HIV侵入の動的超分子機構を標的とするケミカルバイオロジー創薬研究

文献情報

文献番号
201226008A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV侵入の動的超分子機構を標的とするケミカルバイオロジー創薬研究
課題番号
H22-エイズ-若手-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
鳴海 哲夫(東京医科歯科大学 生体材料工学研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
3,024,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究課題では、HIV側および宿主側タンパク質の機能を模倣した有機分子を創製し、それらを用いてHIV外被タンパク質と細胞表面タンパク質の相互作用様式を両方向から解析し、その知見に基づいた合理的分子設計により新規HIV侵入阻害剤の創製を目指す。
研究方法
平成22~23年度の研究で得られたHIV外被タンパク質と細胞表面タンパク質の相互作用様式に関する知見を基に、HIV外被タンパク質gp120の機能を制御するCD4ミミックの構造活性相関研究を進めた。これまでの構造活性相関研究において見出したHAR-431をリード化合物として、三つのフラグメント (芳香環部位、オキサミド部位、ピペリジン部位) に分割し、それぞれ化学修飾したCD4ミミック誘導体を合成し、それら化合物の生物活性 (抗HIV活性、細胞毒性およびgp120の構造変化誘起能) を評価した。さらに、顕著な生物活性を示した誘導体についてはHIV-1 YTA48P株をPM1細胞に感染させ、誘導体の濃度を徐々に上げながら継代培養(in vitro耐性誘導)を行い、耐性機序および結合部位の検討を行った[研究協力者:吉村和久第一室室長、原田 恵嘉博士 (国立感染症研究所エイズ研究センター)]。
結果と考察
これまでの研究および分子モデリングからCD4ミミックの芳香環部位はVal255やSer375、Trp427などポケット底部に位置するアミノ酸と相互作用し、この相互作用が強力な生物活性発現に重要と示唆されている。しかし、芳香環部位にクロロアニリン骨格を持つ誘導体は共通して細胞毒性が高く、また溶解性も問題であった。そこで、塩素原子やフッ素原子の生物学的等価体である酸素原子や窒素原子に置換した誘導体群を合成した。また、クロロアニリン骨格以外の新規骨格の探索も平行して行った。分子モデリングの解析した結果、CD4ミミックの芳香環部位とオキサミド部位の一部が高い平面生を保ちgp120と相互作用していることが示唆された。そこで、芳香環部位とオキサミド部位に平面構造を付与しつつ構造固定化によるエントロピーの減少を図るためにインドール骨格を有する誘導体を設計し、それら化合物群を合成した。合成した化合物群の生物活性について評価したところ、クロロアニリン骨格の代わりに一炭素で酸素間を架橋したカテコール骨格を有する誘導体が顕著な抗HIV活性を示し、さらに大幅に細胞毒性が改善されることを見出した (IC50 = 4.1 µM, CC50 = >300 µM)。続いて、親化合物であるNBD-556やその誘導体JRC-II-191、申請者らが見出したこれら化合物より強力な抗HIV活性を示したHAR-431について耐性誘導実験を行った結果、gp120の複数のアミノ酸において共通した変異が見られ、これらの結果は理論計算による分子モデリングの結果とよく一致していた。
結論
HIVの細胞侵入段階を標的としたHIV侵入阻害剤の創製を目的として、報告者らが見出したCD4ミミック誘導体の更なる構造最適化を行い、顕著な生物活性を有する複数の誘導体を見出した。これらの結果は今後のHIV侵入阻害剤の創製研究の進展に資するものである。なお、研究成果の一部を用いた応用研究が現在進行中である。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201226008B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV侵入の動的超分子機構を標的とするケミカルバイオロジー創薬研究
課題番号
H22-エイズ-若手-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
鳴海 哲夫(東京医科歯科大学 生体材料工学研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究課題では、HIV側および宿主側タンパク質の機能を模倣した有機分子を創製し、それらを用いてHIV外被タンパク質と細胞表面タンパク質の相互作用様式を両方向から解析し、その知見に基づいた合理的分子設計により新規HIV侵入阻害剤の創製を目指す。
研究方法
 平成22年度はHIVの細胞侵入の第一段階であるgp120とCD4の相互作用様式の解析を目的として、gp120の構造変化を誘起するCD4ミミック誘導体の設計・合成を行った。申請者らが独自に見出した低分子CD4ミミックを三つのフラグメント (芳香環部位、オキサミド部位、ピペリジン部位) に分割し、それぞれ化学修飾したCD4ミミック誘導体を合成し、それら化合物の生物活性 (gp120に与える構造変化、細胞毒性および抗HIV活性) を評価した。
 平成23年度は平成22年度に引き続きCD4ミミック誘導体の構造活性相関研究を進めた。これまでの結果から、芳香環部位のクロロアニリン、ピペリジン環部位の嵩高い置換基が生物活性発現に重要であることが明らかにしている。そこで、平成22度の研究によって見出したHAR-171をリード化合物として、高活性化および低毒性化など医薬品プロフィールを目指し、新規CD4ミミック誘導体を化学合成し、それら化合物の生物活性を評価した。また、HIV側タンパク質から宿主側への機能解析として、コレセプターとの相互作用に重要な役割を担うV3 loop領域を模倣したV3 loopペプチドをリード化合物として、部分ペプチドライブラリーを構築し、ウィルス視点でのコレセプターの機能解析を行い、CXCR4結合活性を評価した。
 平成24年度は、過去二年間の研究で得られたHIV外被タンパク質と細胞表面タンパク質の相互作用様式に関する知見を基に、HIV外被タンパク質gp120の機能を制御するCD4ミミックの構造活性相関研究を進めた。これまでの構造活性相関研究において見出したHAR-431をリード化合物として、高活性化および低毒性化など医薬品プロフィールの向上を目指し構造活性相関研究を行った。
結果と考察
平成22年度は、宿主側からHIV側タンパク質への機能解析として、申請者らが見出した低分子CD4ミミックを化学修飾することで高度化した誘導体群を合成し、gp120に与える構造変化、細胞毒性および抗HIV活性を評価することで、リード化合物 (NBD-556) の二つのgem-ジメチル基を二つのシクロヘキシル基に置換することで、NBD-556と同等の構造変化誘起能を有し、低毒性かつより強力な抗HIV活性を有する誘導体 (HAR-171) の創出に成功した。平成23年度は、CD4ミミック誘導体の構造最適化を深化しつつ、コレセプターCCR5/CXR4との相互作用に重要な役割を担うV3 loop領域を模倣したV3 loopペプチドをリード化合物として、部分ペプチドライブラリーを構築し、コレセプター結合活性および抗HIV活性を評価した。その結果、芳香環パラ位の塩素原子に加え、メタ位にフッ素原子を導入することで、HAR-171の2倍程度の抗HIV活性および1.5倍程度のgp120構造変化誘起能を有するHAR-431を見出した。また、X4指向性ウイルスのV3 loop領域由来の部分ペプチドおよびそれらを組み合わせたシャッフルペプチド、へリックス領域を安定化する非天然アミノ酸を導入したペプチドミメティックを合成し、CXCR4結合活性および抗HIV活性を評価した。その結果、BASE, STEM, TIPの全ての領域を含み、N末端とC末端をジスルフィド結合で環化した環状ペプチドにおいてのみ顕著なCXCR4結合活性および抗HIV活性が見られた。平成24年度は、gp120の機能制御を目的として、HAR-431をリード化合物として高活性化、低毒性化を目指し、CD4ミミック誘導体のさらなる構造活性相関研究を行い、新規HIV侵入阻害剤の創製研究を実施した。その結果、クロロアニリン骨格の代わりに一炭素で酸素間を架橋したカテコール骨格を有する誘導体が顕著な抗HIV活性を示し、さらに大幅に細胞毒性が改善されることを見出した。
結論
本研究課題では、有機合成化学に基づいたケミカルバイオロジー研究により、HIV外被タンパク質と細胞表面タンパク質の相互作用様式を原子レベルで解析し、細胞侵入段階を標的としたHIV侵入阻害剤の創製研究を実施した。本研究において、顕著な抗HIV活性やgp120構造変化誘起能を示す誘導体を種々見出し、理論計算や耐性誘導実験によりそれら分子の構造活性相関を明らかにした。これらの結果は今後のHIV侵入阻害剤の創製研究の進展に資するものである。これらの結果は今後のHIV侵入阻害剤の開発研究において、重要な基礎的知見を与えるものと思われる。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201226008C

収支報告書

文献番号
201226008Z