外国人のHIV予防対策とその介入効果に関する研究

文献情報

文献番号
201226005A
報告書区分
総括
研究課題名
外国人のHIV予防対策とその介入効果に関する研究
課題番号
H22-エイズ-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
仲尾 唯治(山梨学院大学 経営情報学部)
研究分担者(所属機関)
  • 沢田 貴志(神奈川県勤労者医療生活協同組合港町診療所 内科)
  • 樽井 正義(慶應義塾大学 文学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
7,380,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV対策上、従来より個別施策層として位置づけられている外国人は、わが国の累積HIV陽性者/AIDS発症者のほぼ2割弱を構成し、様々な問題の蓄積が指摘されてきた。多くは、受診(受検)の遅れや困難に起因する重症化や死亡例、及びそれによる恐怖感や無力感の蓄積、更には外国人に対する消極的診療のような問題である。これらの改善策を導き出すべく、外国人のHIV予防と早期受診(受検)を実現するための方策の検討を目的とした。
研究方法
①外国人のHIV予防と早期受診を促進するプログラムの開発
②外国人の出身国及び日本での医療アクセスの現状調査とその検討
③主たる拠点病院における外国人診療困難要因の検討
④あるべき制度や施策の実現に向けての検討
結果と考察
①開発途上国出身の外国人を対象に、守秘が果たせる通訳と医療相談体制の整った医療機関を確保し、固有の文化行事の活用や自国語メディアへの掲載、自国語での相談電話の設置により早期受診を促す啓発をしたところ、次のような結果を得た。 
1. 本研究年度までの3ヶ年度累計で、35人の外国人から検査に関する相談を受けた。このうち、協力医療機関に来院した29人について検討した。内訳はHIV抗体検査受検者19人、CD4値新規測定11人(重複1人)であった。受検者の属性は以下の通りであった。性別:男性23・女性6。出身国(地域):アフリカ10・タイ10・その他の東南アジア6・ラテンアメリカ3。居住地:東京6・神奈川10・埼玉4・千葉6・茨城2・長野1。
2.本研究より新たに啓発を強化した千葉・茨城・長野・埼玉の4自治体からの受検者が増加し、全体の45%を占めた。だが、多くは他県での受検となった。受検者は、啓発の主要なターゲットであったタイ・アフリカ出身者が全体の70%を占め、その意味で一定の成果が見られた。
3.HIV陽性が既に判明しているCD4受検者11人のうち、研究協力医療機関以外のCD4受検者3人のCD4中央値が161copies/μlであったのに対し、本研究プログラムによって受検した7人のCD4中央値は386と比較的高値であり、本研究プログラムが早期受診に一定の寄与をしている可能性が示唆された。
4.これまで、HIV陽性が判明しても、検査や治療に繋がらない外国人が多いことが指摘されている。今回の調査ではその多くが正規の在留資格を持ちながらも、不安定な立場の為に健康保険の利用に困難があったり、言語上の問題による医療アクセスの障害があり、特に女性の受検は遅れがちであった。
②本年度に治療環境の確認を行った国は、韓国・インド・タイ・マレーシア・ベトナム・シンガポール・米国・シエラレオネ・ウガンダで、各国の多様な情報の収集とその刷新ができた。
③HIV陽性外国人や全国の医療機関等から本研究年度までの3ヶ年度累計で128件の相談を受けた。うち、拠点病院からのものは95件で、相談内容別内訳(複数回答)は、「通訳不在」47人、「出身国の医療事情不詳」40人、「日本での利用可能な社会資源不詳」39人と上位を占めた。大多数の相談事例において、対象者は在留資格があるにも拘わらず、受療を困難とする社会背景を持っており、今後相談体制の強化が必要であるとの示唆を得た。
④日本で生活する外国人の多様化や長期滞在化に伴い、日本語・英語ともに不自由なHIV陽性外国人の増加や日常生活面での幅広い相談・支援の必要性の増加など、これまでの一時的滞在者から定住者の脈絡でHIV陽性外国人を捉え直す必要が増してきた。これらの状況に対応できるよう、課題④の結論として、また研究3ヶ年度のまとめとして「外国人のHIV対策における提言書」の作成と『外国人医療相談ハンドブック-HIV陽性者療養支援のために-改訂版(平成25年3月)』の刊行を行った。
結論
わが国のHIV陽性外国人の多くに共通する早期受検・受診の遅れは、当事者のみならず医療システムや医療費に対しても大きな負担をもたらしてきた。本研究の課題はこの早期受検・受診の改善に関わる一定の条件解明とその実現のための方策の検討にある。モニタリングを続けている港町診療所では、早期受検や受診が一定程度実現しており、成果が見られる。だが、農村部の新たな協力医療機関での早期受検・受診の実現効果は乏しい。これには、都市部における匿名性の特質が影響していること以外に、通訳体制の整備や長年培った外国人の医療機関との信頼関係、守秘の徹底や多様なソーシャルワークの支援などが鍵となっているとの示唆を得た。早期受検・受診の実現には、協力医療機関でのHIV診療体制の向上だけでは困難であり、これら通訳介入のほか、日常的な診療での守秘の確保、多様なソーシャルワークの充実、医療情報の普及方法の改善など、より広範な対策による基盤整備が必要であるとの結論を得た。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201226005B
報告書区分
総合
研究課題名
外国人のHIV予防対策とその介入効果に関する研究
課題番号
H22-エイズ-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
仲尾 唯治(山梨学院大学 経営情報学部)
研究分担者(所属機関)
  • 沢田 貴志(神奈川県勤労者医療生活協同組合港町診療所 内科)
  • 樽井 正義(慶應義塾大学 文学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
外国人のHIV予防と早期受診・受検を実現するための方策の検討
研究方法
①外国人のHIV予防と早期受診を促進するプログラムの開発
②外国人の出身国及び日本での医療アクセスの現状調査とその検討
③主たる拠点病院における外国人診療困難要因の検討
④あるべき制度や施策の実現に向けての検討
結果と考察
①開発途上国出身の外国人を対象に、守秘が果たせる通訳と医療相談体制の整った医療機関を確保し、固有の文化行事の活用や自国語メディアへの掲載、自国語での相談電話の設置により早期受診を促す啓発をしたところ、つぎのような結果を得た。 
1. 本研究年度までの3ヶ年度累計で、35人の外国人から検査に関する相談を受けた。このうち、協力医療機関に来院した29人について検討した。内訳はHIV抗体検査受検者が19人、CD4値新規測定が11人(重複1人)であった。受検者の属性は以下の通りであった。性別:男性23・女性6。出身国(地域):アフリカ10・タイ10・その他の東南アジア6・ラテンアメリカ3。居住地:東京6・神奈川10・埼玉4・千葉6・茨城2・長野1。
2.本研究より新たに啓発を強化した千葉・茨城・長野・埼玉の4自治体からの受検者が増加し、全体の45%を占めた。だが、多くは他県での受検となった。受検者は、啓発の主要なターゲットであったタイ人・アフリカ出身者が全体の70%を占め、その意味で一定の成果が見られた。
3. HIV陽性が既に判明しているCD4受検者11人のうち、研究協力医療機関以外のCD4受検者3人のCD4中央値が161 copies/μlであったのに対し、本研究プログラムによって受検した7人のCD4中央値は386と比較的高値であり、本研究プログラムが早期受診に一定の寄与をしている可能性が示唆された。
4.これまで、HIV陽性が判明しても、検査や治療に繋がらない外国人が多いことが指摘されている。今回の調査ではその多くが正規の在留資格を持ちながらも、不安定な立場のために健康保険の利用に困難があったり、言語上の問題による医療アクセスの障害があり、特に女性の受検は遅れがちであった。
②研究期間3ヶ年度間に19カ国(タイ、インドネシア、ミャンマー、ベトナム、ラオス、カンボジア、シンガポール、マレーシア、インド、ネパール、韓国、中国、台湾、ウガンダ、カメルーン、シエラレオネ、カナダ、アメリカ、フランス)の多様な情報の収集とその刷新ができた。
③HIV陽性外国人自身や全国の医療機関等から本研究年度までの3ヶ年度累計で128件の相談を受けた。うち、拠点病院からのものは95件で、相談内容別内訳(複数回答)は、「通訳不在」(47人)「出身国の医療事情不詳」(40人)、「日本での利用可能な社会資源不詳」(39人)が多数を占めた。大多数の相談事例において、対象者は在留資格があるにも拘わらず、受療を困難とする社会背景を持っており、今後相談体制の強化が必要であるとの示唆を得た。
④日本で生活する外国人の多様化や長期滞在化に伴い、日本語・英語ともに不自由なHIV陽性外国人の増加や日常生活面での幅広い相談・支援の必要性の増加など、これまでの一時的滞在者から定住者の脈絡でHIV陽性外国人を捉え直す必要が増してきた。これらの状況に対応できるよう、課題④の結論として、また研究3ヶ年度のまとめとして「外国人のHIV対策における提言書」の作成と『外国人医療相談ハンドブック-HIV陽性者療養支援のために-改訂版(平成25年3月)』の刊行を行った。
結論
わが国のHIV陽性外国人の多くに共通する早期受検・受診の遅れは、当事者のみならず医療システムや医療費に対しても大きな負担をもたらしてきた。本研究の課題はこの早期受検・受診の改善に関わる一定の条件解明とその実現のための方策の検討にある。モニタリングを続けている港町診療所では、早期受検や受診が一定程度実現しており、成果が見られる。だが、農村部の新たな協力医療機関での早期受検・受診の実現効果は乏しい。これには、都市部における匿名性の特質が影響していること以外に、通訳体制の整備や長年培った外国人の医療機関との信頼関係、守秘の徹底や多様なソーシャルワークの支援などが鍵となっているとの示唆を得た。早期受検・受診の実現には、協力医療機関でのHIV診療体制の向上だけでは困難であり、これら通訳介入のほか、日常的な診療での守秘の確保、多様なソーシャルワークの充実、医療情報の普及方法の改善など、より広範な対策による基盤整備が必要であるとの結論を得た。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201226005C

収支報告書

文献番号
201226005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,856,000円
(2)補助金確定額
8,856,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 326,264円
人件費・謝金 5,308,393円
旅費 464,650円
その他 1,284,518円
間接経費 1,476,000円
合計 8,859,825円

備考

備考
補助金確定額と実際の支出額に僅差が生じたための自己負担。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-