25年間継続した妊婦のHTLV-I抗体検査から得られた母子感染予防効果の検証および高精度スクリーニングシステム開発

文献情報

文献番号
201225041A
報告書区分
総括
研究課題名
25年間継続した妊婦のHTLV-I抗体検査から得られた母子感染予防効果の検証および高精度スクリーニングシステム開発
課題番号
H23-新興-一般-026
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
増崎 英明(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科展開医療科学講座(産婦人科))
研究分担者(所属機関)
  • 吉浦孝一郎(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科(人類遺伝学))
  • 森内浩幸(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科(小児科学))
  • 木下晃(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科(人類遺伝学))
  • 三浦清徳(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科(産婦人科))
  • 三浦生子(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科(産婦人科))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
17,780,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成23年度より妊婦のHTLV-1感染症スクリーニング検査が全国展開されることになったが、その効果を評価するには、スクリーニング導入後に出生した児が次の世代を出産するまで追求して調査する必要がある。一方、長崎県では1987年よりHTLV-1ウイルス母子感染予防事業を26年間継続しており、すでに私どもは妊婦のHTLV-1スクリーニング検査導入後に出生した妊婦に関する情報とその疫学調査システムを構築している。そこで、本研究課題の目的は、妊婦のHTLV-1感染症スクリーニングがもたらす母子感染予防効果を検証し、HTLV-1の母子感染経路の全容解明と高精度スクリーニングシステムを開発することである。
研究方法
1)研究1:妊婦HTLV-1抗体スクリーニングがもたらす母子感染予防効果を検証する。2)研究2:定量的PCR検査法を導入した妊婦HTLV-1感染症スクリーニングシステムを確立する。3)研究3:妊娠とHTLV-1ウイルス量との関連を明らかにする。4)研究4:母乳以外の感染経路の存在の有無を明らかにする。
結果と考察
研究1:母乳抑制の介入が始まった1987年以前に出生した妊婦におけるHTLV-1抗体陽性率は1.48%(1,548/104,683例)であるのに対して、1987年以降に出生した妊婦におけるそれは0.60%(44/7,365例)であった。
研究2:19,048名の妊婦をスクリーニングし、一次検査で234名が陽性もしくは疑陽性と判定された。そのうち30例は(30/234例;12.8%)、2次検査で行ったWB法で判定保留と判定された。定量的PCR法を併用して、20例(20/30例;66.7%)が陽性、10例(10/30;33.3%)が陰性と判定された。
研究3:妊娠中のプロウイルス量(中央値(最小値-最大値))は63.07(0.13-520.93)/104 cellsであった。一方、分娩後のプロウイルス量は21.41(0.07-134.95)/104 cellsであった。HTLV-1キャリア妊婦では、妊娠中と比較して分娩後のHTLV-1プロウイルス量は有意に減少していた(Wilcoxon signed rank test, p<0.001)。
研究4:Western blot法で陽性42例について、母体血中および臍帯血中のHTLV-1プロウイルス量を定量解析した。その結果、母体血には全42例においてHTLV-1プロウイルスが検出されたが、臍帯血中には42例のうち1例(2.3%)にのみHTLV-1プロウイルス3.28copies/104 cells(0.0328%)が検出された。これは、胎内感染の可能性を示唆するものであり、人工栄養を選択したキャリア妊婦から生じるHTLV-1母子感染の頻度が2-3%であることと一致する。
結論
長崎県内の妊婦を対象として、PCR法を導入した妊婦のHTLV-1スクリーニングシステムを確立した。妊婦にHTLV-1スクリーニング検査を実施することはHTLV-1母子感染予防とATL撲滅に対して有効であることが確認された。 また、キャリア妊婦への栄養法の介入には、HTLV-1キャリア率の減少を促進する効果が認められた。定期的な講習会や市民公開講座の開催が、HTLV-1母子感染予防システムの確立にきわめて重要であることを明らかにした。母乳以外の母子感染経路の存在が示唆された。
分娩に伴い血中HTLV-1プロウイルス量が有意に低下することが明らかになった(p<0.001)。妊娠に伴うHTLV-1プロウイルス量の変化については、今後の詳細かつ大規模な解析調査の必要が示された。HTLV-1キャリア妊婦55例のうち1例の臍帯血液中にプロウイルスの存在を確認し、胎内感染の可能性が考えられた。また、臍帯血液中におけるHTLV-1プロウイルスの有無と妊婦のHTLV-1プロウイルス量との関連は認められなかった。

公開日・更新日

公開日
2013-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201225041Z