文献情報
文献番号
201226022A
報告書区分
総括
研究課題名
HIVの潜伏・再活性化および慢性的免疫活性化を左右する細胞因子・免疫応答の解明とその制御
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-エイズ-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
横田 恭子(国立感染症研究所 免疫部)
研究分担者(所属機関)
- 徳永研三(国立感染症研究所 感染病理部)
- 渡邉俊樹(東京大学 新領域創成科学研究科)
- 立川愛(東京大学 医科学研究所)
- 田中勇悦(琉球大学 医学部)
- 小柳義夫(京都大学 ウイルス研究所)
- 山本浩之(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
- 五十嵐樹彦(京都大学 ウイルス研究所)
- 上野貴将(熊本大学 エイズ学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
36,540,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HIVの潜伏感染とウイルス再活性化および慢性的免疫活性化によるT細胞の疲弊化を左右する細胞内因子および免疫学的要因を明らかにすることにより、エイズ病態を制御する新規治療戦略のための基盤を確立する。
研究方法
動物モデルとしてサルSIV初期制御群のCD4陽性T細胞をIL-7+IL-15で刺激培養してnaive/memory分画のFACS解析とgag領域塩基配列の解析、低病原性SIV/1A11感染サルモデルの解析系の準備、ヒト化マウスでは蛍光発現X4型とR5型HIV-1を同時感染させ、血中ウイルス量と感染細胞組織分布を解析、野生型あるいはvpr欠損HIV-1の感染による naive/memoryおよびFOXP3陽性制御性T細胞(Treg)の数、血中ウイルスRNA量、細胞周期やアポトーシス関連分子を解析した。分子生物学的解析としてVpx発現樹状細胞のプロテオーム解析から得られた候補タンパクの各種発現ベクターやHIV-1潜伏感染解析用新規レポーターウイルス、様々な遺伝子ノックダウン用ベクターを作製し、メチル化ヒストンはChIPアッセイで評価した。また、HIV感染者の末梢血単核球(PBMC)をPHA刺激後経時的に各種サイトカイン産生とmRNA量を測定し、CD4とCD8 陽性T細胞のプロモーター領域のDNAメチル化解析、血中ウイルスnef遺伝子組換えHIV-1を作製してMHC Class II-associated invariant chain (CD74)等の発現解析を行った。HTLV-I由来 OX40L発現不死化細胞を樹立してHIV-1感染活性化PBMCと混合培養し、p24産生と感染細胞の解析を行った。
結果と考察
潜伏感染とその再活性化: サルSIV複製制御群においてCTLエスケープ変異蓄積の有無で2群に分かれた。低病原性SIVmac1A11のマクロファージでの効率良い複製を確認し、経直腸感染による潜伏感染系確立準備を整えた。ヒト化マウスでは、R5型HIV-1の血中レベルは高度維持されるのに対し、X4型HIV-1は感染後5~6週目には検出限界以下となった。この系は細胞レベルでX4型HIV-1潜伏化細胞の解析モデルとして有用である。一方、樹状細胞のVpx標的因子候補の1つがVpxの補助因子として作用しうること、ヒストンのメチル化はHIV-1の転写抑制に関与しており、HIV-1の潜伏化の導入と維持にはpolycombファミリー分子やアンチセンスが関わることを明らかにした。また、新たなレポーターレンチウイルスの作製により、潜伏感染細胞の培養系での解析が容易となった。
慢性的免疫活性化と疲弊化: CD4陽性T 細胞でIL-2遺伝子の最も転写開始地点に近いCpG部位が高HIV群で有意に高度メチル化されていたことは、この部位のメチル化の重要性を示唆する。一方、nef遺伝子多型は病態とは相関せず、nefによるHLA-Iの発現抑制とCD74の発現昂進作用は独立に制御されていた。ヒト化マウスモデルにおいてTregがHIV-1の標的となりやすく、破壊・枯渇を受けることがCD8陽性 T細胞の活性化(CD38高発現)を誘導すること、このTreg破壊にVprによるG2M期の停止とアポトーシスが重要であることを明らかにした。 HTLV-I感染ヒトT細胞株が高発現するOX40Lは活性化PBMCのR5型HIV-1の感染を強く抑制し、新たな治療戦略が示唆された。
慢性的免疫活性化と疲弊化: CD4陽性T 細胞でIL-2遺伝子の最も転写開始地点に近いCpG部位が高HIV群で有意に高度メチル化されていたことは、この部位のメチル化の重要性を示唆する。一方、nef遺伝子多型は病態とは相関せず、nefによるHLA-Iの発現抑制とCD74の発現昂進作用は独立に制御されていた。ヒト化マウスモデルにおいてTregがHIV-1の標的となりやすく、破壊・枯渇を受けることがCD8陽性 T細胞の活性化(CD38高発現)を誘導すること、このTreg破壊にVprによるG2M期の停止とアポトーシスが重要であることを明らかにした。 HTLV-I感染ヒトT細胞株が高発現するOX40Lは活性化PBMCのR5型HIV-1の感染を強く抑制し、新たな治療戦略が示唆された。
結論
潜伏・持続感染モデルとしてSIV初期制御群のCD4陽性T細胞中のプロウイルスにCTLエスケープ変異蓄積の有り無しの2群が存在した。低病原性SIVmac1A11感染サルを用いて新規潜伏感染モデルを準備した。また、潜伏感染細胞の解析用新規レポーターウイルスを作製し、ヒト化マウスを用いて生体内のX4型HIV-1潜伏感染系を確立した。分子レベルでは、LTRのメチル化とそれに関わるpolycombファミリー因子がHIV-1の潜伏化の導入と維持に重要であること、Vpxと結合する新規蛋白の1つがVpxの機能の補助因子であることが示された。一方、HIV-1感染者のnef遺伝子多型は注目した免疫活性化因子(CD74)の発現昂進には関与しなかったものの、高い血中ウイルス量を保持する感染者の慢性的T細胞機能不全にはIL-2遺伝子のエピジェネティックな制御異常が関連する可能性が示された。ヒト化マウスモデルではTregがHIV-1の標的となりやすく、VprによるTregの効率良い破壊と枯渇を介して生体内での免疫活性化が誘導された。一方、HTLV-Iで不死化したT細胞はOX40Lの発現が高く、R5 HIV-1感染を強く抑制したことから、新たな新規治療戦略が示唆された。
公開日・更新日
公開日
2014-05-26
更新日
-