エンベロープウイルス粒子形成の分子基盤の解明と創薬に向けた研究開発

文献情報

文献番号
201225069A
報告書区分
総括
研究課題名
エンベロープウイルス粒子形成の分子基盤の解明と創薬に向けた研究開発
課題番号
H24-新興-若手-017
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
森田 英嗣(大阪大学 微生物病研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、インフルエンザウイルス感染症において、既存の抗ウイルス剤に対する耐性株出現に関する様々な報告がなされ、新たな分子標的薬の開発が求められている。また、デングウイルスにおいては、毎年世界で1億人の感染者がいるにもかかわらず、未だ有効な治療法がなく、抗ウイルス薬の開発が求められている。本研究は、インフルエンザウイルス及び、デングウイルスの2種類のエンベロープウイルスに着目し、細胞内での複製機構の解明と新規抗ウイルス薬開発のための分子基盤の確立を目的としている。
 インフルエンザウイルス及びデングウイルスは共にエンベロープウイルスに属し、感染後期過程においてウイルス遺伝子を内包したコア蛋白質が、宿主細胞の生体膜を通過することによってエンベロープを獲得し細胞外に放出される。本研究では、これら2種のエンベロープウイルスの粒子形成機構を明らかにするために、各種ウイルス因子に結合する蛋白質及びウイルス複製オルガネラに対する網羅的なプロテオミクス解析を行い、ウイルス増殖に必要な宿主因子の検索を行った。これら解析によって得られた候補因子群に対して、遺伝子のクローニングを行い、各種細胞生物学的及び生化学的な解析を行い、その作用機序解明を試みた。
研究方法
デングウイルスに代表されるフラビウイルスは、感染すると宿主細胞の小胞体近傍に複製オルガネラと呼ばれる新たな構造物を形成する。本研究では、デングウイルス感染 Huh7細胞のウイルス複製オルガネラ陽性画分の定量プロテオミクス解析と結合因子の網羅的解析を行い、感染特異的に複製オルガネラへリクルートされる宿主因子を同定した。
 この解析によって同定された候補遺伝子群に対して、各種ドミナントネガティブ変異体の発現と、siRNAによるノックダウンを行い、ウイルス増殖がどのように変化するのか検討した。また、各種候補因子がウイルス感染細胞の何処に局在するのか、間接免疫蛍光染色法によって解析した。
結果と考察
各種プロテオミクス解析により、430種類の宿主候補因子群を同定した。これらの中から、バイオインフォマティクス解析により120種類の蛋白質を要解析候補宿主因子として抽出した。そのうち88種類の蛋白質をコードする遺伝子のcDNAのクローニングを行い詳しい解析を行っている。
 候補宿主因子群の感染細胞内での局在を観察したところ、10種類の候補因子がウイルス蛋白質と共局在することが示された。また、ウイルスの増殖における、これら因子群の強発現の影響を調べたところ、7種類の蛋白質に関して強いウイルス増殖阻害効果が認められた。現在それぞれの候補因子群に対してsiRNAによる遺伝子ノックダウンを行い、ウイルス増殖における重要性について検討している。
 一連のプロテオミクス解析により、宿主ESCRT因子複数同定された。また、ウイルス感染細胞内において、種々のESCRT因子がウイルス複製オルガネラに局在することが確認された。これらの結果は、宿主ESCRT因子群がウイルス因子と細胞内にて相互作用していることを示している。種々の変異体発現やノックダウンの影響を調べたところ、TSG101およびCHMP2、CHMP3, CHMP4がデングウイルス複製においても重要な役割を担っていることが明示された。現在、ウイルス因子と宿主ESCRT因子との直接結合の有無について解析している。
 また、宿主細胞のオートファゴソームのマーカーであるLC3が感染特異的に複製オルガネラにリクルートされることが示された。デングウイルスを感染させると細胞内においてオートファゴソームマーカーであるLC3の輝点形成が認められた。この結果は、ウイルスが感染すると宿主オートファジーが誘導されることを示している。各種ATG (Autophagy) 関連遺伝子欠損マウス繊維芽細胞に、JEVを感染させその増殖能を調べたところ、FIP200-/-およびp62-/-細胞を用いた場合では著しいウイルス増殖阻害が認められた。この結果より、ウイルスの増殖において、FIP200およびp62が必要であることが示された。
結論
本研究によって、デングウイルスの増殖に関与する可能性のある候補宿主因子群が同定された。この中には種々の機能未知の遺伝子が多く含まれており、今後の解析により、ウイルス増殖の詳細な分子機構が明らかになると期待される。また、宿主のESCRT因子とATG因子群がウイルスの増殖に関与することが示された。これらの宿主因子―ウイルス因子相互作用を詳細に解析することによって、抗ウイルス薬開発につながる情報を提供できる可能性がある。さらに、宿主因子-ウイルス因子相互作用の構造を明らかにすることによりin silicoでの創薬につながる情報が得られると期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-06-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201225069Z