HIV-1の薬剤・免疫耐性変異獲得機序の解明と新規治療法を目指した基盤的研究

文献情報

文献番号
201226021A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV-1の薬剤・免疫耐性変異獲得機序の解明と新規治療法を目指した基盤的研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-エイズ-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
滝口 雅文(国立大学法人熊本大学 エイズ学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 潟永 博之(国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター )
  • 馬場 昌範(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 松岡 雅雄(京都大学 ウイルス研究所)
  • 松下 修三(熊本大学 エイズ学研究センター)
  • 天野 将之(熊本大学 エイズ学研究センター)
  • 前仲 勝実(北海道大学 大学院薬学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
50,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 薬剤耐性ウイルスの出現など、HAART療法に抵抗する難治性HIV感染症患者の治療が大きな課題になってきている。また、免疫から逃避する変異をもったHIV-1の蓄積も明らかになっており、ワクチンや免疫治療の確立を困難にしている。これらの課題を解決するため、まだ明らかにされていないCTLや中和抗体の逃避変異の同定、その変異による免疫抵抗性の機序の解明を行う。さらに薬剤耐性変異を明らかにし、その耐性獲得機序・多剤耐性効果を明らかにする。また、免疫により獲得した変異が薬剤の効果に及ぼす効果、あるいは薬剤が選択した変異が免疫に与える効果を明らかにする。また新規プロテアーゼ二量体阻害剤およびHIVの遺伝子発現機構に関与する分子を標的とする新規抗HIV薬の候補を同定する。また、単クローン抗体と抗ウイルス薬の併用療法の可能性を明らかにする。
研究方法
1) 免疫系による変異獲得の機序と免疫抵抗性の研究
日本人慢性HIV-1感染者のHLAと相関を示すHIV-1の変異を明らかにし、その変異部位を認識する特異的CTLを用いて同定し、そのCTLを用いて逃避変異であることを明らかにする。 またNK細胞が認識するHIV-1由来のペプチドを明らかにし、変異がNK細胞の認識に与える影響を明らかにする。 
2) 薬剤による変異性獲得の機序と薬剤抵抗性の研究 
細胞間感染経路およびセルフリー感染経路における抗HIV薬に対する感受性を調べ、感染経路依存的な薬剤感受性の差を明らかにする。プロテアーゼの二量体化阻害剤 (PDIs)に対する耐性変異の薬剤耐性の機序を、結晶解析・質量分析学的方法を含めた多面的方法により明らかにする。
3) 免疫系が獲得する変異による薬剤抵抗性の研究及び薬剤耐性変異が免疫認識に与える研究
CTLが選択する逃避変異に関して、逃避変異HIV-1を作製し、これらの変異が薬剤耐性に与える影響を明らかにする。その逆に、これらの蛋白内に存在する薬剤逃避変異がCTLの認識に与える影響を明らかにする。
4) 耐性ウイルスに対する新規薬剤の開発
新規PDIを開発するため、新規骨格を有するPDI候補化合物のスクリーニングを進め、活性を有するものについて構造学的評価を行い、より強力な活性を有する化合物の合成をする。一方、Tat/TAR RNAとCyclin T1/CDK9の複合体形成を標的としてHIVの増殖を選択的に阻害する薬剤の開発を行う。同定されたリード化合物について化学構造の最適化を行い、活性と選択性の高い薬剤を得る。HIV潜伏感染細胞を用いて、抗ウイルス効果を検証する。 
5) 免疫と薬剤を組み合わせた治療法の開発
中和抗体抵抗性ウイルスを用いて、C34(融合阻害剤)などのエンベロープを標的とする抗ウイルス薬への感受性の変化を調べる。また、融合阻害剤に抵抗性のウイルスの選択を行い、変異ウイルスの中和抗体感受性に関する検討を行う 。
結果と考察
 HLAと相関を示す284個のGag,Pol.Nef領域の変異を明らかにし、これらが日本人におけるCTLからの逃避変異の可能性を示した。今後これらの変異がCTLからの逃避変異であることを解明する必要がある。薬剤耐性変異がCTLの認識に影響を与える研究では、6種類の変異がHIV-1特異的CTLの認識を障害することを明らかにした。今後さらに解析数を増やし、薬剤耐性変異がどの様にHIVのCTLの認識に与える全体像を明らかにする予定である。また逆にCTLが選択する逃避変異が抗HIV薬に与える影響や薬剤耐性変異が抗体の認識に与える影響も現在解析している。
 薬剤の開発の研究では、GRL-095-10やbis-THF-difluorideを有する化合物群を同定し、その活性機序を明らかにすることができた。Tat/TAR RNAとcyclin T1/CDK9の相互作用を標的とする薬剤開発の研究でも、強い抗HIV-1活性を示す薬剤を明らかにでき、今後臨床試験を目指した研究に進んでいく予定である。 抗体を用いた中和試験の結果、親株KKwtはどの抗体にも中和抵抗性であったが、cenicriviroc耐性株KK652-67は全ての抗体に対し感受性であることが示された。
結論
1)CTLによる逃避変異の選択に関する新たな機序を明らかにできた。また、CTLが選択する逃避変異の候補を、284種類以上明らかにできた。
2)強力な新規PIであるGRL-0519のHIV-1阻害機序を解明し、更に新規PI, GRL-095-10を同定、解析を行った。
3)6種類の薬剤耐性変異が、HIV-1特異的CTLの認識を障害することを明らかにした。
4)新規の構造を有するPI群を新たに同定することができた。
5)中和抗体への抵抗性とCCR5阻害薬に対する耐性が両立し難いことを示した。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201226021Z