ダニ媒介性細菌感染症の診断・治療体制構築とその基盤となる技術・情報の体系化に関する研究

文献情報

文献番号
201225058A
報告書区分
総括
研究課題名
ダニ媒介性細菌感染症の診断・治療体制構築とその基盤となる技術・情報の体系化に関する研究
課題番号
H24-新興-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
安藤 秀二(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 岩崎 博道(福井大学 医学部)
  • 大橋 典男(静岡県立大学 食品栄養科学部)
  • 川端 寛樹(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 岸本 壽男(岡山県環境保健センター)
  • 今内 覚(北海道大学 大学院獣医学研究科)
  • 高田 伸弘(福井大学 医学部)
  • 林 哲也(宮崎大学 フロンティア科学実験総合センター)
  • 藤田 博己(藤田保健衛生大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
32,165,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国内のリケッチア症はいまだ多く見落とされている。北海道では新興回帰熱ボレリア保有マダニが生息し,その他のダニ疾患の対策も望まれる。リケッチア症の死亡例がいまだ報告されるが,診断体制は脆弱化し,不幸な転機の症例増加が危惧される。本研究は,臨床,病原体,媒介ダニの複雑な感染症群の恒久的対応のため、総合的な共通アプローチ,有機的連携体制で,地域特性把握と拠点機関の検査体制確立,診断法標準化とマニュアル作成,地域にあったネットワーク構築,応用可能な予防法策定,バイオリソース蓄積等を目的とする。
研究方法
研究班共同で次の研究を実施した。1)リケッチア症診断体制の課題抽出のため,地方衛生研究所(以下,衛研)アンケート調査。連携調査,技術研修による衛研ネットワーク構築。2)地域特性情報集積支援と全国展開。3)重症例,マダニ刺咬例の臨床情報収集・解析,重症化評価,感染症診療でのコンサルテーション評価。4)実験室診断開発,改良,従来法との比較。5)バイオリソースである野生分離株の高精度全ゲノム配列決定,比較,進化系統解析。6)アナプラズマ症は,アナプラズマ ファゴサイトフィルム(以下Ap) 感染細胞,組換蛋白を用いた抗体検出。7)ボレリア症は,ライム病ボレリアとボレリア ミヤモトイ(以下、Bm)調査。マダニ実験室群の確立,ダニ因子遺伝子同定,組換ダニ蛋白の機能解析。
結果と考察
1)アンケート調査とネットワーク構築:衛研での検査は,抗体・遺伝子に加え分離もする所がある一方,全くしない施設もある。実施率50%を切り,連携の必要性が改めて浮き彫りとなった。地域毎の検査体制一覧は公表,地域医療の一助とする。地域ラボ連携は,①東北地域で衛研共同の新たな検査系評価や野外調査,②中四国で診断・調査技術移転,③リケッチア症に積極的に対応してきた九州も検査機能低下の状況は同様で,問題点確認と連携,技術継承を試行した。さらに各地域特性を考慮した調査等を行った。
2)地域特性情報集積の調査と支援:福井県のつつが虫病調査で,感染推定地の野鼠から患者のものと一致するシモコシ型を検出した。その他全国で調査,それぞれ興味深い知見を得た。
3)臨床データ蓄積・解析:①3つの血清型つつが虫病患者を解析,TNFα値の重症化指標が示唆された。②福井大病院感染制御部の院内相談ではリケッチア症が約15% を占めた。③マダニ刺咬の皮膚反応でライム病病変を強く示すも特異検査で確認できないものがあった。
4)実験室診断系の検討:既存法の簡略化や,ワイル・フェリックスをスライドに変更,スクリーニングへの有用性を検討した。
5)バイオリソースの収集・解析:リケッチア・ジャポニカ(以下Rj)複数株の全ゲノム配列をほぼ決定,既報種と相同性解析でいずれも極めて近い一方,Rj間,R. heilonjiangensis間比較で,両種の株識別は全ゲノム配列解析やゲノムワイドSNP解析の必要性が示された。オリエンチア沖縄分離株をMLS解析した結果,亜系統3つに分れ,日本本土と明らかに異なり,台湾やタイ株と近縁で,沖縄のベクターが東南アジアと同じことと関連が示された。
6)アナプラズマ症の研究:一般に欧米ではAp感染HL-60細胞を抗原に用いる。今回Ap感染THP-1細胞でAp p44遺伝子群陽性の過去の日本紅斑熱疑い血清を検討,特異的に反応した。p44遺伝子のmRNA発現解析で,細胞種により異なるP44蛋白を菌体表面に発現するApの存在が示された。簡易診断用に組換え蛋白を試みている。
7)ボレリア症の研究:①北海道の各種マダニからライム病ボレリアとBmを検出した。Bmの地域別保有率に有意差はなかった。②シュルツェマダニ(以下Ip)実験室群を確立,TROSPA,Salp15遺伝子, Ip疫抑制因子2種の配列を得た。今後ダニ因子の解析とともに抗ダニワクチンの開発を検討する。
地域特性の強いダニ媒介感染症では多くの患者が埋もれ、効果的な診断体制の検討が必要で、有効な一定範囲の地域共同システムを地域内・間,全国レベルの協力体制で検討している。特定疾患に限らず柔軟な人材育成にも繋がる。しかし一方,重症化や死亡例が毎年報告される。届け出や情報発信が,予防対策,迅速な患者対応のためのリスク管理の地域情報となる。そのため臨床とラボの密接で柔軟なネットワークがより重要となる。病原体だけでなく,ベクターの生態,地域性,季節性等も考慮し,防除対策も求められる。
結論
ダニ媒介性感染症対応は,病原体のみならず,ベクター,患者,自然宿主など多角的視点でのアプローチで,多分野の人材による総合的な対応,基礎的研究と同時に発生形態の多様性を俯瞰した柔軟な診断・治療・予防対策をネットワークとして構築する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-06-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201225058Z