抗ウイルス宿主因子を基盤とする新規HIV戦略の開発・確立に向けた系統的研究

文献情報

文献番号
201226019A
報告書区分
総括
研究課題名
抗ウイルス宿主因子を基盤とする新規HIV戦略の開発・確立に向けた系統的研究
課題番号
H24-エイズ-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
足立 昭夫(国立大学法人徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 岩谷靖雅(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター)
  • 大塚雅巳(熊本大学大学院生命科学研究部)
  • 徳永研三(国立感染症研究所)
  • 中山英美(大阪大学微生物病研究所)
  • 藤田美歌子(熊本大学薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
22,230,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究班では、宿主防御因子を活用した治療戦略への基盤を創出することを目的とし、HIV感染・増殖に関与する宿主防御因子の抗HIV作用機序とウイルス遺伝子産物による解除機構の分子基盤を明らかにする研究に取り組む。これにより、従来の免疫学とは異なる抗HIV防御システムの全体像を明らかにし、宿主因子を利用した次世代型治療戦略や病態解明への新たな知見が輩出できると考えられる。
研究方法
 研究目的により各種の研究手法(ウイルス学、分子生物学、生化学、有機化学、計算科学、構造生物学等)を用いる。1)抗ウイルス宿主因子のウイルス増殖阻害機構を明らかにする。(2)抗ウイルス宿主因子の発現制御機構と分解機構について解明し、ウイルス感染による変化もしくは個体差に関する研究を行う。(3)抗ウイルス宿主因子/解除因子の相互作用を阻害、あるいは抗ウイルス宿主因子の発現制御をコントロールする分子モジュレータや低分子化合物を探索する。
結果と考察
 1)既報の宿主因子以外にもHIV-2 Vpxの標的分子があることを分子遺伝学的解析から明らかにした。また、Vpxの発現調節に重要なモチーフを同定し、翻訳過程を促進する機能を持つことを明らかにした。(2)APOBEC3の立体構造の解明に成功し、Vifとの相互作用部位を同定した。また、定量RT-PCR法によりAPOBEC3の発現量を増加させるモジュレータを複数同定した。3)Vpuに作用しBST-2/tetherinの抗ウイルス活性を増強させる宿主因子SCYL2を同定した。逆に、Vpuと結合しその機能を補助する宿主因子の候補として、3種類の細胞因子を同定した。さらに、BST-2/tetherinの発現レベルが病態進行と逆相関の関係にある可能性を見出した。(4)カニクイザルにおけるTRIM5遺伝子型の分布や抗ウイルス機能について明らかにした。また、TRIM5とは無関係にウイルス増殖を増強するHIV Gag-CA変異を同定した。さらに、センダイウイルスベクターを用いたTRIM5評価系を確立し、HIV Gag-CAの試験管内アセンブリー系の構築にも成功した。センダイウイルスの系を用いて低分子化合物ライブラリーをスクリーニングしたところ、50%以上の感染阻止効果を示す化合物が複数あった。(5)TRIM5機能を擬似化する化合物BMMPを合成し、抗HIV-1活性を持つことを確認した。また、APOBEC3の発現量を有意に増加させる低分子化合物SN-2を得た。

 本研究の目標を達成するためには、宿主細胞防御因子とこれを無効にするウイルス解除因子との相互作用を分子レベルで詳細に解析・解明する必要がある。ウイルス複製に関与する未同定因子についての探索も活発に行う必要がある。本年度の研究により、各ウイルス解除因子とその標的である宿主防御因子について、重要な学術的知見が蓄積しつつある。HIVの複製や感染病態における宿主因子の重要性は明らかであるので、治療戦略の基盤を構成するウイルス蛋白質との相互作用機序の分子レベルでの解析を継続していく必要がある。具体的には以下の如くである。(1)15種類の候補分子からVpxの細胞標的因子(SAMHD1とAPOBEC3A以外)を同定する。Vpx PPMに結合する細胞因子を同定する。(2)APOBEC3の発現調節ではインターフェロン刺激を中心としたJAK-STAT系の活性化が深く関与することが明らかになった。APOBEC3の過剰発現がHIV複製にどの程度の抑制効果を持つか検証する。(3)Vpu機能を補助する細胞因子を同定する。(4)試験管内HIV Gag-CAアセンブリー系やセンダイウイルスベクター系を用い、微弱なヒトTRIM5活性を増強させる低分子化合物を探索する。(5)BMMP及びSN-2の作用機序を解明し、nMオーダーの活性を持つ選択的なHIV阻害剤の創製を試みる。
結論
 HIV感染・増殖に関与する宿主細胞防御因子の抗ウイルス作用機序とウイルス遺伝子産物による解除機構の解明に取組み、新たな学術的知見を得た。同定した因子や因子内領域は、Vpxの発現増強に関わるVpx内PPM (poly-proline motif)配列、APOBEC3とVifの相互作用部位、APOBEC3の発現量を増加させるモジュレータ及びBST-2/tetherinの抗ウイルス活性を増強させる宿主因子SCYL2である。探索中の宿主因子は、Vpxの標的分子(15種類)及びVpu機能補助因子(3種類)である。構築した評価系はTRIM5の標的であるGag-CAの試験管内アセンブリー系である。この他、創薬に繋がり得る抗ウイルス宿主因子を擬似・制御する低分子化合物として、TRIM5機能を擬似化するBMMP 及びAPOBEC3の発現量を有意に増加させるSN-2を得た。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201226019Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
28,899,000円
(2)補助金確定額
28,899,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 13,747,418円
人件費・謝金 6,113,086円
旅費 1,045,490円
その他 1,324,006円
間接経費 6,669,000円
合計 28,899,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
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