HIV持続感染成立機構とその防御機序に関する研究

文献情報

文献番号
201226020A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV持続感染成立機構とその防御機序に関する研究
課題番号
H24-エイズ-一般-006
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
俣野 哲朗(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 保富 康宏(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
  • 森川 裕子(北里大学 北里生命科学研究所)
  • 高折 晃史(京都大学大学院 医学研究科)
  • 吉村 和久(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 横山 勝(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 寺原 和孝(国立感染症研究所 免疫部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
33,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界のHIV感染拡大は未だ深刻な状況にあり、本邦においても感染者数の増大が続いている。HIV感染症克服にはグローバルな視点での感染拡大抑制に向けた取り組みが必要であり、感染拡大抑制の切り札となるワクチンの開発は最重要課題である。本研究は、HIV持続感染成立機構とその防御機序の解明を目的とし、予防エイズワクチン開発に結びつけることを目指すものである。HIV感染抑制には細胞傷害性Tリンパ球(CTL)反応が中心的役割を担っているが、自然感染では持続感染成立に至る。我々はこれまで、MHC-I共有動物群を用いたエイズモデル樹立を進めるとともに、優れたCTL誘導能を有するセンダイウイルス(SeV)ベクターワクチン開発研究を展開し、エイズモデルにて予防ワクチンがウイルス曝露後の有効なCTL誘導に結びつけば持続感染阻止に至ることを示してきた。また、受動免疫実験にて急性期の中和抗体反応の有効性を明らかにした。そこで本研究では、HIV持続感染成立機構とその防御機序の解明を目的として、各種MHC-Iハプロタイプ共有群のウイルス感染免疫動態情報を蓄積し、HIV複製制御に結びつく因子の同定、特に有効なCTLの標的抗原同定を進めることとした。さらにHIV感染防御に結びつくCTLと中和抗体誘導に関する研究を展開した。
研究方法
エイズモデルとして、MHC-IハプロタイプA・E・B・Jを各々共有する4群を解析し、比較検討した。また、MHC-IハプロタイプD共有群の感染免疫動態を解析し、非Gag抗原特異的CTL反応がウイルス複製におよぼす影響を検討した。CTL標的抗原に関する研究として、Gag抗原分解に関する知見を得るために、変異Gag蛋白の細胞内局在と分解を解析した。ワクチンデリバリーシステムについては、短期間隔での複数回接種の試みとして、非複製型Gag発現SeVベクターを3週間隔で3回接種し、抗原特異的CTL誘導を解析した。中和抗体標的となるEnvについては、薬剤耐性HIV env変異が中和抗体感受性におよぼす影響を知る目的で、CCR5阻害剤耐性誘導により得られた変異envをpNL43分子クローンに組込み作製した組換えパネルウイルスの抗体感受性を検討した。また、中和抵抗性であるHIV JR-FL株Env gp120全長の糖鎖付分子モデルをin silicoで構築した。
結果と考察
MHC-IハプロタイプA・E・B・Jを各々共有する4群における血漿ウイルス量、末梢血CD4陽性Tリンパ球数、病態進行等について多群比較により有意差を見出し、エイズモデルにおけるMHC-Iハプロタイプと病態進行の相関を明らかにした。本結果およびこのモデルを用いた免疫反応解析系は、HIV複製制御に結びつく因子の同定を介した防御免疫機序解明に向けた解析基盤として非常に重要である。また、D陽性群では、感染後半年後の血漿ウイルス量がD陰性群と比較して有意に低値を示し、Nef特異的CTL反応がウイルス複製抑制に貢献していることが示唆された。この結果は、一般に強いHIV複製抑制能を有するGag特異的CTL反応以外で複製抑制に貢献する抗原特異的CTL反応の同定に結びつくものとして意義がある。CTL標的抗原の解析では、Gagに関して新たな知見が得られ、プロテアソーム経路で効率良く分解されるGag蛋白変異体を設計することができた。ワクチンデリバリーシステムの最適化研究においては、SeVベクターワクチン複数回接種により、SeV特異的免疫反応の誘導にもかかわらず抗原特異的CTL反応の維持・増強効果が認められ、その有効性が示された。中和抗体の標的となるEnvに関する研究では、R5阻害剤耐性変異が中和感受性に及ぼす影響について新たな知見を得た。また、in silicoでgp120三量体モデルを構築した。本研究の進展によって中和抗体標的に関する情報蓄積に結びつくことが期待される。
結論
各種MHC-Iハプロタイプ共有群の感染免疫動態の解析を進め、MHC-Iハプロタイプとエイズ病態進行の相関を明らかにした。本結果ならびにこの独自モデルを用いた解析系は、HIV感染防御免疫機序解明に向けた解析基盤として重要である。また、Nef特異的CTLの有効性を示唆する新規のprotective MHC-Iハプロタイプを見出した。さらに、SeVベクターワクチン短期間隔複数回接種の有効性を示す結果を得るとともに、CTL標的抗原候補のGag・Vif蛋白の動態解析および中和抗体標的に関する解析で新たな知見を得た。これらの結果は予防エイズワクチン開発の進展に結びつく重要な成果である。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201226020Z