網羅的ロタウイルス分子疫学基盤構築とワクチン評価

文献情報

文献番号
201225027A
報告書区分
総括
研究課題名
網羅的ロタウイルス分子疫学基盤構築とワクチン評価
課題番号
H23-新興-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
片山 和彦(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井 克樹(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 村上 耕介(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 下池 貴志(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 高木 弘隆(国立感染症研究所 バイオセーフティ管理室)
  • 中込 治(長崎大学医学部感染免疫学講座)
  • 中込 とよ子(長崎大学医学部感染免疫学講座)
  • 小林 宣道(札幌医科大学医学部)
  • 谷口 孝喜(藤田保健大学医学部ウイルス寄生虫学講座)
  • 水谷 哲也(東京農工大学農学部付属国際家畜感染症防疫研究教育センター)
  • 辰巳 正純(札幌医科大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
29,559,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究第一の目的は、国家レベルでロタウイルス(RV) の分子疫学調査基盤を構築し、RVワクチン導入効果を多角的に評価することである。全国を5つのブロックに分割して拠点病院に協力を依頼し、RV感染症事例(重症の入院事例を含む)を対象に網羅的な情報検出と、RV全ゲノム塩基配列を対象とした分子疫学情報の蓄積を行う。情報は、臨床的側面、ワクチンの投与の有無、ゲノム塩基配列などから多角的に解析し、RV感染症重篤化に関与する因子の同定、ワクチン評価システムの構築等に役立てる。第二の目的は、全国規模蓄積したデータに基づきバイオインフォマティックスによる解析を実施し、RVの病原性発現機構研究、ワクチン作用機序研究の推進に寄与する。
研究方法
全国13箇所の小児科病院拠点にて、RV感染症が疑われる入院症例の調査を実施した。便検体に含まれるRVのスクリーニング、全ゲノムセグメント塩基配列解析を実施した。周辺諸国のRVについても全ゲノムセグメント解析調査を行い、我が国の流行動向との比較検討を実施した。ウシRVをベースとしたロタテックにより生じるウシRVリアソータントの遺伝子セグメントのデータ蓄積も実施した。
結果と考察
協力病院より入手した合計131入院事例のRV全ゲノムセグメント全長塩基配列決定とその解析の結果、VP7遺伝子型はG1が63%、G3が6%、G9が31%であった。VP4遺伝子型 は全てP[8]であった。入院患者におけるRVの遺伝子型分布を調査したところ、GIP[8]が主要流行株であった。しかし、全ゲノム塩基配列解析の結果、驚くべきことに、G1P[8]の過半数が一般的なWa-likeな遺伝子型構成ではなく、DS-1-like遺伝子分節再集合体であることが明らかになった。この結果は、RVが予想をはるかに超えた形で遺伝子分節再集合を起こして進化し、GP遺伝子型解析だけでは把握できない多様なRV株が流行を起こしていることを示していた。さらに、G9には2種類のclusterが見られ、世界的に広く流行しているcluster(27検体)と、これまでに報告されていないブタRVに類似したcluster(13検体)に分類された。ブタRVに類似したウイルスは、既に中部・近畿地方において、ヒトRVとして流行していた。ブタRVに類似したセグメントのヒトRVへの侵入は、他のアジア地域でも見つかり、ヒトRVの進化に動物のRVセグメントの侵入が深く関わっている可能性を示唆した。北海道地区では、1987年から2000年度まで主要流行株であったG1P[8]株に加え、2000年以降G3P[8]株やG2P[4]株、G9P[8]株が入れ替わりつつ流行した。中国の主流行型G1P[8]、日本の非定型流行型G1P[9]、インドネシアの非定型的G4P[10]型について全遺伝子配列を決定し、世界に分布するヒトRVまたは動物RV、および現行のワクチン株との関連を解析した。中国のG1P[8]株の全遺伝子分節は、1株のNSP3遺伝子分節を除き、近年アジアで検出されたヒトRVと同じクラスターに属していた。乳児からの分離株が持つNSP3遺伝子は、インドで報告されたブタ様ヒトRVに近縁であり、ブタRVに由来することが示唆された。その他様々な遺伝子再集合体を検出した。RVの分離培養成功率向上のための細胞株樹立、迅速なRV全ゲノム解析ツールの開発研究の一つとして取り組んだマイクロチップ電気泳動装置を用いたRV RNAパターン解析系の開発、
リバースジェネティックスを用いたRV感染機構の研究は、RVの病原性変化、ワクチン導入によるウイルス進化の解析、流行予測の基盤技術開発へ応用可能である。

結論
RV感染症の入院事例を対象とした網羅的な情報検出と、RV全ゲノムセグメントを対象とした網羅的塩基配列解析は、これまでの疫学では検出し得なかった重症RV感染症での入院症例に、多数の新規リアソータントRVの感染事例が含まれている事を明らかにした。RVは、予想をはるかに超えた形で遺伝子分節再集合を起こして進化していることが示された。ブタ様セグメントがヒトRVに侵入したことも検出した。この傾向は海外近隣諸国でも認められた。動物のRVセグメント侵入は、ウシRVベース生ワクチン(ロタテック)の接種により加速される可能性も有り、今後も厳重な注意が必要である。
高精度なマイクロチップ電気泳動装置を用いたRNA-PAGE法は、RNA分離パターンデータベース構築によるRV流行株の大規模疫学調査施行への扉を開く。今後、ワクチン摂取率向上による免疫学的RV淘汰圧上昇によりRVのゲノム遺伝子型構成にどのような影響が生じるのかなど、RVの未知の変化に対応すべく、多角的な分子疫学的研究、基礎研究を継続する。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201225027Z