C型肝炎ウイルスの非構造蛋白5Aを標的とした新規治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201227015A
報告書区分
総括
研究課題名
C型肝炎ウイルスの非構造蛋白5Aを標的とした新規治療法の開発に関する研究
課題番号
H22-肝炎-若手-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
村山 麻子(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
4,980,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、NS5Aを標的とした新規治療薬の開発を目的としており、今年度は様々な遺伝子型のNS5Aに対する抗HCV薬の評価系を樹立し、その系を用いてNS5A阻害薬の評価を行うことを目的とした。
研究方法
HCV JFH-1株のNS5A領域を各遺伝子型(H77; 1a、Con1; 1b、J6CF; 2a、MA; 2b)のウイルス株由来の配列に置換したJFH-1キメラウイルスゲノムを作製した。全長の各キメラウイルスの合成RNAをHuh-7.5.1細胞に導入し、継時的に細胞、培養上清を回収した。細胞内、培養上清のコア抗原量はCLEIA法で測定した。NS5A阻害剤の効果を検討するために、HCV RNAを細胞に導入し、4時間後に各NS5A阻害剤を0、0.5、5、50、500、5000 (pM)の濃度で添加した。2日後の細胞内のコア抗原量を測定し、薬剤無添加時の細胞内のコア抗原量と比較し、各NS5A阻害剤の抗HCV効果を評価した。細胞傷害性はCellTiter96を用いて評価した。
結果と考察
1). NS5Aを各遺伝子型のウイルス株由来の配列に置換したJFH-1キメラウイルスの増殖能の検討
JFH-1株、およびNS5Aを各遺伝子型のウイルス株由来の配列に置換したキメラJFH-1株(JFH-1/5A-H77、JFH-1/5A-Con1、JFH-1/5A-J6、JFH-1/5A-MA)のHCV RNAは細胞内で複製し、感染性ウイルスを産生した。細胞内コア抗原量は、トランスフェクション2日後はいずれのNS5A置換ウイルスでもJFH-1と同レベルであり、これらのキメラウイルスは抗HCV薬評価系として利用可能であると考えられた。
2). 第一世代のNS5A阻害剤のHCV増殖抑制効果の検討
上記で作製したNS5Aを各遺伝子型に置換したJFH-1キメラウイルスを用いて、第一世代のNS5A阻害剤のウイルスの遺伝子型による抗HCV効果の違いについて検討した。その結果、この阻害剤は遺伝子型1a、1bのウイルスの複製は低濃度で抑制したが、遺伝子型2a、2bのウイルスに対しては抑制効果は低かった(EC50=2.8 nM (2a)、>5 nM (2b))。この阻害剤はいずれの濃度でも細胞傷害性は示さなかった。
3). 第二世代の新規NS5A阻害剤のHCV増殖抑制効果の検討
三種類の第二世代の新規NS5A阻害剤を用いて同様の検討を行った。いずれの薬剤でも遺伝子型1のキメラ株に対する抗HCV効果は第一世代のNS5A阻害剤と同様に高かった。そのうち二種類の阻害剤では遺伝子型2のキメラ株でも、遺伝子型1のキメラ株と同程度の高い感受性を示した (26.7 ± 1.7 pM -198.0 ± 28.1 pM)。これらの阻害剤はいずれの濃度でも細胞傷害性は示さなかった。以上の結果から、これらの薬剤は、遺伝子型に関わらず高い抗HCV効果のある薬剤として期待できる。
さらに、本研究で樹立したNS5A置換キメラウイルスを用いた薬剤評価系は、同様の手法により培養細胞増殖系のない多くのHCVの遺伝子型に関しても新規薬剤の効果が評価可能であり、有用であると考えられる。
結論
JFH-1株のNS5A領域を他のHCV株に入れ換えたキメラ株を用いて、様々な遺伝子型のNS5Aを評価可能な抗HCV薬評価系を樹立し、NS5A阻害薬のウイルス株特異的効果を検討した。第一世代のNS5A阻害薬は遺伝子型1a, 1bのウイルスの複製は低濃度で抑制したが、2a, 2bのウイルスの複製は抑制効果は低かった。第二世代のNS5A阻害薬は、いずれの遺伝子型のウイルスの複製も低濃度で阻害した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201227015B
報告書区分
総合
研究課題名
C型肝炎ウイルスの非構造蛋白5Aを標的とした新規治療法の開発に関する研究
課題番号
H22-肝炎-若手-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
村山 麻子(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的はNS5Aを標的とした新規治療法の開発である。具体的には、(1)NS5Aをリン酸化するPK(プロテインキナーゼ)の網羅的探索、(2)同定されたPKがHCV生活環に及ぼす影響の解析とその作用機序の解明、(3) HCVゲノム複製を制御するNS5A結合環化ペプチドの取得、(4)様々な遺伝子型のNS5Aに対する抗HCV薬評価系の樹立およびNS5A阻害薬の評価、について解析を行う。
研究方法
1). HCVの生活環に関与するPKの同定
HCV JFH-1株のNS5Aをコムギ胚芽無細胞転写・翻訳系で合成し精製した。また、404種類のヒトPKのcDNAライブラリーから同様の方法で精製PKを取得した。NS5AとPKの相互作用はAlphaScreen法を用いて解析した。In vitro リン酸化アッセイは、精製PKを[γ-32P]ATP存在下において精製NS5Aと混和し、SDS-PAGEで展開後、リン酸化NS5Aのバンドを検出した。PKのノックダウンには、PKのsiRNAもしくはshRNA発現ベクターを用いた。siRNA導入2日後にHCV RNAを導入し、さらに3日間培養した。細胞内、培養上清のコア抗原量はCLEIA法で測定した。感染性ウイルス粒子の形成効率は、細胞中でのコア抗原量に対する感染力価の比を計算することにより評価した。
2). HCVゲノム複製を制御するNS5A結合環化ペプチドの取得
大腸菌で発現・精製したNS5Aと環化ペプチドライブラリーを用いて結合するペプチドのスクリーニングを行った。取得ペプチドをHCVサブゲノミックレプリコン細胞に導入し、抗HCV作用を解析した。
3). NS5Aを各遺伝子型に置換したJFH-1キメラウイルスゲノムの作製と増殖能の検討
HCV JFH-1株の全長を組み込んだプラスミドのNS5A領域をPCR法によりH77株(遺伝子型1a)、Con1株(1b)、J6CF株(2a)、MA株(2b)由来の配列に置換したコンストラクトを作製した。これらの合成RNAをHuh-7.5.1細胞にトランスフェクションし、継時的に細胞、培養上清を回収し、コア抗原量を測定した。
4). 各種薬剤のHCV増殖抑制効果の検討
HCV RNAを細胞に導入し、4時間後に薬剤を添加した。2日後の細胞内または細胞外のコア抗原量を測定し、各薬剤の抗HCV効果を評価した。細胞傷害性はCellTiter96を用いて評価した。
結果と考察
1). HCVの生活環に関わるPKの同定
AlphaScreen解析により、NS5Aとの強い相互作用が認められるPKが89種類得られ、この中からNS5A のin vitroリン酸化活性の高い9種類のPKを同定した。細胞を用いた検討の結果、そのうち3種類のPK(PK-1, PK-2, CK2α2)がHCVの粒子形成過程において重要であった。4種類のPK阻害剤においてHCV増殖抑制効果が認められた。
2). HCV抑制活性のあるNS5A結合環化ペプチドの同定
スクリーニングにより、11種類のNS5A結合環化ペプチドを取得し、そのうち、9種類のペプチドにおいてHCV複製の抑制効果が見られたが、いずれも30-50%程度の抑制率であった。
3). 様々な遺伝子型のNS5Aに対する抗HCV薬評価系の樹立およびNS5A阻害薬の評価
様々な遺伝子型のウイルス株由来のNS5Aを持つJFH-1置換株を作製し、それぞれのJFH-1置換株が同程度の増殖活性を持つことを確認した。これらの株を用いて、NS5A阻害薬を評価した。第一世代のNS5A阻害薬は遺伝子型1a, 1bのウイルスは低濃度で抑制したが、2a, 2bのウイルスは感受性が低かった。一方で、第二世代のNS5A阻害薬は、いずれの遺伝子型のウイルスも低濃度で阻害したことから、これらの薬剤は、遺伝子型に関わらず高い抗HCV効果のある薬剤として期待できる。
結論
網羅的手法およびHCV培養細胞増殖系を用いた解析により感染性HCV産生に関与する3種類のプロテインキナーゼ(PK-1、PK-2、CK2α2)を同定した。これらのPKは、HCVの粒子形成過程を制御していた。また、PKの阻害剤は培養細胞でのHCVの増殖を抑制した。
JFH-1株のNS5A領域を他のHCV株に入れ換えたキメラ株を用いて、様々な遺伝子型のNS5Aを評価可能な抗HCV薬評価系を樹立し、NS5A阻害薬のウイルス株特異的効果を検討した。第一世代のNS5A阻害薬は遺伝子型1のウイルスの複製は低濃度で抑制したが、遺伝子型2のウイルスの複製は抑制しなかった。第二世代のNS5A阻害薬は、いずれの遺伝子型のウイルスの複製も低濃度で阻害した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201227015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究によりHCV粒子形成過程に関与するプロテインキナーゼが同定され、その作用メカニズムが明らかになったことにより、HCVの細胞内でのライフサイクルの一部が新たに解明された。薬剤の評価には、培養細胞でのHCV感染増殖系が有用であるが、利用できるウイルス株は限られていた。本研究で樹立した薬剤評価系を用いることにより、遺伝子型による薬の効果の違いを培養細胞レベルで評価することができた。この薬剤評価系を用いることにより、培養細胞増殖系のないHCVの遺伝子型に関しても新規薬剤が評価可能になる。
臨床的観点からの成果
第一世代のNS5A阻害剤は、経口投与によりHCVを排除できる薬として期待されている。しかし、遺伝子型1のウイルス株には効果があるものの、遺伝子型2のウイルス株には効果が低いことが知られている。今回我々は、第二世代のNS5A阻害薬の抗HCV効果を評価し、遺伝子型2のウイルス株にも効果のある薬剤を二種類見いだした。これら薬剤は経口投与が可能であり、遺伝子型に関わらず高い抗HCV効果のある薬剤として期待でき、遺伝子型2のHCVに対しても副作用の強いインターフェロンに代わる治療法としての可能性を示した。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
11件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Murayama A, Sugiyama N, Yoshimura S, et.al.
A subclone of HuH-7 with enhanced intracellular hepatitis C virus production and evasion of virus related-cell cycle arrest.
PLoS One , 7 (12) , e52697 -  (2012)
10.1371/journal.pone.0052697
原著論文2
Date T, Kato T, Kato J, et.al.
Novel cell culture-adapted genotype 2a hepatitis C virus infectious clone.
Journal of Virology , 86 (19) , 10805-10820  (2012)
10.1128/JVI.07235-11
原著論文3
Murayama A, Sugiyama N, Watashi K, et.al.
Japanese reference panel of blood specimens for evaluation of hepatitis C virus RNA and core antigen quantitative assays.
Journal of Clinical Microbiology , 50 (6) , 1943-1949  (2012)
10.1128/JCM.00487-12
原著論文4
Murayama A, Kato T, Akazawa D, et.al.
Poduction of infectious chimeric hepatitis C virus genotype 2b harboring minimal regions of JFH-1.
Journal of Virology , 86 (4) , 2143-2152  (2012)
10.1128/JVI.05386-11
原著論文5
Saeed M, Suzuki R, Watanabe N, et.al.
Role of the endoplasmic reticulum-associated degradation (ERAD) pathway in degradation of hepatitis C virus envelope proteins and production of virus particles.
Journal of Biological Chemistry , 286 (43) , 37264-37273  (2011)
10.1074/jbc.M111.259085
原著論文6
Saeed M, Shiina M, Date T, et.al.
In vivo adaptation of hepatitis C virus in chimpanzees for efficient virus production and evasion of apoptosis.
Hepatology , 54 (2) , 425-433  (2011)
10.1002/hep.24399
原著論文7
Okamoto Y, Masaki T, Murayama A, et.al.
Development of recombinant hepatitis C virus with NS5A from strains of genotypes 1 and 2.
Biochemical and Biophysical Research Communications , 410 (3) , 404-409  (2011)
10.1016/j.bbrc.2011.05.144
原著論文8
Inoue Y, Aizaki H, Hara H, et.al.
Chaperonin TRiC/CCT participates in replication of hepatitis C virus genome via interaction with the viral NS5B protein.
Virology , 410 (1) , 38-47  (2011)
10.1016/j.virol.2010.10.026
原著論文9
Masaki T, Suzuki R, Saeed M, et.al.
Production of infectious hepatitis C virus by using RNA polymerase I-mediated transcription.
Journal of Virology , 84 (11) , 5824-5835  (2010)
10.1128/JVI.02397-09
原著論文10
Masaki T, Matsunaga S, Takahashi H, Nakashima K, et.al.
Involvement of hepatitis C virus NS5A hyperphosphorylation mediated by casein kinase I-α in infectious virus production.
Journal of Virology , 88 (13) , 7541-7555  (2014)
10.1128/JVI.03170-13

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
2017-01-20

収支報告書

文献番号
201227015Z