沈降インフルエンザワクチンH5N1を用いたパンデミック対応(異種株連続接種によるパンデミック想定株を含む幅広い交叉免疫性の獲得、1回接種による基礎免疫誘導効果)の研究

文献情報

文献番号
201225048A
報告書区分
総括
研究課題名
沈降インフルエンザワクチンH5N1を用いたパンデミック対応(異種株連続接種によるパンデミック想定株を含む幅広い交叉免疫性の獲得、1回接種による基礎免疫誘導効果)の研究
課題番号
H23-新興-指定-025
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
庵原 俊昭(国立病院機構三重病院)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 澄信(国立病院機構本部総合研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
29,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 これまでの研究の結果、初期接種と異なる株を接種することにより追加免疫効果と同時に接種株と異なる株に対しても交叉免疫性を認め、異種株追加接種によるパンデミック対応の可能性が示唆されている。青海株を2回初期接種し、半年後に追加接種した場合も交叉免疫性が発現することも明らかになった。本研究では初期1回目と2回目で、異なる株を接種した場合の基礎免疫誘導効果並びに交叉免疫性を検討し、パンデミック株に対しても免疫原性が発現する可能性を探索すること、1回接種後、半年して同種あるいは異株を接種した場合の、免疫原性、交叉免疫性を検討し、初期接種の1回化による基礎免疫誘導効果(事前接種量の少量化)の可能性を探索すること、さらにワクチン接種者を増やすことにより安全性の確認をさらに強固にすることにより、異種株2回接種によるパンデミック対応の可能性ならびに、事前接種量の少量化の可能性を探るとともに、備蓄ワクチンの株選定の科学的根拠を提供することを目的とした。
研究方法
 過去にH5N1ワクチン接種していない者を対象として、ベトナム株、インドネシア株を初期接種1、2回目にそれぞれ筋肉内接種をし、2008年H5N1ワクチン研究で2年前にベトナム株の既接種者にインドネシア株を1回追加接種した結果との比較(中和抗体価による免疫原性と局所反応などによる安全性の検討)を行った。また、初期としてベトナム株あるいはインドネシア株を1回、その半年後にベトナム株あるいはインドネシア株を追加接種(4群の組み合わせ)し、免疫原性及び安全性を検討した。さらに、ベトナム株を中心に、可能な範囲で安全性についてのデータを収集した。
結果と考察
 平成24年度において継続実施した初回初回単回投与試験および安全性確認試験の結果。
1)初回単回投与試験。試験期間:平成24年1月~10月。被験者:合計200名、平均年齢男性38.2歳、女性35.5歳。ベトナム株あるいはインドネシア株を6ヶ月間隔で1回目と2回目に同種あるいは異種の4通りで接種した後、2回目接種3週後と接種前の上記4株に対する中和抗体価を測定し、GMT増加倍率を計算した。初回単回接種株と2回目接種株の組み合わせで、基礎免疫誘導効果、交叉免疫性に差があることが明らかになった(最低値1.73、最高値15.08)。重篤な有害事象ならびに副反応報告、30分以内の有害事象報告は認めていない。ワクチン接種部位副反応発現頻度は異種株連続接種試験、安全性試験に比して高かったが、安全性に特段の問題はみられなかった。
2)安全性確認試験。試験期間:平成24年1月~10月。被験者:合計1020名、平均年齢男性39.0歳、女性34.2歳。接種部位副反応ならびに全身反応、有害事象として別記された事象は局所反応の頻度を除いて異種株連続試験、初回接種単回投与試験と大きな差異は認められなかった。重篤な有害事象報告ならびに副反応報告として5例の39℃以上の発熱、1例の末梢神経障害が報告された。重篤な有害事象報告の2例は因果関係が否定された。
結論
 23年度から24年度にかけて1)ベトナム株(Clade1)、インドネシア株(Clade2.1)を3週間間隔で接種する異種株連続接種試験、2)初回接種を1回、半年の期間をおいて2回目接種し、単回接種での基礎免疫誘導効果ならびに2回目接種株を同種と異種の組み合わせにすることで、投与量の減量化と基礎免疫誘導効果の時間を検討する初回接種単回投与試験、ならびに3)安全性確認試験を実施した。24年度は安全性試験を継続するとともに、初回接種単回投与試験の半年後接種を実施した。その結果、初回単回接種株と2回目接種株の組み合わせで、基礎免疫誘導効果、交叉免疫性に差があることが明らかになった。安全性確認試験を含め3つの試験における安全性評価では安全性確認試験で39℃以上の発熱等がみられたが、因果関係を否定できない重篤な有害事象は発現しなかった(23年度実施分と合わせた接種者総数1,320名)。

公開日・更新日

公開日
2013-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201225048B
報告書区分
総合
研究課題名
沈降インフルエンザワクチンH5N1を用いたパンデミック対応(異種株連続接種によるパンデミック想定株を含む幅広い交叉免疫性の獲得、1回接種による基礎免疫誘導効果)の研究
課題番号
H23-新興-指定-025
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
庵原 俊昭(国立病院機構三重病院)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 澄信(国立病院機構本部総合研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 これまでの研究の結果、初期接種と異なる株を接種することにより追加免疫効果と同時に接種株と異なる株に対しても交叉免疫性を認め、異種株追加接種によるパンデミック対応の可能性が示唆されている。青海株を2回初期接種し、半年後に追加接種した場合も交叉免疫性が発現することも明らかになった。本研究では初期1回目と2回目で、異なる株を接種した場合の基礎免疫誘導効果並びに交叉免疫性を検討し、パンデミック株に対しても免疫原性が発現する可能性を探索すること、1回接種後、半年して同種あるいは異株を接種した場合の、免疫原性、交叉免疫性を検討し、初期接種の1回化による基礎免疫誘導効果(事前接種量の少量化)の可能性を探索すること、さらにワクチン接種者を増やすことにより安全性の確認をさらに強固にすることにより、異種株2回接種によるパンデミック対応の可能性ならびに、事前接種量の少量化の可能性を探るとともに、備蓄ワクチンの株選定の科学的根拠を提供することを目的とした。
研究方法
 過去にH5N1ワクチン接種していない者を対象として、ベトナム株、インドネシア株を初期接種1、2回目にそれぞれ筋肉内接種をし、2008年H5N1ワクチン研究で2年前にベトナム株の既接種者にインドネシア株を1回追加接種した結果との比較(中和抗体価による免疫原性と局所反応などによる安全性の検討)を行った。また、初期としてベトナム株あるいはインドネシア株を1回、その半年後にベトナム株あるいはインドネシア株を追加接種(4群の組み合わせ)し、免疫原性及び安全性を検討した。さらに、ベトナム株を中心に、可能な範囲で安全性についてのデータを収集した。
結果と考察
1)異種株連続接種試験。試験期間:平成24年1月~3月。被験者:合計100名、平均年齢37.5歳。1回目接種(ベトナム株)前と2回目接種(インドネシア株)3週後に採血を行い、ベトナム株(Clade1)、インドネシア株(Clade2.1)青海株(Clade2.2)、安徽株(Clade2.3)の4株に対する中和抗体を測定し、95%信頼区間を含めた幾何平均抗体価(GMT)増加倍率を計算した。ベトナム株6.1(5.2-7.2)倍、インドネシア株2.0(1.7-2.3)倍、青海株2.0(1.-2.3)倍、安徽株1.6(1.4-1.8)倍であり、2010年度に実施した青海株3回接種時の際の2回青海株を接種した後の結果と比較すると、異なる株を接種することで初期から交差免疫性を拡大するという仮説は示されなかった。重篤な有害事象報告ならびに副反応報告として研究者間で共有した症例はなかった。
2)初回単回投与試験。試験期間:平成24年1月~10月。被験者:合計200名、平均年齢男性38.2歳、女性35.5歳。ベトナム株あるいはインドネシア株を6ヶ月間隔で1回目と2回目に同種あるいは異種の4通りで接種した後、2回目接種3週後と接種前の上記4株に対する中和抗体価を測定し、GMT増加倍率を計算した。初回単回接種株と2回目接種株の組み合わせで、基礎免疫誘導効果、交叉免疫性に差があることが明らかになった(最低値1.73、最高値15.08)。重篤な有害事象ならびに副反応報告、30分以内の有害事象報告は認めていない。ワクチン接種部位副反応発現頻度は異種株連続接種試験、安全性試験に比して高かったが、安全性に特段の問題はみられなかった。
3)安全性確認試験。試験期間:平成24年1月~10月。被験者:合計1020名、平均年齢男性39.0歳、女性34.2歳。接種部位副反応ならびに全身反応、有害事象として別記された事象は局所反応の頻度を除いて異種株連続試験、初回接種単回投与試験と大きな差異は認められなかった。重篤な有害事象報告ならびに副反応報告として5例の39℃以上の発熱、1例の末梢神経障害が報告された。重篤な有害事象報告の2例は因果関係が否定された。
結論
1)ベトナム株、インドネシア株を3週間間隔で接種する異種株連続接種試験、2)初回接種を1回、半年の期間をおいて2回目接種し、単回接種での基礎免疫誘導効果ならびに2回目接種株を同種と異種の組み合わせにすることで、投与量の減量化と基礎免疫誘導効果の時間を検討する初回接種単回投与試験、ならびに3)安全性確認試験を実施した。異種株連続試験では、幅広い交叉免疫性を誘導できなかった。初回接種単回投与試験では初回単回接種株と2回目接種株の組み合わせで、基礎免疫誘導効果、交叉免疫性に差があることが明らかになった。安全性確認試験を含め3つの試験における安全性評価では安全性確認試験で39℃以上の発熱等がみられたが、因果関係を否定できない重篤な有害事象は発現しなかった(接種者総数1,320名)。

公開日・更新日

公開日
2013-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201225048C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 A/H5N1はパンデミックをおこすと予測されており、出現時には致死率が高い危険性がある。本邦ではH5N1のパンデミックに備え、プレパンデミックワクチンを備蓄している。今回の研究では、1期初回を異なる株で3週ごとに2回接種するよりも、インドネシア株を用いると、1期初回を1回とし、6か月後に同じ株または異種株を1回接種すると効果的な免疫効果と幅広い交叉免疫が認められた。今回の結果から、1期初回を1回とすると多くの人にワクチンを提供できる可能性が示唆された。
臨床的観点からの成果
 今までの研究では、1期初回は3週間隔で15μg/doseを2回接種し、6か月後以降に追加接種を行っていた。今回1期初回を1回にしたところ、効果的な免疫が誘導されることが示された。また、この方法ではベトナム株よりもインドネシア株の方が、追加接種後の交叉反応の幅が広くなった。免疫記憶の誘導は1回の接種でも良く、備蓄プレパンデミックを幅広く国民に提供できること、プライミングとブーステイングを行うならば、インドネシア株の備蓄が効果的と判断された。
ガイドライン等の開発
 プレパンデミックワクチンにかかる臨床研究の成果は、新型インフルエンザ等対策有識者会議や分科会で取り上げられ、成果の一部は、新型インフルエンザ等対策ガイドラインの「予防接種に関するガイドライン」に取り上げられた。また、プレパンデミックワクチンの継続した臨床研究の必要性が、ガイドラインに示された。
その他行政的観点からの成果
 ニワトリの間で流行するH5N1は変異を続けており、変異に応じてパンデミックをおこすと予測される株を用いたプレパンデミックワクチンの製造が行われている。新型インフルエンザ等対策ガイドラインでは、新たな株を用いてプレパンデミックワクチンが製造された時は、免疫原性および安全性を確認することが記載され、また、プレパンデミックワクチンの免疫原性を調べた血清を用いて、ニワトリの間で流行している株に対する効果も調査することとなった。
その他のインパクト
 プレパンデミックワクチンを小児に接種したとき、副反応として発熱などの全身反応の出現率が高いことが問題となっている。この副反応の出現に自然免疫の関与が示され、また発熱を認めた子どもほど、高い免疫を獲得していた。インフルエンザワクチンの副反応と免疫原性についての研究が進んでいる。

発表件数

原著論文(和文)
12件
インフルエンザに関する論文3件、その他の論文9件
原著論文(英文等)
6件
インフルエンザに関する論文4件、その他の論文2件
その他論文(和文)
68件
ワクチン、インフルエンザ、麻疹、ムンプス等に関する総説
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
119件
ワクチン、インフルエンザ、麻疹、ムンプス等に関する学会発表
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-05-23
更新日
2016-06-08

収支報告書

文献番号
201225048Z