抗HTLV-1ヒト免疫グロブリンによるHTLV-1の革新的感染予防モデルの開発とその有効性の検討

文献情報

文献番号
201225071A
報告書区分
総括
研究課題名
抗HTLV-1ヒト免疫グロブリンによるHTLV-1の革新的感染予防モデルの開発とその有効性の検討
課題番号
H24-新興-若手-019
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
水上 拓郎(国立感染症研究所 血液・安全性研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 浜口 功(国立感染症研究所 血液・安全性研究部 )
  • 大隈 和(国立感染症研究所 血液・安全性研究部 )
  • 佐竹 正博(日本赤十字中央血液研究所)
  • 田所 憲治(日本赤十字中央血液研究所)
  • 山口 一成(熊本大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人T細胞白血病はヒトT細胞白血病ウイルス I 型 (HTLV-1) の感染によって引き起こされる末梢性T細胞の腫瘍性疾患である。HTLV-1はT細胞に感染し、T細胞同士の接触によって感染・伝達する。現在、母子感染を予防する事がHTLV-1の感染防止及び蔓延防止の最も有効な手段であると考えられ、人工栄養あるいは短期母乳との併用による感染予防策が講じられている。HTLV-1感染率の高い流行地では減少したが、九州以外の都市部では増加傾向にあった。また完全人工栄養法を選択しても約3%の母子感染が発生している事から、新たな感染予防方法の研究・開発が望まれてきた。ウイルスの新生児感染が問題となったB型肝炎においては、出生児母子感染を予防する目的で、抗HBsヒト免疫グロブリン製剤が開発され、出生児のHBVへの感染防止が可能である。日本赤十字血液センターでは高感度なCLEIA法を用い、HTLV-1抗体検査を実施している。過去の研究から、血漿成分のみの輸血による抗体陽転化の例は報告されていない事から、HBVと同様にHTLV-1抗体陽性血漿由来のグロブリンを用いることでHTLV-1感染防止が可能であると示唆される。
研究方法
そこで本研究課題においては、1) 日本赤十字社の協力を得て、抗HTLV-1ヒト免疫グロブリン (HTLV-IG)の開発をし、2) in vitro でのHTLV-IG感染予防能についての検討。3)ヒト臍帯血由来CD34細胞を移植しヒトの血液を再現したヒト化マウスを用いた、in vivo HTLV-1感染モデルの開発と、HTLV-IGの有効性の検討を行う。また、ヒト臨床試験に応用する事を目指し、HTLV-IGの用法・容量等の性状の設定と、ウイルス安全性について日本赤十字社と共同で検討する。
結果と考察
1. 抗HTLV-1ヒト免疫グロブリンの開発
 当初の計画では、まずHTLV-1陽性血漿より抗HTLV-1ヒト免疫グロブリンを実験室レベルで製造し、実験に供する予定であったが、第1回班会議の結果、まず陽性血漿の絞り込みを行い、免疫グロブリンに精製する前の血漿レベルで、一次スクリーニングを行う事とした。そこで日本赤十字社が持つHTLV-1陽性血漿の中から、感染ウイルス量 (PVL) の高い血漿、中程度、低コピーのものと3つのグレードに分け、さらにELISA結果とwestern blotの結果を加味した様々な陽性血漿サンプルを約30検体準備した。

2. in vitroスクリーニング系の開発
 1の計画の微変更に伴い、ハイスループットなin vitroスクリーニング系を開発する目的で、細胞株を用いた感染実験モデルを構築した。既存のHTLV-1感染細胞株 (MT-2, SLB-1, HUT102)にマイトマイシンC処理を行い、非感染細胞であるJurkat細胞と様々な比率で混合し、一定期間培養する事で、Jurkat細胞へのウイルス感染を検討した。その結果、SLB-1細胞を用いる事で用量依存的なウイルス感染が確認され、本細胞株を用いる事で感染実験が標準化出来る事が確認された。本試験法は感染予防薬の開発にも応用可能と考えられる。そこで、現在、このSLB-1とJurkat細胞を用い、20種のHTLV-1陽性血漿の添加実験を行い、中和活性の有無について一次スクリーニングを実施している。またヒトPBMCの感染系を構築したので、一次スクリーニングで有効性が確認された血漿を用いて2次スクリーンングを行う予定である。スクリーニングで感染防御能が高かった血漿よりグロブリン製剤を作成し、平成25年度の実験に用いる。
結論
 本研究課題によって抗HTLV-1人免疫グロブリンの感染抑制効果がin vitroで証明された。今後は、感染予防の有効性が、ヒト化マウス等を用いたよりヒトに近い動物実験での研究によって明らかとなれば、HTLV-1の感染を予防する重要戦略の一つが担える事となる。また現在、HTLV-1特別研究 (代表:長谷川秀樹)において、HTLV-1ワクチンの開発が実施されているが、ワクチンと抗HTLV1ヒト免疫グロブリンの併用によって、HTLV-1感染予防法が成立すると言える。本研究は献血者の善意に報い、血液のより有効的な活用となる。

公開日・更新日

公開日
2013-06-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201225071Z