震災地の高齢者における肺炎球菌ワクチンの肺炎予防効果に関する研究

文献情報

文献番号
201225066A
報告書区分
総括
研究課題名
震災地の高齢者における肺炎球菌ワクチンの肺炎予防効果に関する研究
課題番号
H24-新興-指定-002
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
大石 和徳(国立感染症研究所 感染症情報センター)
研究分担者(所属機関)
  • 青柳 哲史(東北大学大学院医学研究科)
  • 賀来 満夫(東北大学大学院医学研究科)
  • 大西 真(国立感染症研究所細菌第一部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
6,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究の目的は、(1) 初めてわが国において地域の人口ベースでの成人の肺炎球菌感染症(IPDおよびPP)の罹患率を明らかにし、(2) 被災県における発災後の肺炎球菌感染症(IPDおよびPP)の発生動向を明らかにし、(3)日本赤十字社が実施した「高齢者肺炎球菌ワクチン接種費助成事業」の高齢者における肺炎球菌感染症による患者発生動向やその重症化への影響を明らかにすることである。
研究方法
「高齢者肺炎球菌ワクチン接種費助成事業」の実施された宮城県と、事業実施のなかった山形県に中核的医療のネットワークを構築した、調査対象とした。宮城県において18医療機関、山形県において15医療機関とした。地域において侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)および肺炎球菌性肺炎(PP)に罹患した患者が受診する医療機関をカバーしていると考えられることから、本ネットワークで把握できる症例から地域の人口ベースでの罹患率を推定できるとみなした。上記の病院ネットワークにて補足された症例を後ろ向きに調査し、罹患率の変化を把握するとともに、入院症例と同時期に他の疾患で入院したコントロール症例についても調査し、ケース・コントロール分析を行った。本研究は国立感染症研究所「ヒトを対象とする医学研究倫理審査委員会」において、承認を受けた。
結果と考察
(1)登録症例の構成: PPまたはIPD症例では男性の割合が高い。PPまたはIPD症例のうちPPV23接種者の割合が宮城県で12.1%、山形県で4.3%であり、対照症例ではさらに接種率の数字が低い。出荷量から推計されるPPV23接種率が宮城県で約42%、山形県が16%とされるが、本研究におけるPPまたはIPD患者でPPV23接種歴が把握できた割合は2~3割程度に留まった。宮城県では、2011年3月11日から3月31までに入院または外来受診した症例では、死亡例の割合が20.8%と高かった(宮城県全体で15.0%)。また居住場所について発災直後は避難所での症例が28.8%(宮城県全体で4.8%)と高く、発災直後の避難施設内での肺炎球菌感染症の流行が示唆された。PPまたはIPD症例はほとんどが入院例で(94.2%)、菌血症を伴わないPP症例が1,100例検出されたのに対し、IPD症例は59例で菌血症を伴わないPP症例のうち5.0%であった。IPDのうち、敗血症4例と髄膜炎3例で、髄膜炎3例のうち2例は菌血症も伴っていた。
(2) 宮城県での発災直後の症例増加:被災地である宮城県で被災直後に高齢者におけるPP あるいはIPDの患者数が急増していた。2011年3月に宮城県では50例ほどの症例ピークが見られたのに対し、山形県ではこのような症例ピークは見られなかった。宮城県において発災直後から3週間程度の間(特に1~2週間後に)にPPまたはIPD患者が多く発生していたことが判明した。
(3) PPまたはIPDの罹患率:65歳以上人口を分母として計算すると、10万人年あたりPPまたはIPDの罹患率は、被災県である宮城県で80.0と山形県の44.7より有意に高く、相対危険度は罹患リスク比(Incident Rate Ratio)が1.789であった(95%信頼区間1.569~2.041)。被災地でのPPまたはIPDの増加が示された。IPDの罹患率は10万人年あたり宮城県3.81、山形県2.69であり、統計学的有意差はなかった。
(4)PPV23の効果:高齢者の IPDに対して、PPV23接種はオッズ比0.333(95%信頼区間0.080~1.392)と点推計で3分の1程度に抑えているが統計学的な有意差はなかった。高齢者のPPあるいはIPDによる死亡に対して、PPV23の効果はオッズ比0.487(95%信頼区間0.247~0.961)と有意にリスクを抑えたことが分かった。
結論
本研究は、被災地支援として行われたPPV23接種事業の有効性を評価することを一義的な目的としながら、我が国初の成人の市中における肺炎球菌感染症に関するPopulation Based Studyとして画期的なものである。市中での肺炎球菌感染症は年間10万対約100弱、IPDはうち5%程度と推定され、これまでの推計と一致する結果であった。本研究から確認できたもう一つの有益な所見は、PPV23の有効性については、IPDの発症予防が点推計で示唆されたうえ、年齢等で調整した結果、死亡を抑制する結果が得られたことである。

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201225066C

成果

専門的・学術的観点からの成果
65歳以上人口を分母として計算すると、10万人年あたり肺炎球菌性肺炎(PP )または侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の罹患率は被災県である宮城県で80.0と山形県の44.7より有意に高く、相対危険度は罹患リスク比(Incident Rate Ratio)が1.789であった(95%信頼区間1.569~2.041)。被災地でのPPまたはIPDの増加が示された。IPDの罹患率は10万人年あたり宮城県3.81、山形県2.69であり、統計学的有意差はなかった。
臨床的観点からの成果
宮城県で被災直後に高齢者における肺炎球菌性肺炎(PP )あるいは侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の患者数が急増していた。2011年3月に宮城県では50例ほどの症例ピークが見られたのに対し、山形県ではこのような症例ピークは見られなかった。宮城県において発災直後から3週間程度の間(特に1~2週間後に)にPPまたはIPD患者が多く発生していたことが判明した。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPV23)の接種はオッズ比0.333(95%信頼区間0.080~1.392)と点推計で高齢者の侵襲性肺炎球菌感染症( IPD)を3分の1程度に減少させていた(統計学的な有意差はなかった)。また、高齢者の肺炎球菌性肺炎(PP)あるいはIPDによる死亡に対して、PPV23の接種はオッズ比0.487(95%信頼区間0.247~0.961)と有意にリスクを抑えたことが分かった。以上の結果から、「高齢者肺炎球菌ワクチン接種費助成事業」の成果が明らかとなった。
その他のインパクト
本研究の成果は、(1)今後のわが国の震災後の高齢者にける肺炎球菌感染症対策のエビデンス、(2) 今後のわが国の高齢者に対するPPV23の定期接種化の妥当性のエビデンスとして利用できる。また、(3)今後のわが国の感染症法に基づいた成人の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)サーベイランスの基盤として利用できる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
2017-05-29

収支報告書

文献番号
201225066Z