文献情報
文献番号
201227011A
報告書区分
総括
研究課題名
ウイルス性肝炎に対する治療ワクチンの開発に関する研究
課題番号
H22-肝炎-一般-011
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小原 道法(公益財団法人東京都医学総合研究所 ゲノム医科学研究分野)
研究分担者(所属機関)
- 保富 康宏(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
- 瀬谷 司(北海道大学大学院・先端生命科学研究院)
- 鈴木 亮介(国立感染症研究所ウイルス第二部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
35,415,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
C型肝炎ウイルス(HCV)感染者に対するインターフェロン治療は副作用等の問題も大きい。他方で、HCVは感染することにより80%の被感染者が慢性化してしまうが、20%は慢性化せず自己の免疫によりウイルスを排除する。これらのことは、免疫を賦活化することによりウイルスのコントロールができる可能性を示唆している。そこで本研究ではHCV及びHBV特異的免疫賦活化による根治を目指した治療的ワクチンの開発を目的とする。
研究方法
HCVN25-RVV を慢性肝炎状態のHCV/Cre-Tgに接種し、HCV排除及びその作用機序を解析した。炎症性サイトカインの定量、肝臓、脾臓リンパ球での抗原特異的CTLsの検出などの解析を行った。慢性肝炎の病態形成にTNF-a, IL-6の関与が示唆されたため、炎症性単球M1マクロファージ(M1Mφ)やM2マクロファージ(M2Mφ)の分布変化について解析した。また、HCV遺伝子発現DNAワクチンを作製し、慢性肝炎状態のHCV/Cre-Tgに接種し、HCV蛋白質の排除及びその作用機序を解析した。
さらに、遺伝子型1a、1b、2a、3a由来HCVの遺伝子配列を用い、coreからNS2領域を発現するHCVtcpを作製した。HCVのE1およびE2に反応するマウスモノクローナル抗体およびウサギ抗血清についての感染中和活性の評価の為に、段階希釈した各種抗体または抗血清とHCVtcpを室温で1時間反応させ、その後ウイルス液をHuh7.5.1細胞に添加し、感染させた。2日後の培養上清のG Lucの活性を測定し、コントロール群と比較する事により、感染中和活性を評価した
さらに、遺伝子型1a、1b、2a、3a由来HCVの遺伝子配列を用い、coreからNS2領域を発現するHCVtcpを作製した。HCVのE1およびE2に反応するマウスモノクローナル抗体およびウサギ抗血清についての感染中和活性の評価の為に、段階希釈した各種抗体または抗血清とHCVtcpを室温で1時間反応させ、その後ウイルス液をHuh7.5.1細胞に添加し、感染させた。2日後の培養上清のG Lucの活性を測定し、コントロール群と比較する事により、感染中和活性を評価した
結果と考察
rVV-N25の作用機序を調べるために、このマウスにrVV-N25を接種し、接種後の免疫細胞の動きをFACS解析したところ、肝臓におけるIMおよびMφが減少する事が明らかとなった。rVV-N25による肝臓内のIM, Mφの減少がC型肝炎の正常化に繋がるかどうか調べるために、Mφをクロドロネート(clo)で枯渇させたところ、肝臓の病態が改善し、さらにrVV-N25とCloとの併用でも肝臓の病態が正常化する事が分かった。さらにこの機序について解析を進める。
より抗原特異的な細胞性免疫を主体とした免疫反応を誘導すべくHCV各種遺伝子を用いたDNAワクチンを開発した。HCVの非構造蛋白領域を発現するDNAワクチン(HCV-N25)は、マウス肝臓中のHCVコア蛋白発現量を有意に減少させ、肝細胞の膨化や索状配列の乱れなどの形態学的異常を改善させた。しかし、HCV-DNAワクチン投与後の脾細胞のHCV抗原特異的IFN-γ産生能は減弱あるいは消失しており、HCV蛋白が発現することで免疫抑制の状態になり、強い細胞性免疫が誘導できていないことが考えられる。HCV-Tgマウス由来樹状細胞のCTL誘導能は正常であるが、HCV-Tgマウス体内で樹状細胞からT細胞への、CTL誘導につながるどこかの部分に障害があり、WTマウスに比べてCTL誘導が抑制されていると考えられる。これらの機構が解明されれば、治療用ワクチンのさらなる開発に繋がることが考えられる。また、HCV-Tgマウス体内でより強く細胞性免疫を誘導できるような投与法として、DNAワクチンとワクシニアウイルスを用いたprime/boost法について検討したところ、細胞性免疫が増強することを確認した。
HCVレプリコンのレポーター遺伝子をG Luc遺伝子に置換する事により検出感度が約100倍高まり、従来の方法では感染価が認められなかった株を用いてHCVtcpを作製する事が出来た。本研究による複数の遺伝子型/株由来のHCVtcpを用いる事により、迅速、簡便な感染中和アッセイのスクリーニングが可能となり、幅広い遺伝子型に対して活性を示す中和抗体の探索が期待される。
より抗原特異的な細胞性免疫を主体とした免疫反応を誘導すべくHCV各種遺伝子を用いたDNAワクチンを開発した。HCVの非構造蛋白領域を発現するDNAワクチン(HCV-N25)は、マウス肝臓中のHCVコア蛋白発現量を有意に減少させ、肝細胞の膨化や索状配列の乱れなどの形態学的異常を改善させた。しかし、HCV-DNAワクチン投与後の脾細胞のHCV抗原特異的IFN-γ産生能は減弱あるいは消失しており、HCV蛋白が発現することで免疫抑制の状態になり、強い細胞性免疫が誘導できていないことが考えられる。HCV-Tgマウス由来樹状細胞のCTL誘導能は正常であるが、HCV-Tgマウス体内で樹状細胞からT細胞への、CTL誘導につながるどこかの部分に障害があり、WTマウスに比べてCTL誘導が抑制されていると考えられる。これらの機構が解明されれば、治療用ワクチンのさらなる開発に繋がることが考えられる。また、HCV-Tgマウス体内でより強く細胞性免疫を誘導できるような投与法として、DNAワクチンとワクシニアウイルスを用いたprime/boost法について検討したところ、細胞性免疫が増強することを確認した。
HCVレプリコンのレポーター遺伝子をG Luc遺伝子に置換する事により検出感度が約100倍高まり、従来の方法では感染価が認められなかった株を用いてHCVtcpを作製する事が出来た。本研究による複数の遺伝子型/株由来のHCVtcpを用いる事により、迅速、簡便な感染中和アッセイのスクリーニングが可能となり、幅広い遺伝子型に対して活性を示す中和抗体の探索が期待される。
結論
C型肝炎ウイルス遺伝子組換えワクチン及びDNAワクチンで効果が認められたので、さらに、細胞内免疫活性化剤や構築したHCV-DNAワクチンを併用することで治療効果増強法の検討、抗体価の測定や細胞性免疫応答の解析を行った。HCVの非構造蛋白領域を発現するDNAワクチン(HCV-N25)はC型肝炎モデルマウスを用いた実験の結果より、治療用ワクチンとして有用である可能性が示された。HCV-TgマウスにおけるHCVに対する免疫抑制機構についての解析が進めば、さらにHCV-N25の効果を増強することが期待できる。HCVtcpを、多くの株を用いて作製する事が可能となり、パントロピック中和活性を有するモノクローナル抗体を見いだした。
公開日・更新日
公開日
2015-06-03
更新日
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