染後の時系列、NS5A阻害剤添加によってクラスタリングされた。この結果からlncRNAの発現は、HCVの感染の影響を受けていることが示唆された。
2)HCV RNA量と発現が相関するlncRNA群を抽出した。これらの中にはHCV感染を制御しているものが含まれている可能性が考えられ、今後各々のlncRNAのHCV複製における役割を検討する予定である。
3)次年度以降は次世代シークエンサー(RNAシークエンス)にてHCV感染を制御する新規のlncRNAの探索も行う予定である。
4)HCVのp7とNS2の間に分泌型ルチフェラーゼを含むHCVが持続的に複製する細胞を作成し、lncRNA-Aに対するsiRNA2種類を導入し、ルチフェラーゼ活性にてHCV複製に対する影響を検討した。その結果lncRNA-Aの発現抑制により、HCV複製は1.5倍から2倍にまで増強した。
5)あらかじめヒト肝がん細胞株Huh7.5細胞にlncRNA-Aに対するsiRNA2種類を導入し、その72時間後に分泌型ルチフェラーゼを含んだHCVを感染させ、ルチフェラーゼ活性にてHCV感染・複製に対する影響を検討した。その結果lncRNA-Aの発現抑制によりHCVの感染・複製は2倍から3倍にまで増強した。
6)次年度以降lncRNA-AのHCV複製制御機構の解明を行う予定である。
結論
HCV感染培養細胞由来RNAをマイクロアレイ法を用い解析を行い、HCV感染を制御している可能性が考えられるlncRNA群を抽出した。その中でも、lncRNA-Aは、HCV複製に対して抑制的に働いている可能性示唆された。来年度以降、lncRNA-AによるHCV複製制御機序の解明を行う予定である。またlncRNA-A以外のHCV複製を制御しうるlncRNAの検索も行う予定である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201227037Z