文献情報
文献番号
201226018A
報告書区分
総括
研究課題名
血友病とその治療に伴う合併症の克服に関する研究
課題番号
H24-エイズ-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
坂田 洋一(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 三室 淳(自治医科大学 医学部)
- 窓岩 清治(自治医科大学 医学部)
- 大森 司(自治医科大学 医学部)
- 小澤 敬也(自治医科大学 医学部)
- 水上 浩明(自治医科大学 医学部)
- 嶋 緑倫(奈良県立医科大学 小児科)
- 菱川 修司(自治医科大学 医学部)
- 長谷川 護(ディナベック株式会社)
- 瀧 正志(聖マリアンナ医科大学)
- 稲葉 浩(東京医科大学 臨床検査医学講座)
- 竹谷 英之(東京大学医科学研究所)
- 柿沼 章子(社会福祉法人 はばたき福祉事業団)
- 大橋 一夫(東京女子医科大学 先端生命医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
70,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
血友病患者QOL向上を目指して、血友病遺伝子治療臨床応用に向けた基礎検討、インヒビター(Inh)対策、患者QOL改善のための調査、薬害HIV患者・家族及び、血友病保因者の社会的問題解決を図る。
研究方法
本年度は、昨年度作製したGMPレベルベクター、AAV8VFIXのサルを用いた発現効率の確認と、純度・物性と毒性などの品質を詳細に検討し、ヒト投与可能ベクターの確立・準備を図った。さらに、我々のオリジナル技術、抗AAV8中和抗体陽性個体への血液回避遺伝子導入法の安全性と効率の改善を、ベクターの肝臓内停滞時間延長の工夫や、循環動態に与える影響などをサルのみならず、ヒトと体重の近いブタも利用して検討した。多数のマウス・サルを用いてAAV8ベクターの腫瘍原性を検討した。改変SIVベクターでFVIII遺伝子を導入した自己間葉系幹細胞(MSCFVIII)で、染色体導入部位を解析するとともに、血友病Aマウス膝関節内注入による関節症治療効果や腫瘍原性を検討した。さらに、同法に用いる血友病Aマウス由来iPS細胞樹立を目指した。臨床研究開始に必要な財源確保のために、自治医大から複数のグラントへの応募、さらに治験体制準備の為に国家的治験整備プロジェクトに大学として応募した。前年度までの後方視的解析を基盤に、血友病因子とサイトカイン遺伝子解析などを開始し、患者データベース構築も進めた。Inh検査標準化のために不可欠な測定法改善を検討した。寛容誘導の分子生物学的解析も進めた。アンケート調査では,SP-36を用いて、我が国血友病患者のQOLを数値化し、欧米諸国の患者と客観的に比較するためのアンケート用紙を作成した。また、血友病薬害HIV感染被害者家族及び、血友病保因者から、当事者参加型アクションリサーチにより当事者ニーズを研究に取り込む。 そして、血友病ファクトシートの改訂に取り組む。動物実験、臨床、疫学研究は、厚労省・文科省倫理指針と各施設規約に従い施行した。
結果と考察
SDS-PAGEや電子顕微鏡的解析などで高純度が確認されたAAV8VFIXは、マウス・サルともnon-GMPレベルベクターと同等の発現活性を示した。毒性もなく、第3者機関による品質も保証された。しかし、尖閣問題が勃発し、中国企業から、必要量ベクター調達は不可能になった。ベクター産業開始を計画した日本企業、タカラバイオとミーティングを重ね、積年の悲願であった日本製ベクター調達が約束された。抗AAV中和抗体測定系は最適化され、感度が高まった。マウス・サルでAAVベクターの生体内導入による腫瘍原性は確認できなかった。抗体陽性サルに、副作用なく、ベクターの肝臓内停滞時間延長も最適化され、治療レベルFIXの長期発現持続技術をほぼ確立した。ブタでも同法の循環動態負荷に問題ないことを確認した。血友病Aクローンブタも研究応用可能となった。残念ながら、臨床研究開始に不可欠な公的資金や治験設備整備のために必要なグラント獲得には成功していない。マウス関節内へのMSCFVIII投与は、関節症状を軽減し、用いた改変SIVベクターの腫瘍原性も数百匹におよぶマウスで確認できなかった。製剤間にInh発生率に差は無かった。Inhと遺伝子変異の関連については現在解析中である。希釈法によるInh測定系のバラツキは東京変法でかなり改善された。調査研究は、出血頻度と旧来の重症度分類妥当性に一石を投じた。本年度はSP-36を主体とした調査票を作成し、配付した。薬害HIV感染被害者5件に聞き取り調査し、多くの対策課題が明らかになった。血友病保因者を対象とした準備性支援や遺伝相談などを視野に入れ、当事者参加型研究を目的に、本年度は質問票の開発と配票を完了した。
結論
サルでの血友病B遺伝子治療技術はほぼ確立した。これに準ずる血友病A遺伝子治療研究とともに、関節出血予防を目的に改変SIVベクターを利用した局所細胞治療技術確立も進みつつある。 十分量の日本製GMPレベルベクターの調達と臨床研究のための治験設備整備と資金が獲得できれば、まず血友病B遺伝子治療臨床研究開始可能と考える。Inh対策も前方視的研究に時間はかかるが、調査解析、基礎検討ともに順調に進みつつある。QOL調査解析でもSP-36法を導入することにより彼我の患者の客観的な比較の出来る可能性がある。直接面談によるHIV感染被害と血友病保因者の抱える問題把握とその解析は極めて独創的で有用である。
公開日・更新日
公開日
2014-05-26
更新日
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