野兎病菌亜種間の病原性相異および動物種間の野兎病感受性の相異に関する研究

文献情報

文献番号
201225049A
報告書区分
総括
研究課題名
野兎病菌亜種間の病原性相異および動物種間の野兎病感受性の相異に関する研究
課題番号
H23-新興-若手-022
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
堀田 明豊(国立感染症研究所 獣医科学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
動物由来感染症のひとつ、野兎病の起因菌、Francisella tularensis (野兎病菌)は多種の動物に感染する。マウスは本菌に対し高感受性でこれまで多様な研究が進められて来たが、ラット感染実験、日本分離株の病原性解析の報告はない。平成24年度の本研究課題の目的は、日本分離野兎病菌のラットへの感染、増殖、排出、排除を解析することにより、マウスとラットのにおける本菌感受性相異のメカニズムを解明することである。平成23年度の研究課題から引き続き、保有株や人工培地長期継代菌の病原性に関連する性状の解析も行った。これらのデータは日本国内に海外から病原性が強い野兎病菌が侵入した場合の拡散防止、サーベイランスおよび清浄法対策の検討に貢献する。
研究方法
供試野兎病菌51株(海外由来15株および日本分離36株)のプレート接着能を解析した。またマウスへの病原性が確認されたNVF1株を供試し、日本分離野兎病菌のラットに対する病原性を解析した。さらに感染ラットおよびマウスより得られた試料について比較解析し、動物種間の野兎病菌感受性相異の詳細を解析した。また平成23年度の研究にて細胞内で増殖性が認められなかった株が多数存在した原因が人工培地による長期継代と考えられたため、新鮮分離のNVF1株をEugonチョコレート寒天培地にて120代まで連続継代し、その薬剤感受性、補体感受性、増殖性および形態を比較し、本菌の実験室株の弱毒化メカニズムの解明を試みた。
結果と考察
 供試野兎病菌株のうち北米由来の2株にわずかな菌接着能が認められた。これらはいずれも環境由来株であったため、本菌の環境中の生存様式に関わる可能性が示唆されたが、病原性との関連性はないと考えた。
 NVF1株をラットへ皮内接種したところ、ラットはいずれも症状を呈さなかった。このことから自然感染にてラットが発症する可能性は低いと考えられた。またNVF1株を腹腔内接種したところ、F344ラットは10^4cfu接種にて接種全4個体が斃死したが、SDラットは10^6および10^7cfu接種群において接種4個体のうち1個体が生残した。このため、F344はSDと比較し、野兎病菌感受性であることが示された。野兎病菌感染マウスとラット由来の血清を比較解析したところ、菌接種21日目のラット血清は微量凝集反応にて高い凝集価が認められ、ウエスタンブロット法にて野兎病菌の17、19および43kDaの蛋白質に対するIgG抗体産生が認められた。一方、マウス血清は凝集力価の上昇が認められず、LPSに対するIgM抗体の反応は強かったがIgG抗体の反応は弱かった。このためマウスとラットの感受性相異は早期の野兎病菌蛋白質に対するIgG抗体産生能の相異に関与する可能性が示唆された。
 新鮮分離NVF1株継代菌の性状変化を解析したところ、30代継代菌は細胞内増殖性が減退した。ゲンタマイシン感受性は10から30代継代の間に高くなった。最小培地(CDM培地)における増殖性は40代継代で消失した。120代継代菌の形態は電子顕微鏡による観察で3代継代菌と比較してサイズと外膜構造が大きく変化していることが明らかになった。これより野兎病菌は30代の継代で病原性が変化すると考えられ、保有株の多くが同じ現象により弱毒化している可能性が示唆された。
結論
本研究にて日本分離野兎病菌NVF1株のラットに対する病原性が明らかになった。既報の海外分離subsp. holarcticaのラット感染実験と比較したところ、日本分離株の病原性は同等と考えられた。ラットは日本に分布する野兎病菌の自然感染により症状を呈す可能性は低いが、野兎病の血清疫学調査に適した動物種と考えられた。ラットの産生抗体が認識する野兎病菌の主要抗原が蛋白質抗原であり、感染マウスや患者から検出される抗体の認識する抗原と異なったため、今後はラットにおける抗体検出法を検討する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-06-06
更新日
-

文献情報

文献番号
201225049B
報告書区分
総合
研究課題名
野兎病菌亜種間の病原性相異および動物種間の野兎病感受性の相異に関する研究
課題番号
H23-新興-若手-022
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
堀田 明豊(国立感染症研究所 獣医科学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究課題は、動物由来感染症、野兎病の起因菌であるFrancisella tularensis (野兎病菌)について、日本と海外分離野兎病菌の性状の相異および動物種間の野兎病菌感受性相異のメカニズムを明らかにすることである。本研究成果はバイオテロなどにより日本国内に海外の野兎病菌侵入時の拡散防止、サーベイランスおよび清浄法対策の検討に貢献する。
研究方法
国立感染症研究所に保有される野兎病菌51株(海外由来15株および日本分離36株)について遺伝子学的、生化学的および細胞内増殖性などの性状を比較した。それら性状に大きな異常が認められなかった株についてマウス病原性を確認した。さらに日本国内新鮮分離野兎病菌株であるNVF1株については皮内接種および腹腔内接種にてラット病原性を確認した。またNVF1株を人工培地にて継代し、継代菌の増殖性、薬剤感受性、形態などを解析した。
結果と考察
供試野兎病菌全51株はRD1、7および23のPCRに増幅遺伝子産物の分子量の相異より6つの遺伝子グループに分類された。生化学的性状および細胞内増殖性を解析したところ、海外由来全15株を含む多くの株が既報の野兎病菌の一般性状と異なったため、これらの株は変異したと考えられた。このため多数の保有株が野兎病菌亜種、生物型の性状比較解析への解析に不適と考えられた。
 遺伝子学、生化学的性状が既報の野兎病菌と異ならず、細胞内増殖性が認められた日本分離株のうち、NVF1、KU-1、KatoおよびSamiの4株は、10^2cfu皮内接種にて接種マウス(C57BL/6JJmsSlc)全匹を斃死させた。NVF1株は3.8cfu皮内接種においても接種後14日以内に斃死させた。約30cfu接種時のKato、KU-1およびNVF1株接種マウスの平均生残日数はそれぞれ7.9、7.6および7.5日であり、これらの株は既報の海外分離野兎病菌と同等の病原性を有すと考えられた。一方Yama、Ebina、ChibaおよびNikaidoの4株接種マウスの多くは皮内接種では生残し、NVF1株と比較して病原性が低いと考えられた。これより保有野兎病菌株の間で病原性が異なる株が存在することが明らかになった。
 ラットに対しNVF1株の皮内接種では病原性を示さなかったが、腹腔内接種では致死的であった。ラット系統間で感受性が異なり、F344/Nは10^4cfu接種にて全4匹が斃死したが、SDは10^4cfu10^6、10^7cfu接種においても1匹生残した。の間でその感受性は異なり、いずれの斃死ラットにおいても脾臓以外の臓器では著しい病変は認められなかった。21日生残ラットの血清は生残マウス血清と比較すると抗野兎病菌抗体価が著しく上昇していた。また野兎病菌17、19および43kDa蛋白質に対するIgG抗体の反応が強く、感染マウスや野兎病患者血清と異なり、野兎病菌LPSに対する反応はIgG、IgMともに弱かった。
 新鮮分離NVF1株継代菌の性状変化を解析したところ、30代継代菌は細胞内増殖性が減退した。ゲンタマイシン感受性は10から30代継代の間に高くなった。最小培地(CDM培地)における増殖性は40代継代で消失した。120代継代菌の形態は電子顕微鏡による観察で3代継代菌と比較してサイズと外膜構造が大きく変化していることが明らかになった。これより野兎病菌は30代の継代で病原性が変化すると考えられ、保有株の多くが同じ現象により弱毒化している可能性が示唆された。
結論
保有野兎病菌株の多くが人工培地における連続継代により変異し、性状変化したと推察されたため、野兎病菌亜種および生物型間の病原性比較は困難であった。しかし既報の海外の野兎病菌subsp. holarcticaの研究結果と比較すると、日本分離NVF1株のマウスおよびラットに対する病原性は海外株と同等と考えられた。ラットは日本分布野兎病菌の自然感染にて斃死する可能性は低いと考えられ、その抵抗性の一因として野兎病菌蛋白質に対する強いIgG抗体産生誘導が考えられた。以上より、日本の野兎病菌研究の進展やバイオテロ対策のためには、病原性を有す海外由来株を取得する必要があると考えられた。マウスとラットは日本分離野兎病菌株に対しても感受性が異なることが明らかになり、今後、動物種間の蛋白質に対するIgG抗体産生メカニズムの相異が興味深い。

公開日・更新日

公開日
2013-06-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201225049C

成果

専門的・学術的観点からの成果
日本国内に分布する野兎病菌は海外の野兎病菌ssp. holarctica と同等の病原性を有すと考えられ、自然感染にてラットが症状を呈し斃死する可能性は極めて低いと推察された。感染によりラットは高い抗体産生を示すと考えられた。このため野兎病の血清疫学調査にはラット血清の収集が有効と推された。
臨床的観点からの成果
特になし。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
特になし。
その他のインパクト
国立感染症研究所に保有する海外分離野兎病菌はいずれの株も変異していて病原性があ弱まっていると考えられた。野兎病菌はバイオテロへの使用が危惧されている病原体であるため、今後、海外由来株の分与を進める必要がある。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hotta A, Tanabayashi K, Yamamoto Y, et al.
Seroprevalence of tularemia in wild bears and hares in Japan.
Zoonoses and Public Health , 59 , 89-95  (2012)
原著論文2
Hotta A, Fujita O, Uda A et al.
In vitro Antibiotic Susceptibility of Francisella tularensis isolates from Japan
Jpn. J. Infect. Dis. , 66 , 534-536  (2013)
原著論文3
Hotta A, Tanabayashi K, Fujita O, et al.
Survey of Francisella tularensis in Wild Animals in the Endemic Areas in Japan.
Jpn. J. Infect. Dis. , 69 (5)  (2016)
原著論文4
Hotta A, Fujita O, Uda A, et al.
Virulence of representative Japanese Francisella tularensis and immunologic consequences of infection in mice
Microbiol. Immunol. , 60 , 168-178  (2016)

公開日・更新日

公開日
2016-05-26
更新日
2017-06-12

収支報告書

文献番号
201225049Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,500,000円
(2)補助金確定額
1,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 834,230円
人件費・謝金 0円
旅費 296,246円
その他 369,524円
間接経費 0円
合計 1,500,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2016-05-26
更新日
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