患者誤認事故予防のための院内管理体制の確立方策に関する研究

文献情報

文献番号
199800110A
報告書区分
総括
研究課題名
患者誤認事故予防のための院内管理体制の確立方策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
菊池 晴彦(国立循環器病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 川村治子(杏林大学保健学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
手術患者誤認事故発生を機に、特定機能病院における類似事故防止方策の取り組み、医療事故全般に対する組織的な取り組み、医学教育における事故防止教育の現状を調査し、誤認事故および医療事故全般に対する防止策のあり方について検討する。
研究方法
全国特定機能病院82施設に記名自記式にて調査を行った。調査内容は(1)手術患者誤認事故の各防止方策の取り組み状況や問題点、(2)医療事故防止の組織的体制(事故等の報告とその分析体制、医療事故防止委員会や専門部署の設置、事故防止マニュアルの有無や職員研修の開催など)、(3)医療事故防止に関する医学部教育の現状 の3点である。
結果と考察
回収率は92.7%と高率であった。 結果は以下のとうりである。
(1)手術患者誤認事故防止方策について
今回の事故を教訓として半数の施設が、「識別バンドの装着」と「患者本人から名前を応答」の両方策を取り入れることになった。「手術室への患者1名ずつ搬送」、「患者とカルテの同時受け渡し」は95%、「患者受け渡し時の氏名復唱」は84%が事故前から実施していた。しかし、「手術開始時間をずらすこと」は手術室の効率的活用等のためには困難という意見が多かった。「麻酔導入時の主治医の立ち会い、患者への声かけ」は事故前は53%の施設で実施も、事故後さらに21%が実施することになった。
(2)医療事故防止のための組織体制について
事故・ニアミスの報告は66%(うち全職種は28%)、報告内容の分析と改善策の検討は75%、事故防止責任者の設置は68%、事故防止委員会の設置は36%、事故防止委員会の定期開催は26%、事故防止マニュアルの作成、定期的見直しは22%、職員研修の定期的開催は12%の施設であった。しかし、以上全ての体制と機能が整備されている施設はわずか7%であった。
3)医療事故防止のための医学部教育について 
事故防止に絞ったカリキュラムが組まれているのは16%の大学で、46%は通常の講義の中で事故防止に触れていた。
今回の手術患者誤認事故は、多忙な医療現場、在院期間の短縮の中で医療従事者と患者の関係がかつてより希薄になった今日、患者情報を的確に伝達することの重要性を示唆した。より確実な患者情報の伝達には、その手段やその確認の責任体制を明確にすることが求められる。しかし、どのような確認手段をとろうとも、麻酔導入時には主治医グループの誰かが立ち会うことは医の倫理からみて当然の責務と思われる。また、手術開始時刻をずらすことが困難としても、手術日の病棟などで業務が集中する時間帯には労働量に見合った柔軟な勤務体制が望まれる。
その他、今回の事故の背景にはカルテと患者が離れる手術部の交換ホールの構造上の問題や医療チームメンバー相互のチェック機能が作動しなかったことなど、医療システム上のハード、ソフト、勤務体制等マネジメント、およびチェック機能としてのチームメンバーの連携の問題など、個人のエラーを誘発、あるいはエラーの吸収を困難にする様々な要因が明らかになった。従って、医療事故防止には日常から将来事故に繋がりうるインシデントを把握し、組織やシスム上の問題に対処する体制を持つことが肝要である。つまり、事故やニアミス等の情報収集制度、専門部署と責任者、対応策を検討する定期的な委員会など、組織的な体制(リスクマネジメント:RMと略)が必要である。しかし、こうした体制全てが整備されている施設は7%にすぎなった。今回の重大事故を教訓として、RMが各施設に構築されることを望むが、その中心を担う人材の育成も今後の課題で、医療従事者の卒前・卒後教育の中で、「安全学」や「リスクマネジメント」に関するカリキュラムが組まれることが望まれる。またさらに、事故情報を全国規模で収集-分析-還元する制度など、教育機関、職能団体、学会、行政が連携し総力を挙げた事故防止の体制づくりが必要と思われる。
結論
高度・複雑化し、ますます多忙になる医療現場での事故防止のために組織、さらに医療界全体で教育も含めたシステマティックな医療事故防止体制の構築が求められる。

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研究報告書(紙媒体)

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