感染症を媒介する節足動物の分布・生息域の変化、感染リスクの把握に関する研究

文献情報

文献番号
201225057A
報告書区分
総括
研究課題名
感染症を媒介する節足動物の分布・生息域の変化、感染リスクの把握に関する研究
課題番号
H24-新興-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
澤邉 京子(国立感染症研究所 昆虫医科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 高崎 智彦(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 津田 良夫(国立感染症研究所 昆虫医科学部)
  • 伊澤 晴彦(国立感染症研究所 昆虫医科学部)
  • 名古屋 真弓(富山県衛生研究所 ウイルス部)
  • 冨田 隆史(国立感染症研究所 昆虫医科学部)
  • 林 昌宏(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 大塚 靖(大分大学 医学部)
  • 平林 公男(信州大学 繊維学部)
  • 林 利彦(国立感染症研究所 昆虫医科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
36,724,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の地球温暖化の進行や,大規模自然災害による環境変化により,媒介節足動物の生息域や発生数は増大し,アルボウイルス感染症の発生リスクが高まっている.国内におけるそれら節足動物の分布・生息域の変化,保有病原体のヒトへの感染リスク評価を目的に,(1)東北被災地およびその他国内各地における疾病媒介節足動物の分布調査,(2)媒介節足動物からの病原微生物(日本脳炎等のウイルス・紅斑熱群リケッチア)の分離・検出と検出法の開発,(3)媒介蚊に関する基礎的研究およびトコジラミの殺虫剤抵抗性に関する全国調査と殺虫試験を実施した.
研究方法
(1)蚊成虫はドライアイストラップを用いて一晩捕集し,幼虫は柄杓による掬い取り法で採取した.ハエ類は30cm×30cm粘着板を用いて,月に1度5月~10月に調査した.ヒトスジシマカは,岩手・宮城・福島県の被災地域,盛岡市,長野・神奈川県下で捕集した.富山県内のイヌ・ネコを対象に外部寄生虫(ダニ・ノミ)を調査した.(2)蚊・ダニ乳剤は培養細胞に接種し細胞変性効果を観察した.一部は乳飲みマウスに接種し,成長不良を示す個体は採脳した.ダニからは日本紅斑熱群リケッチアの遺伝子検出も行った.日本脳炎ウイルス(JEV)遺伝子1型のNS4A領域アミノ酸がバリンからイソロイシンへ置換した株(3-lle)のin vitroでの増殖能,マウスへの病原性を比較し,3-lleはJEVを強毒化する絶対的な要因ではなと結論した.株蚊に成功したコガタアカイエカ由来細胞株にJEV・デングウイルスを接種し,フラビウイルス研究に有用な株であることを確認した.(3)新潟・富山両県のコガタアカイエカの発生消長をもとに,NOAAの気象データ,気象庁の観測データ等を用いて解析し,コガタアカイエカの海外からの長距離飛翔と国内分散を考察した.新規にマイクロサテライトマーカーを設計し,アカイエカ種群の判別を実施した.近年,我々が開発したQProbe法により,トコジラミのナトリウムチャンネル2座位に関する遺伝子型を決定し,ピレスロイド系殺虫剤の抵抗性の発達を調査した.また,有機リン系マイクロカプセル剤の基礎的検討を行った.
結果と考察
(1)津波被災地では今後も蚊の発生が継続すると推測したが,震災後2年目のハエの発生は見られず,復興対策が行われた結果であると推察された.津波被災地での媒介節足動物の分布調査を継続し,次年度は成果を総括する.ヒトスジシマカは東北地方や寒冷地への生息域の拡大が懸念されるため,全国的な調査により,気象との関連や地域集団の特性などの解析を行う.(2)東北被災地の節足動物・野生動物類からJEVは分離されなかったが,今後も継続し病原体の分離と検出を進める必要がある.ヒトに身近なイヌやネコにも病原微生物を保有するマダニ類が寄生しており,今後もウイルス・リケッチアともに調査を継続する必要がある.(3)ネッタイイエカの九州地方における定着の可能性を探るために必要なマイクロサテライト法の改良を進める.2012年の新潟・富山両県でのコガタアカイエカの発生消長と,NOAAの気象データ,気象庁の観測データ等を用いて解析し,本種蚊の長距離飛翔と分散を考察する.東京都におけるコロモジラミにおける塹壕熱バルトネラ菌遺伝子の保有状況調査は順調に進んでいるが,患者血液からの菌分離および抗体検査を追加する.国内のトコジラミは採集地によって殺虫剤に対する感受性が異なることが示唆されたため,今後は調査地を広げ,全国調査に発展させる.
結論
1)津波被災地での蚊の発生は今後も継続すると推測されたが,ハエ類に関しては収束したと結論された.2)ヒトスジシマカの分布は徐々に北上を続け,今後も全国規模での飛来消長調査および結果の解析が必要である.3)地震や津波が蚊の保有するウイルスに影響を与えている結果は得られなかったが,その他の地域の蚊・マダニからは感染性因子の存在が確認された.4)富山県内のイヌ・ネコに寄生するマダニからは紅斑熱群リケッチアの遺伝子が検出され,ヒトに身近な動物にも病原微生物を保有するマダニ類が存在した.5)JEVにおいて3-lle型変異はウイルスの強毒化への絶対的な要因ではないと結論された.6)フラビウイルス研究に有用なコガタアカイエカ由来培養細胞の株化に成功した.7)NOAAの気象データ,気象庁の観測データ等の解析から,コガタアカイエカの海外からの長距離飛翔が確実視された.8)日本に分布するアカイエカ種群の地理的分布を解析するためのマイクロサテライトマーカーを開発した.9)QProbe法に基づく分子検出法により,国内のトコジラミの90%以上が抵抗性遺伝子を有することが示唆された.10)有機リン系マイクロカプセル剤はトコジラミの防除に有用であるが,今後も継続した評価が必要である.

公開日・更新日

公開日
2013-06-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201225057Z