感染症の予防、診断・治療又は医療水準の向上のための臨床的研究

文献情報

文献番号
201225026A
報告書区分
総括
研究課題名
感染症の予防、診断・治療又は医療水準の向上のための臨床的研究
課題番号
H23-新興-一般-004
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
影山 努(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 久保 英幸(大阪市立環境科学研究所 微生物保健グループ)
  • 中内 美名(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 高山 郁代(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 高橋 仁(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 大場 邦弘(公立昭和病院 小児科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
20,868,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究では、Direct RT-LAMP法とマイクロ流路チップを組み合わせ、A/B型およびH1pdm/H3N2亜型を同時に煩雑な操作を行わずに検出できるインフルエンザウイルス型・亜型同定システムの開発を行い、病院や地方衛生研究所において、早期ベットサイド診断として季節性インフルエンザウイルスの型・亜型同定を行う事の意義について検証を行う事を目的とした。また本システムは同時に複数の遺伝子を検出する事が可能であるため、呼吸器感染症の原因となるウイルスを鑑別診断する事も可能である。呼吸器ウイルス感染症の診断・予防・医療水準向上を図るために、本システムを利用した10種類の呼吸器感染症のPOC遺伝子検査システムを構築し、実験室診断および臨床診断による診断の意義についても検証を行った。
 また、現在、検疫所・地方衛生研究所が行っているRT-PCR法によるインフルエンザウイルス亜型同定検査は、マイクロピペッターによる試薬・検体の分注操作が必要なため、コンタミネーションリスクが高く、検査手技も煩雑であり、また特殊機器を必要とするため、遺伝子検査に精通した人員と検査設備が整った施設以外の病院や診療所等の臨床現場で検査を行う事が難しいと考えられている。また、新型インフルエンザが出現した際に、検査を担う地方衛生研究所や検疫所においては、平時における事前準備が非常に重要であるが、特にリアルタイムRT-PCR法を用いた遺伝子検査法においては、コンタミネーションが起きにくい環境を整え、検査精度の維持向上を図る事が重要であり、本研究にてその対応を行った。
 さらに、地方衛生研究所におけるインフルエンザウイルスの薬剤耐性株サーベイランスの強化および診断技術向上を図るため、新たなインフルエンザウイルス薬剤耐性株検出法の構築を行った。
研究方法
 Direct RT-LAMP法とマイクロ流路チップおよび検出器(ソニー株式会社)を組み合わせた季節性インフルエンザウイルスの型・亜型同定キットおよび10種類の呼吸器感染症ウイルスの同定キットの開発を行い、ウイルスおよび臨床検体を用いて検出系の感度や特異性の評価および本システムの有用性に関する臨床的評価を行った。また、地方衛生研究所が行っているRT-PCR法によるインフルエンザウイルスの遺伝子同定検査の検査精度の維持向上を図るため、識別マーカー付き陽性コントロールの開発および地方衛生研究所への配布およびこれを利用した診断に関する技術研究会を開催した。
結果と考察
 インフルエンザウイルスの型・亜型同定は、本システムを用いれば、迅速診断キット並の操作で25分以内に行う事ができ、臨床現場でも煩雑な操作なしに高感度な遺伝子検査を行う事が可能なため、診断のみならず感染予防や適切な診療といった医療水準の向上にも有用であると考えられた。また、いくつかのウイルスに対して、検出感度向上を図らねばならないが、呼吸器感染症ウイルスの同定についても同様に、本システムを用いる事で、臨床現場でも煩雑な操作なしに高感度な遺伝子検査を行う事が可能なため、診断のみならず感染予防や適切な診療といった医療水準の向上にも有用であると考えられた。
 また、リアルタイムRT-PCR法によるH5亜型同定検査用の識別マーカー付き陽性コントロールおよびリアルタイムPCR法を用いた簡便な陽性コントロール識別法の開発を行い、全国の地方衛生研究所(75カ所)にこの陽性コントロールを配布するとともに、H5亜型インフルエンザ検出に関する診断技術研究会を3回に分けて開催し、地方衛生研究所におけるインフルエンザウイルスの遺伝子診断技術の向上を図り、これにより新型インフルエンザウイルス出現における全国的な検査対応強化が図られた。
結論
 本システムはインフルエンザのみならず他の呼吸器感染症を含むあらゆる遺伝子診断を高感度、特異的、迅速かつ簡便にベットサイドで行う事が可能な技術であり、感染症の予防、診断・治療といったわが国の感染症対策に大きく貢献する事が期待できる。
 また、本システムは季節性のA型インフルエンザウイルスの亜型を同定できるため、H5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスあるいは他亜型の新型インフルエンザウイルス出現時でも、季節性インフルエンザウイルスとの鑑別診断が可能なため、新型インフルエンザ対策にも非常に有用である。
 本システムの全国的な拡充により、臨床現場における病原体ウイルスサーベイランスも実現可能であり、新型インフルエンザ等の新興感染症の出現に備えるためにも、本システムの様な安価で短時間に簡単に遺伝子検査を行えるマルチプルベッドサイド遺伝子検出系の構築は今後も重要である。

公開日・更新日

公開日
2013-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201225026Z