EBMを支えるリサーチライブラリアン養成についての調査研究

文献情報

文献番号
199800109A
報告書区分
総括
研究課題名
EBMを支えるリサーチライブラリアン養成についての調査研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
中嶋 宏(国際医療福祉大学国際医療福祉総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 津谷喜一郎(東京医科歯科大学難治疾患研究所情報医学研究部門)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国においてEBMが広く臨床現場で実践されるためにには、システマティックレビューを行なえる実務者(リサーチライブラリアンなど)の育成が急務である。そこで本研究では、リサーチライブラリアン養成に関連して、研究デザインのあり方から、データベース、抄録などの情報の組織化についてのさまざまな論点を抽出し、リサーチライブライリアンの役割を新たに検討しながら、リサーチライブラリアン養成のためのテキスト・ワークショップ・プログラムを作成することを主たる目的として実施した。
ここでのリサーチライブラリアンは、第1に、RCTを対象にエレクトロニックサーチを適切に実行できるサーチ専門家であり、第2に、研究デザインの知識を持った索引専門家であり、第3に、ハンドサーチを行える人である。
テキストならびにワークショップ・プログラム作成にあたっては、デザインコア、情報コア、アクションコアの各コアについて現状分析をもとにリサーチライブラリアンとしての知識習得を目的とした内容を盛り込んだ。
各コアの目標は以下の通りである。
デザインコア:EBMに必要な情報環境と、EBMの基礎となるランダム化比較試験を中心に研究デザインとそれを見極め伝達する方法について理解する。
情報コア:EBMを情報源の組織化と流通という視点からとらえ、そこでのリサーチライブラリアンの役割を理解する。
アクションコア:日本の臨床試験の論文からRCTとCCTを探す方法を実際のアクションを通して身に付ける。
研究方法
主任研究者は、EBMを支えるリサーチライブラリアン養成についての調査研究(総括)を、分担研究者は、研究デザイン教育とハンドサーチの方法論に関する研究をそれぞれ担当した。それぞれの研究協力者からなる研究班を組織し、わが国における現状調査、諸外国で使用されているデータベースやEBM関連のツールの評価を行いながらテキスト執筆を行った。3月23日~25日の3日間ワークショップを開催し、参加者によるテキストならびに研修プログラムとしてのワークショップ評価を行った。
結果と考察
日本では、EBMに関心を持つ人の増加や、各種出版物の刊行、ホームページの整備などの発展と、具体的なEBMの実践の増加が見られる一方、それを実践するための問題点も明らかになってきた。それは一口にいうと日本でEBMを実践するための情報インフラ整備の遅れである。
第1に、日本の臨床試験が、EBMのための世界的なデータベースに収録されていない。
第2に、日本の医学データベースはEBMを実践するためには不充分である。
この2つの問題は、この領域に関わる人々に、EBMそのものの理解とその基本的要素になる研究デザインの理解が不充分なことによる。この理由は組織的な教育の場がないことにつきる。これはエビデンスを「つくる」臨床試験に関わる医療従事者、エビデンスを「つかい」日々の意思決定を迫られる医療従事者など、またこの両者の間に入ってエビデンスを「つたえる」医療情報専門家にとっても同じである。デザインコアでは、EBMの現場での行動プロセスとして、問題の定式化、情報収集、批判的吟味、患者への適応という4つのステップが必要であること、海外データベースの近年の発達についてCD-RoMやINTERNETを利用しながらThe Cochrane LibraryやMEDLINEの使い方について学習することとした。研究デザインの理解のために、エビデンスと臨床試験、バイアス、randomization、前向き・後ろ向き研究、エビデンスのレベルのそれぞれについてリサーチライブラリアンも理解しておくことが必要であることを明らかにし、EBM実践のためには医療供給者だけでなく、消費者も情報について批判的吟味ができるような教育が必要と考えられ、そのためのツールとしてCASP(Critical Appraisal Skills Programme)の評価を行った。
世界的な情報の共有という観点からは、The Cochrane Libraryに日本のRCTを収載していく必要がある。そのためには、日本のデータベースをサーチする必要がある。データベースごとにキーワード付与や抄録の特色などを理解し、制作側との連携により適切な検索技法と、データベースそのものの質向上に貢献しなければならない。日本語環境も重要であり、日本の医学データベースがEBMを支援できるよう対応していくために、協力関係を発展させることが重要である。
そこで、情報コアでは、EBMを情報源の組織化と流通という視点からとらえ、そこでのリサーチライブラリアンの役割を理解することを目的とし、情報のアブストラクト化と構造化抄録の必要性、日本の現状(RCT文献の生産、構造化抄録採用など)についての調査から問題点を明らかにした。すなわち、日本でなされたRCT文献がThe Cochrane LibraryやMEDLINEなどの海外資料に十分には収録されておらず、また日本の医学文献データベースでも対応がなされていないという現実であった。次いで、日本の3大データベースの特徴とそれを利用したRCT文献の識別の留意点について検討したが、わが国のデータベースは、MEDLINEのようなpublication type、研究デザイン用語の収録が不充分であった。
EBMは研究デザインとしてRCTを中心とするが、その周辺では、メタアナリシス>RCT>CCTの順でエビデンスのレベルは高い。有効にRCTを検索するには、各種データベースの特性をいかした手だてが必要である。MEDLINEではpublication typeを用いてRCT、CCTを検索することができる。また、コクラン共同計画は、ヘルスケアの介入の有効性のシステマティックレビューを行い、The Cochrane Libraryとして発行している。システマティックレビューでは、各リサーチクエスチョンに対応するRCTをすべて収集しようと努めるが、MEDLINEのみでは求める文献が約半数しか得られないことが知られている。これはRCTのインデックスが不十分なことの他に、そもそもデータベースに入ってないものは検索されないからである。とくに非英語論文のMEDLINEへの収載は充分ではない。このため、検索とハンドサーチが行われる。
アクションコアでは、前2つのコアの学習を前提に日本の臨床試験の論文からRCTとCCTを探す方法を実際のアクションを通して身に付けることを目的とした。検索によりCCT、RCTを見つけ出すことは可能であるが、各データベースの機能・特徴を十分理解した上で数段階の手順を踏んだ検索式をたてることが必要であることが明らかであり、この手順の確立が重要であると考えられた。しかしながら、既存のデータベースでは、抄録が報知的であったり、タイトルや抄録に研究デザインが記載されないこともあって、検索結果の閲覧のみではエビデンスレベルを確実に評価することは困難であり、ハンドサーチが必要である。そこでコクラン共同計画で用いられているハンドサーチ・マニュアルに基づき、ハンドサーチテキストを作成した。
以上の研究をもとに作成されたテキストを用いたワークショップをリサーチライブラリアン育成プログラムの一環として実施し、本テキスト・ワークショップへの評価を行った。その結果、各コアとも有用性において、今後の業務に役立つとの回答が多く,本プログラム全体を通しても有用であるとの評価であり、研究デザインから検索・ハンドサーチについての体系的な研修を行うことがEBM普及に有用であると考えられた。
結論
本研究によって作成されたテキストは、今後、リサーチライブラリアン育成のための出版物として供されるだけでなく、医療現場の情報ユーザーとリサーチライブラリアンとのコミュニケーション・ツールとして広く読まれることが期待される。また、ワークショップについても単に研修の場の提供に止まらず、検索やハンドサーチ手順の標準化や経験交流の場として継続的に実施されることが必要と考えられる。さらに、今回のワークショップの対象者は医学図書館員中心に行ったが、EBMの環境作りとして、臨床試験論文の研究者・執筆者、出版社、データベース作成・提供機関をも対象とすべきと考えられ、今回のテキストならびにワークショップ・プログラムが利用できるものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-