HTLV-I感染拡大を阻止するワクチンならびに抗体医薬等の開発基盤の確立

文献情報

文献番号
201225042A
報告書区分
総括
研究課題名
HTLV-I感染拡大を阻止するワクチンならびに抗体医薬等の開発基盤の確立
課題番号
H23-新興-一般-027
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
田中 勇悦(国立大学法人琉球大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷 川温彦(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 齊藤 峰輝(国立大学法人琉球大学 大学院医学研究科)
  • 伊藤 守(公益財団法人 実験動物中央研究所)
  • 上里 博(国立大学法人琉球大学 大学院医学研究科)
  • 松崎 吾朗(国立大学法人琉球大学 熱帯生物圏研究センター)
  • 新川 武(国立大学法人琉球大学 熱帯生物圏研究センター)
  • 樋口 雅也(国立大学法人新潟大学医歯学系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
21,543,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在も我が国のHTLV-1感染者数は100万人以上と推定される。そのおよそ5%が難病である成人T細胞白血病ATLやHTLV-1関連脊髄症HAMを発症する。主に母子感染が感染ルートであるが、麻薬乱用や性行為による大人間の水平感染も問題となっている。特に大都市では感染者数の増加の傾向を示していることからも、人為的にHTLV-1感染拡大を阻止するワクチンや医薬品を開発することは社会的に高い緊急性を持つと考えられる。そこで、本研究は 将来における“HTLV-1感染拡大阻止の実現”のためHTLV-1感染防御ワクチンや抗体医薬等の開発基盤を確立することを目的とする。
研究方法
HTLV-1に対する単クロン抗体を活用し、試験管内および特殊マウスに由来するヒト化マウスやラットにおける動物感染実験系で感染防御実験を行った。またHTLV-1の臨床株の収集と感染実験、および作製されたワクチン候補の免疫実験を常法に従い進めた。
結果と考察
抗体やワクチン候補の受動ならびに能動免疫誘導実験を進めた。以下に具体的な成果を挙げる。
(1)田中:確立したアッセイ方法を駆使して、HTLV-Iエンベロープgp46に対する中和単クロン抗体(LAT-27)とHTLV-I感染患者由来IgGは、HTLV-Iの新規感染を防御するのみにとどまらず、すでにHTLV-I感染した細胞のウイルス産生および不死化を監視することを新たに発見した。また、既知のHTLV-I中和抗体誘導gp46ペプチド(P180-204)と、HTLV-I感染に重要な役割をしていると報告されているreceptor binding domain 領域gp46ペプチドP197-216とgp21ペプチドP400-429の免疫原性を比較し、中和抗体が誘導できるgp46ペプチドは180-204であることを見いだした。
(2)長谷川:中和抗体LAT-27抗体を受動免疫することにより、腹腔内接種によるHTLV-I新規感染を効率良く防御できることを示した。
(3)齊藤・高橋:度免疫不全マウス(NOD/SCID/γCnull:NOG)の脾臓内にヒト末梢血単核球(PBMC)とマイトマイシンC処理したHTLV-I感染T細胞株(ILT-M1)を同時移植し、2週間後にはマウス体内でヒトT 細胞にHTLV-1感染が成立することを確認した。この系で、自家製抗HTLV-I中和モノクローナル抗体LAT-27は、マウス体内においてヒトT細胞へのHTLV-I感染を完全に抑制した。さらに、HTLV-1感染患者由来IgGも同様に感染防御活性を示すことを確認した。
(4)伊藤:超免疫不全マウスNOD/SCID/γCnull (NOG)マウスの計画生産を行い感染実験に提供した。さらに、抗体依存性細胞障害性を見る系として、血液幹細胞を移植すると単球とNK細胞が増殖するhGM-CSF/IL-3-NOGマウスを確立した。
(5)上里:皮膚科のATL患者の血液細胞の培養により、新規のHTLV-1産生培養株を樹立した。治療によるATL患者の中和抗体の動向を検討するため血清サンプルを蓄積中である。
(6)樋口:細胞内HTLV-1感染抵抗性因子の研究においてHTLV-1 Taxの結合蛋白としてUbiquitin Specific Protease 10 (USP10) を同定した。TaxはUSP10に結合することにより、ストレス顆粒形成を阻害することを解明した。HTLV-I感染細胞の亜砒酸感受性について、ストレス顆粒形成不全によるROS産生制御異常という観点から研究を試みている。
(7)松崎・新川:三部構成免疫賦活複合体(TIPS)は、①抗原、②コイルドコイルコア、③標的リガンドの三部から構成されるが、今回、HTLV-I感染に対する防御エピトープ(gp46180-204)を搭載したTIPSを設計するため、まず始めに5量体コイルドコイル構造形成タンパク質(COMP)と標的用リガンド(B細胞レセプター(Ig)と結合するプロテインA由来のZドメイン)を融合タンパク質として大腸菌で発現させた。この融合分子をBALB/cおよびC57BL/6マウスへアラムアジュバントを添加して皮下接種したが、特異的抗体応答は確認できなかった。
結論
本研究でHTLV-1感染防御評価実験系の確立と改良を行い、その結果我々がHTLV-I感染防御のために標的とすべきHTLV-1の抗原はエンベロープgp46であることを導きだした。これらの研究基盤に立脚して、3年目の研究で重点的に研究するのは、中和抗体誘導能の高いワクチン候補の開発、および抗HTLV-Igp46中和抗体を用いた受動免疫の評価である。

公開日・更新日

公開日
2013-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201225042Z