ハンセン病の予防法及び診断・治療法の開発・普及に関する研究

文献情報

文献番号
201225059A
報告書区分
総括
研究課題名
ハンセン病の予防法及び診断・治療法の開発・普及に関する研究
課題番号
H24-新興-一般-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
向井 徹(国立感染症研究所 ハンセン病研究センター 感染制御部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 定彦(北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター)
  • 牧野 正彦(国立感染症研究所 ハンセン病研究センター 感染制御部 )
  • 石井 則久(国立感染症研究所 ハンセン病研究センター)
  • 宮本 友司(国立感染症研究所 ハンセン病研究センター 感染制御部 )
  • 前田 百美(国立感染症研究所 ハンセン病研究センター 感染制御部 )
  • 鮫島 朝之(国立療養所星塚敬愛園)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
43,027,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ハンセン病の制圧は、世界共通の目的である。現状では、世界的に新規登録患者数は横ばいであり、加えて薬剤耐性菌による発症、再発・再燃も年々数を増し、新たな問題として浮上している。また、わが国では、症例が極めて少ないため、一般人・医療従事者等に対するハンセン病に関する知識の啓発・教育の必要性が存在する。これら諸問題の解決を目指し以下の研究を行った。
1.らい菌の特性に関する研究(宮本)
2.薬剤耐性獲得機構解明とその迅速感受性試験法開発への応用(鈴木)
3.再燃・再発に関する免疫学的診断法の開発(鮫島)
4.免疫療法の開発(前田)
5.ハンセン病・結核共通ワクチンの免疫学的評価(牧野)
6.ハンセン病ワクチンンの開発(向井)
7.ハンセン病の診療ネットワークと啓発に関する研究(石井)
研究方法
1.らい菌の機能未同定遺伝子より、生理代謝への関与予想遺伝子を選別し、Mycobacterium smegmatisの当該相同遺伝子破壊株を作製し、メタボローム解析を行った。
2.らい菌各種変異導入組換えDNAジャイレースを大腸菌発現・精製し、キノロン剤のスーパーコイル化活性阻害効果を検討した。
3.療養所入所者の少菌型、多菌型、対照群の末梢血単核球のMMP-Ⅱ、あるいはらい菌蛋白への反応性を、IFN-γ・IL-10などのサイトカイン測定により行った。
4.蛍光標識らい菌感染樹状細胞の分泌エキソソームの蛍光強度およびその内胞されたらい菌蛋白の同定、発現・精製を試みた。
5.BCG HSP-70および結核菌由来MMP-II融合遺伝子発現plasmidを構築し、Ure C遺伝子破壊BCGに遺伝子導入し、BCG-DHTMを得、ヒト樹状細胞等により各種免疫学的活性を評価した。さらに、マウスによるらい菌増殖抑制能を検討した。
6.らい菌抗原発現BCGの構築
抗酸菌にて強力発現するpromoterを用いBCGもしくはらい菌HSP-70とらい菌MMP II融合遺伝子をBCGのゲノム上のurease領域への組換えBCGの構築を行った。
カニクイザルによるらい菌感染系の構築
幼若もしくは妊娠およびその出生仔ザルに、らい菌を接種してきた。血漿・鼻腔内洗浄液により感染の経過観察を行った。
7.ハンセン病診療に欠けている要素を抽出し、それらを補う資料や情報を提供し、講習会などを開催した。また、新規患者に対する、検査・鑑別・診療を指導した。
結果と考察
1.らい菌遺伝子ML0840の相同遺伝子MSMEG_4536破壊株のCE-MS解析より、アシルCoA類が親株より多く産生されていた。MSMEG_4536の遺伝子産物が機能せず脂肪酸等の取り込みが増大し、β-酸化等の代謝が亢進したと考えられた。
2.変異導入組換えらい菌DNAジャイレースは、ス-パーコイル化活性を有していた。結核菌にあるが、らい菌で報告のないアミノ酸置換は、各種キノロン耐性を示し、今後これら耐性らい菌の出現が予想された。シタフロキサシンは、これら変異型の治療が可能である事を示唆した。
3.IFN-γの産生量は少菌型で多く、また、再発例では皮疹出現時に最も多いが、ばらつきが多いため、症例数を増やす必要がある。再発の少菌型1例の細胞性免疫能の経時観察を行っている。
4.LipoK添加らい菌感染樹状細胞より放出されるエキソソームに検出されたらい菌抗原の十分量の蛋白発現精製はできなかった。しかし、患者の血液と反応するため新規の免疫原性を有する蛋白であった。
5.BCG-DHTMは、非常に強くナイーブCD4もしくはCD8陽性T細胞、樹状細胞を活性化し、また有意にらい菌の増殖を抑制した。ハンセン病濃厚流行地は、同時に結核も多発しているため、ハンセン病・結核に対するワクチンとして有効と考えられた。
6.改変BCGの構築
発現能力の一番強いpromoterによるクローンは構築できなかったが、各種条件検討により構築がされた。さらに安全なBCG構築のため、耐性遺伝子除去を行い、ワクチン効果の検討を進める。
カニクイザルらい菌感染系の構築
今年度は、幼若群の2頭、母仔群2頭にらい菌遺伝子が検出された。妊娠期の接種がより早期の菌排出に寄与したと考えられた。
7.回復者は、一般医療機関を受診する勇気がないため、「ハンセン病の再発と皮膚病に気軽に対応する皮膚科医」の一覧を日本ハンセン病学会のホームページに掲載した。2012年は2名の新規ハンセン病患者がいた。診療機会が殆どない医師を対象に検査実技・治療指導の講習会を行い、診療できる体制確立を目指した。講習会には回復者の方にも参加いただき、講演いただいた。今後も継続した教育機会を設けることが必要である。
結論
各研究課題は、次年度以降に向けさらなる発展を示す成果であったと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-06-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201225059Z