文献情報
文献番号
201226004A
報告書区分
総括
研究課題名
国内で流行するHIV遺伝子型および薬剤耐性株の動向把握と治療方法の確立に関する研究
課題番号
H22-エイズ-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
杉浦 亙(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター感染・免疫研究部)
研究分担者(所属機関)
- 田中 靖人(公立大学法人名古屋市立大学大学院医学研究科)
- 吉野 宗宏(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター薬剤科 )
- 佐藤 典宏(北海道大学病院 高度先進医療支援センター)
- 貞升 健志(東京都健康安全研究センター 微生物部病原細菌研究科)
- 近藤 真規子(神奈川県衛生研究所微生物部)
- 南 留美(独立行政法人国立病院機構九州医療センター免疫感染症科臨床研究部)
- 石ヶ坪 良明(横浜市立大学大学院医学研究科病態免疫制御内科学)
- 古賀 道子(東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染症分野)
- 松下 修三(熊本大学エイズ学研究センター)
- 健山正男(琉球大学大学院医学研究科 感染症・呼吸器・消化器内科学)
- 上野 貴将(熊本大学エイズ学研究センター)
- 潟永 博之(独立行政法人国立国際医療研究センター エイズ治療 研究開発センター)
- 加藤 真吾(慶應義塾大学医学部微生物学免疫学教室)
- 渡邊 大(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センターエイズ先端医療研究部HIV感染制御研究部室)
- 西澤 雅子(国立感染症研究所エイズ研究センター)
- 椎野 禎一郎(国立感染症研究所感染症情報センター)
- 巽 正志(国立感染症研究所エイズ研究センター)
- 森 治代(大阪府立公衆衛生研究所)
- 太田 康男(帝京大学医学部内科学講座)
- 田邊 嘉也(新潟大学医歯学総合病院第二内科)
- 伊藤 俊広(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター血液内科)
- 内田 和江(埼玉県衛生研究所)
- 藤井 輝久(広島大学病院輸血部)
- 福武 勝幸(東京医科大学医学部臨床検査医学科)
- 上田 幹夫(石川県立中央病院免疫感染症科血液内科)
- 佐藤 武幸(千葉大学医学部附属病院感染症管理治療部)
- 高田 清式(愛媛大学医学部付属病院総合臨床研修センター感染症内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
85,328,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
我が国における薬剤耐性HIVの発生動向とその分子疫学を明らかにし、それを踏まえて薬剤耐性HIV発生の予防法と薬剤耐性症例の治療法を立案する。
研究方法
以下5項目の研究に取り組む。(1)薬剤耐性HIV動向調査研究:新規HIV/AIDS診断症例を対象にプロテアーゼ領域、逆転写酵素領域、インテグラーゼ領域の遺伝子配列解析を行う。(2)新規HIV/AIDS診断症例の疫学研究:HIV感染症の疫学的実態把握のために、Env C2V3領域およびGag p17領域によるサブタイピングと指向性の判定を行う。BEDアッセイによるrecent(R)群とlong-term(LT)群の判別を行なう。潜在する薬剤耐性株の検出技術開発および調査を行う。HIV合併B型肝炎の病態、遺伝子型、肝炎の程度等について調査を行う。(v)宿主液性免疫が流行株形成に及ぼす影響を明らかにする。(3)薬剤耐性検査の質的管理研究:検査精度担保のため自施設で薬剤耐性検査を実施している機関に試験サンプルを送付し検査精度の評価を行う。(4)薬剤血中濃度モニタリング研究:至適治療の実践のために抗HIV薬剤血中濃度測定検査を提供する。(5)情報統合・分析研究:薬剤耐性HIVのデータベースを構築する。収集した遺伝子情報のバイオインフォマティクス学的解析から我が国におけるHIV感染ネットワークを明らかにする。HPを介しての情報発信を行う。
結果と考察
平成24年度は以下の成果を上げた。
(1)薬剤耐性HIV動向調査研究:平成(H)24年は新規HIV/AIDS診断症例474例(中間値)のHIV遺伝子情報が収集された。そのうち38例(8.1%)に薬剤耐性変異が同定された。H22とH23がそれぞれ11.9%と9.1%であり、観察頻度は低下傾向を示している。薬剤クラス別内訳は核酸系RT阻害剤19例(4.0%)、プロテアーゼ阻害剤20例(4.3%)、非核酸系RT阻害剤6例(1.3%)であった。尚インテグラーゼ阻害剤耐性変異を有する症例は認められなかった。H24の2クラス以上の耐性症例は6例(1.2%)であった。観察頻度の高い変異はT215X 13例(2.8%)、M184V 2例(0.4%)、M46I/L 17例(3.6%)、そしてK103N 3例(0.6%)であり、これらは毎年観察されており、既に流行株として定着していると思われる。微少集族として潜伏している薬剤耐性株の問題も有り、今後は高感度法の併用もしくは次世代シーケンサの導入の検討が必要と思われる。(2)薬剤耐性HIV発生機序の解析研究:本邦の女性感染症例ではnon-B subtypeが高く、感染経路により流行するHIV株が異なる事が示された。Subtype B症例では26.6%、CRF01_AE症例では54%がX4指向性と判定された。H24のHBV、HCVそれぞれの合併率は8.8%、4.2%であった。HIV合併HBVは非HIV感染者に比して自然発症の急性肝炎の頻度が低く32%に留まる事を明らかにした。さらに、ART開始後54%が免疫再構築症候群を呈し、その中にはHBs抗体が陽性化する症例が認められた。PEG-IFN add-on療法が有効な場合が認められた。Env V3領域315番目のcodon usageのパターンによりclassical B/evolved Bとnon-subtype B/recombinant Bに分類できることを見いだした。nef タンパク質の配列がHLA-A2402とA0206と相関することが認められた。国内HIV-2感染症例より感染分子クローンを作成した。(3)薬剤耐性検査の質的管理:自施設で薬剤耐性検査を実施している施設に対して第4回外部精度管理を実施した。(4)薬剤血中濃度測定研究:HPのアクセス数は1574回で累積14948回に達している。測定検査数は458件であった。(5) 情報統合・分析研究:国内で流行するHIVのサブタイプ解析を行った。non-B subtype に関してはCRF01_AE(7.8%)と最も高く、subtype C(1.0%)、CRF02_AG(0.34%)と続く。それ以外に既知のサブタイプあるいは組替え体が0.8%、判定不能のモザイク(URF)が0.7%見いだされた。URFに関しては更なる詳細な解析が必要である。
(1)薬剤耐性HIV動向調査研究:平成(H)24年は新規HIV/AIDS診断症例474例(中間値)のHIV遺伝子情報が収集された。そのうち38例(8.1%)に薬剤耐性変異が同定された。H22とH23がそれぞれ11.9%と9.1%であり、観察頻度は低下傾向を示している。薬剤クラス別内訳は核酸系RT阻害剤19例(4.0%)、プロテアーゼ阻害剤20例(4.3%)、非核酸系RT阻害剤6例(1.3%)であった。尚インテグラーゼ阻害剤耐性変異を有する症例は認められなかった。H24の2クラス以上の耐性症例は6例(1.2%)であった。観察頻度の高い変異はT215X 13例(2.8%)、M184V 2例(0.4%)、M46I/L 17例(3.6%)、そしてK103N 3例(0.6%)であり、これらは毎年観察されており、既に流行株として定着していると思われる。微少集族として潜伏している薬剤耐性株の問題も有り、今後は高感度法の併用もしくは次世代シーケンサの導入の検討が必要と思われる。(2)薬剤耐性HIV発生機序の解析研究:本邦の女性感染症例ではnon-B subtypeが高く、感染経路により流行するHIV株が異なる事が示された。Subtype B症例では26.6%、CRF01_AE症例では54%がX4指向性と判定された。H24のHBV、HCVそれぞれの合併率は8.8%、4.2%であった。HIV合併HBVは非HIV感染者に比して自然発症の急性肝炎の頻度が低く32%に留まる事を明らかにした。さらに、ART開始後54%が免疫再構築症候群を呈し、その中にはHBs抗体が陽性化する症例が認められた。PEG-IFN add-on療法が有効な場合が認められた。Env V3領域315番目のcodon usageのパターンによりclassical B/evolved Bとnon-subtype B/recombinant Bに分類できることを見いだした。nef タンパク質の配列がHLA-A2402とA0206と相関することが認められた。国内HIV-2感染症例より感染分子クローンを作成した。(3)薬剤耐性検査の質的管理:自施設で薬剤耐性検査を実施している施設に対して第4回外部精度管理を実施した。(4)薬剤血中濃度測定研究:HPのアクセス数は1574回で累積14948回に達している。測定検査数は458件であった。(5) 情報統合・分析研究:国内で流行するHIVのサブタイプ解析を行った。non-B subtype に関してはCRF01_AE(7.8%)と最も高く、subtype C(1.0%)、CRF02_AG(0.34%)と続く。それ以外に既知のサブタイプあるいは組替え体が0.8%、判定不能のモザイク(URF)が0.7%見いだされた。URFに関しては更なる詳細な解析が必要である。
結論
HIV感染者に対する早期の治療導入、そして近年抗HIV薬剤による予防戦略などHIVの予防と治療に対する考え方が大きな転換期を迎えている今日、薬剤耐性HIVによる新規感染がどのような影響を受けるのか、反対に薬剤耐性HIVの蔓延がどのように影響を及ぼすのか、引き続き薬剤耐性HIVの動向に注意をしていく事が重要と思われる。
公開日・更新日
公開日
2014-05-26
更新日
-