文献情報
文献番号
201226032A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV陽性者における進行性多巣性白質脳症に対する高精度検査技術の開発および診断への応用
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-エイズ-若手-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
中道 一生(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,040,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
進行性多巣性白質脳症(Progressive Multifocal Leukoencephalopathy, PML)は、ポリオーマウイルス科のJCウイルス(JCV)に起因する脱髄疾患であり、患者の約30~50%をHIV陽性者が占める。JCVは多くの成人に持続感染しており、免疫抑制に伴って変異型ウイルスが出現し、大脳等を破壊する。治療がなされない場合、ほぼ全ての患者が発症から6ヶ月以内に死に至る。PMLの診断では脳脊髄液を用いたJCVゲノムDNAのPCR検査が有効であり、近年では国内外の研究機関や民間企業によって高感度な定量的リアルタイムPCRを用いた検査系が数多く開発されている。しかし、この手法は持続感染型JCVの混入もしくは検体間の汚染によって偽陽性を生じる危険性を有している。より確実な診断や治療のためには、偽陽性の有無を迅速に調べるための検査系が必要である。本研究は、JCVのゲノムDNAに生じるランダムな変異を標的として、ウイルスの亜型を迅速に同定するためのスキャニング技術を開発し、PMLの高精度診断技術へと応用することを目的とする。本年度では、JCVゲノムの配列の相違を検出するための検査系を確立した後、JCVのDNAクローンのパネルを用いて検査系を評価することを目標として研究を実施した。
研究方法
健常人に持続感染しているJCVのゲノム配列は安定しているが、PMLを引き起こすJCVではゲノムの転写調節領域(以後、調節領域)においてランダムな変異が生じる。本検査系は、調節領域をリアルタイムPCR法を用いて増幅した後、増幅されたDNA断片の配列の相違を高解像度融解曲線分析(High-Resolution Melting analysis, HRM)法によって測定することを原理としている。まず最初に、JCVの調節領域を対象としたin silico解析によって、プライマーDNAを設計した。JCVの実験室株のゲノムDNAおよびHRM対応のリアルタイムPCR機器等を用いて、検出条件の至適化を行った。次に、健常人の尿もしくはPML患者の脳脊髄液に由来するJCVのDNAクローン(約100種類)を対象として、リアルタイムPCR-HRMを実施し、①持続感染型およびPML型のゲノムを判別しうるか否か、②様々なPML型JCVの亜型間にみられる変異パターンの相違を検出しうるか否か、を解析した。なお、本研究は、国立感染症研究所ヒトを対象とする医学研究倫理審査委員会の承認を受けた後、適切な配慮のもとに実施された。
結果と考察
JCVの実験室株のゲノムDNAを用いた解析の結果、本検査系はPML型実験室株のゲノムにおける配列の欠損や重複を検出することが可能であった。また、臨床検体からクローニングされたJCVのDNAパネルを用いたバリデーションの結果、本検出系は調節領域における変異の有無、変異が生じている位置、それらの波形パターンを精緻に把握することが可能であった。PML患者から採取された脳脊髄液には、複数のJCV変異体が含まれており、ダイレクトシークエンシングによる配列解析が適用できない場合が多い。そのため、PCR検査において偽陽性が疑われた場合には、ウイルスゲノムの調節領域をプラスミドにクローニングした後、多数の候補クローンの塩基配列を決定し、ランダムに生じた変異部分を解読する必要がある。しかし、この検査は煩雑かつ長期間の作業、および大きなコストを伴うため、ルーチン検査での迅速な実施は困難である。本研究において確立した検査技術を用いることで、検出されたJCVのゲノムの変異パターンを短時間で患者個人レベルまでスキャンすることが可能である。そのため、本検査系を一般的なPCR検査において陽性が認められた場合のpost-hoc検査において用いることで、検査結果の信頼性の向上、および確認検査の高速化および低コスト化が可能になる。
結論
PMLの診断や治療では脳脊髄液中のJCVのゲノムDNAに対するPCR検査が有効であるが、持続感染型ウイルスやサンプル間の汚染による偽陽性のリスクの排除が課題となっている。本年度では、研究計画に従って、JCVのゲノム配列の相違を迅速にモニターするための検査系(リアルタイムPCR-HRM法)を開発した。また、本検査系が、PMLの診断におけるpost-hoc検査において有用であることを明らかとした。次年度以降の研究においてさらに詳細なバリデーションを行うことで、本検査系の実用化が可能であることが示唆された。
公開日・更新日
公開日
2014-05-26
更新日
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