文献情報
文献番号
201227036A
報告書区分
総括
研究課題名
C型肝炎ウイルスの新規ワクチン開発に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-肝炎-若手-010
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
渡邉 則幸(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
6,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
C型肝炎ウイルス感染者は徐々に肝炎を発症し、炎症が慢性化すると肝硬変、最終的には10~30年かけて肝ガンへと進行することが知られている。肝ガンの原因の大部分はC型肝炎ウイルスによることが報告されており、現在のところ感染患者への治療としてはペグリバビリン‐インターフェロン併用療法が有効であるが、すべての感染患者に対して効果がある訳ではない。このことからも感染予防ワクチンや抗ウイルス薬治療によるウイルス排除の対策が望まれる。本研究では、ワクチンの候補としてvirus-like particle(VLP)を用いて、誘導される抗体の感染中和効果ついて解析したい。使用するVLPは昆虫細胞株であるDrosophila S2細胞を用いて作製する。この細胞を用いる利点としては、S2細胞で作製したタンパク質については正常な立体構造を形成しやすいことから、感染性HCV粒子と同様の構造を有するVLPの作製が期待できる。また、VLPは感染性を全く示さないことからワクチンとして用いる場合の安全性は高いと言える。初めに、VLPの性状を解析したうえで、大量培養、精製を行いたい。更にワクチンとしての中和抗体の誘導効果について実験動物を用いて検討する。
研究方法
昆虫細胞株Drosophila S2細胞を用いてHCVコアタンパク質、またはエンベロープ2タンパク質までの構造領域を発現するプラスミドを遺伝子導入して安定細胞株を作製した。細胞を硫酸銅存在下で培養することでVLPを産生させ、分泌されたVLPの性状を解析した。ゲル濾過法によるおおよその分子量測定、ショ糖密度勾配法による粒子の密度測定、電子顕微鏡による粗精製試料の観察などを行った。精製VLPを得るため、培養上清の濃縮法(限外濾過、超遠心沈殿、硫酸アンモニウム沈殿法)を試みた。
結果と考察
HCVコアタンパク質発現プラスミドおよび薬剤選択プラスミドをS2細胞に遺伝子導入し安定細胞株を樹立した。安定細胞株に硫酸銅を添加することでHCVコアタンパク質を発現させた。S2細胞に発現させたHCVコアタンパク質は培養上清中に分泌されることが分かった。
分泌されたコアタンパク質の性状についてショ糖密度勾配法で分画してコアタンパク質の密度を測定した。分泌されたコアタンパク質は1.06 g/mlの軽い密度を示した。培養上清を界面活性剤NP-40で処理し、密度を測定ところ1.06 g/mlのピークが1.15 g/mlに変化した。これは報告されているコアタンパク質が脂質と親和性が高いという特徴と一致する結果である。また、ゲル濾過法で分画したところ分子量約1000kDaの巨大構造分子であることも分かった。更に分泌された粒子の濃縮、粗精製を試みて電子顕微鏡で解析したところ50-100 nmの粒子構造が確認された。以上のことから樹立した安定細胞株から放出された構造分子はVLPであることを示唆する。
コアタンパク質からエンベロープ2タンパク質までの構造領域を発現する安定細胞の樹立とそのVLP誘導を試みたが、コアタンパク質領域のみのVLPより分泌が著しく低下した。J6/JFH-1キメラ株ではHCV粒子産生が増加することから、VLPの構造領域をJ6株の配列に変更したところ、VLP分泌の著しい低下は起こらずエンベロープまで含むHCV構造領域のVLPの産生系を構築できた。
J6株のコア領域を発現する細胞株、コアからエンベロープ2領域を発現する細胞株からVLPを含む約3Lの培養上清を限外濾過で濃縮した。ショ糖密度勾配法を試みたがVLPフラクションを回収するのは困難であった。次に、硫酸アンモニウム沈殿法によるタンパク質濃縮法を試みた。沈殿を溶解してショ糖密度勾配で分画したところ、VLPは1.06および1.15 g/mlの2つのピークを示した。VLPは沈殿させても粒子構造は保たれていた。沈殿操作による粒子の分解などは観察されず、VLPの粒子構造を保ったままの濃縮が可能であったことから硫酸アンモニウム沈殿法は有用なVLP濃縮法であると考えられる。
本研究ではVLPによる中和抗体誘導効果の解析を行うために昆虫細胞を用いたVLP産生系、精製法の構築まで行った。VLPの精製度を高めるためには産生量を増加させる工夫、無血清培地でのVLP産生などの方法が有効になる。また用いたカラムを変更することでも精製度の向上が望める。今回の精製法に更に改善を加えて免疫実験に用いるためのVLP試料を準備したいと考えている。
分泌されたコアタンパク質の性状についてショ糖密度勾配法で分画してコアタンパク質の密度を測定した。分泌されたコアタンパク質は1.06 g/mlの軽い密度を示した。培養上清を界面活性剤NP-40で処理し、密度を測定ところ1.06 g/mlのピークが1.15 g/mlに変化した。これは報告されているコアタンパク質が脂質と親和性が高いという特徴と一致する結果である。また、ゲル濾過法で分画したところ分子量約1000kDaの巨大構造分子であることも分かった。更に分泌された粒子の濃縮、粗精製を試みて電子顕微鏡で解析したところ50-100 nmの粒子構造が確認された。以上のことから樹立した安定細胞株から放出された構造分子はVLPであることを示唆する。
コアタンパク質からエンベロープ2タンパク質までの構造領域を発現する安定細胞の樹立とそのVLP誘導を試みたが、コアタンパク質領域のみのVLPより分泌が著しく低下した。J6/JFH-1キメラ株ではHCV粒子産生が増加することから、VLPの構造領域をJ6株の配列に変更したところ、VLP分泌の著しい低下は起こらずエンベロープまで含むHCV構造領域のVLPの産生系を構築できた。
J6株のコア領域を発現する細胞株、コアからエンベロープ2領域を発現する細胞株からVLPを含む約3Lの培養上清を限外濾過で濃縮した。ショ糖密度勾配法を試みたがVLPフラクションを回収するのは困難であった。次に、硫酸アンモニウム沈殿法によるタンパク質濃縮法を試みた。沈殿を溶解してショ糖密度勾配で分画したところ、VLPは1.06および1.15 g/mlの2つのピークを示した。VLPは沈殿させても粒子構造は保たれていた。沈殿操作による粒子の分解などは観察されず、VLPの粒子構造を保ったままの濃縮が可能であったことから硫酸アンモニウム沈殿法は有用なVLP濃縮法であると考えられる。
本研究ではVLPによる中和抗体誘導効果の解析を行うために昆虫細胞を用いたVLP産生系、精製法の構築まで行った。VLPの精製度を高めるためには産生量を増加させる工夫、無血清培地でのVLP産生などの方法が有効になる。また用いたカラムを変更することでも精製度の向上が望める。今回の精製法に更に改善を加えて免疫実験に用いるためのVLP試料を準備したいと考えている。
結論
本研究はVLPによる中和抗体誘導効果についての解析を目的としてスタートしたが、当初の予定通りには進まず実験動物への免疫操作に進むためには、VLP産生量の増加、VLP精製法の改善が必要であった。今後はこれらを改善して中和抗体誘導効果についての検証を行いたい。
公開日・更新日
公開日
2015-06-03
更新日
-