新型インフルエンザワクチン製造株開発と品質管理及びワクチン使用戦略に関する研究

文献情報

文献番号
201225019A
報告書区分
総括
研究課題名
新型インフルエンザワクチン製造株開発と品質管理及びワクチン使用戦略に関する研究
課題番号
H22-新興-指定-019
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
板村 繁之(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤佳代子(国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター)
  • 白倉雅之(国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター)
  • 横田恭子(国立感染症研究所免疫部)
  • 大西和夫(国立感染症研究所免疫部)
  • 嶋崎典子(国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,175,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、発育鶏卵での高生産性のインフルエンザワクチン製造株の開発や、ワクチンの剤型による免疫応答を解析することにより新型インフルエンザ出現時にどのようなワクチン接種戦略が適切であるのか検討を行う。また新規アジュバントを含有したワクチンの品質規格試験として適切な試験法の開発、標準化を実施して品質の均一な製剤を供給することなどを目的とした。
研究方法
免疫学的方法による力価試験法の開発、ワクチンの剤型の違いによる初回免疫と追加免疫における免疫誘導能の比較、免疫応答の網羅的解析手法の開発、ワクチン製造用ウイルス株の発育鶏卵での継代培養によるワクチン力価の安定性に寄与するアミノ酸変異獲得などについて研究を実施した。
結果と考察
(1)ワクチンの主要な有効成分であるHAの安定性を高める変異が、ワクチン製造用ウイルス株を発育鶏卵で継代培養することによって導入されることがわかった。またこのHAのアミノ酸変異が主にワクチン力価の安定性に寄与していることを、リアソータントを使用して明らかにした。
(2) 新規力価試験として開発したサンドイッチELISA法に使用しているモノクローナル抗体が、ウイルス抗原HAのどの部位を認識しているか、エスケープ変異株を分離してその遺伝子配列から決定した。その結果、2つの異なる部位を認識するモノクローナル抗体に分類され、ワクチンの異なる部位の立体構造の保持を確認するために有用な試験法であることを明らかにした。
(3) 剤型の異なるワクチンで誘導された抗体について結合力(Avidity)の観点から解析を行い、全粒子ワクチンの2回接種によって誘導された抗体は、スプリットワクチンによって誘導された抗体と比較してウイルス抗原に対して強い結合力を示すことを明らかにした。また、誘導された結合力の高い抗体は、インフルエンザウイルスの感染防御に効果が高いことがわかった。
(4)ワクチンによる免疫応答を抗体のレパートリーの観点から次世代シークエンサー技術を応用して抗体応答の網羅的解析ができる新規手法の開発に成功した。新規開発した抗体応答の網羅的解析方法はワクチンの接種戦略を検討するのに役立つことが期待される。
結論
ワクチン力価の安定性に寄与するアミノ酸変異を同定して、ワクチン製造用ウイルス株の品質管理上の観点から、抗原性だけでなく安定性に関連する変異についても注目する必要があることを明らかにした。新規力価試験として開発したサンドイッチELISA法に使用しているモノクローナル抗体の認識部位を決定して、本試験法の有用性について明らかにした。異なる剤型のワクチンによる免疫応答の量的、質的違いについて解析を行い、剤型によって異なる抗体が誘導されることがわかった。このようにして得られた知見や新規開発した抗体応答の網羅的解析方法はワクチンの接種戦略を検討するのに役立つことが期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-10-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201225019B
報告書区分
総合
研究課題名
新型インフルエンザワクチン製造株開発と品質管理及びワクチン使用戦略に関する研究
課題番号
H22-新興-指定-019
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
板村 繁之(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤 佳代子(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 白倉 雅之(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 横田 恭子(国立感染症研究所 免疫部)
  • 大西 和夫(国立感染症研究所 免疫部)
  • 嶋崎 典子(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 笠井 道之(国立感染症研究所 血液・安全性研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、発育鶏卵での高生産性のインフルエンザワクチン製造株の開発や、ワクチンの剤型による免疫応答を解析することにより新型インフルエンザ出現時にどのようなワクチン接種戦略が適切であるのか検討を行う。また新規アジュバントを含有したワクチンの品質規格試験として適切な試験法の開発、標準化を実施して品質の均一な製剤を供給することなどを目的とした。
研究方法
リーバースジェネティクス法による改変ウイルスを作製しての増殖性の検討、免疫学的方法による力価試験法の開発、アジュバント添加ワクチンの力価試験法の改良、ワクチンの剤型の違いによる初回免疫と追加免疫における免疫誘導能の比較、免疫応答の網羅的解析手法の開発、ワクチン力価の経時安定性に与えるワクチン製造用ウイルス株のアミノ酸変異の影響、ワクチン製造用ウイルス株の発育鶏卵での継代培養によるワクチン力価の安定性に寄与するアミノ酸変異獲得などについて研究を実施した。
結果と考察
(1) インフルエンザウイルスの非コード領域や、ウイルス粒子への取り込みに関係すると考えられる領域を改変したウイルスを作出して解析したところ、ウイルスの増殖性とウイルス蛋白量の増加が期待される高生産性ワクチン株の作製の基盤となりうることを明らかにした。
(2)開発したサンドイッチELISA法を用いて全粒子不活化ワクチンについてHA含有量を測定したところ、力価試験として標準に実施されている一元放射免疫拡散試験法(SRD)で測定した値と比較的良く一致したが、再現性に課題があることがわかった。また、サンドイッチELISA法に使用しているモノクローナル抗体が、ウイルス抗原HAのどの部位を認識しているか、エスケープ変異株を分離してその遺伝子配列から決定した。その結果、2つの異なる部位を認識するモノクローナル抗体に分類され、ワクチンの異なる部位の立体構造の保持を確認するために有用な試験法であることを明らかにした。
(3)油系エマルジョンアジュバント添加型インフルエンザHAワクチンについてSRD試験によるHA含量測定を行うために、抗原抗体複合体の形成を促進させるためにPEG添加アガロースゲルを用いる方法、更に、ワクチン検体からアジュバントを分離させるために適切な超遠心処理を行う方法を検討し、有効な改良法を確立した。
(4) インフルエンザ全粒子ワクチンおよびスプリットワクチンの蛍光標識方法を確立し、抗原提示細胞が両者ワクチンを取り込む様子の時間変化を調べ、免疫担当細胞への取り込み方が両者ワクチンの間で異なることを明らかにした。全粒子ワクチンでは初回免疫の場合の抗体価は高いものの、追加免疫後の抗体価はスプリットワクチンも同程度に高くなることがわかった。また、全粒子ワクチンの2回接種によって誘導された抗体は、スプリットワクチンによって誘導された抗体と比較してウイルス抗原に対して強い結合力(Avidity )を示すことを明らかにした。加えて、誘導された結合力の高い抗体は、インフルエンザウイルスの感染防御に効果が高いことがわかった。
(5)ワクチンによる免疫応答を抗体のレパートリーの観点から次世代シークエンサー技術を応用して抗体応答の網羅的解析ができる新規手法の開発に成功した。新規開発した抗体応答の網羅的解析方法はワクチンの接種戦略を検討するのに役立つことが期待される。
(6) HA蛋白のある種の変異はワクチンの抗原性には影響は与えないが、ワクチンの経時安定性に影響を与えることを明らかにした。このような変異が、ワクチン製造用ウイルス株を発育鶏卵で継代培養することによって導入されることがわかった。またこのHAのアミノ酸変異が主にワクチン力価の安定性に寄与していることを、リアソータントを使用して明らかにした。
結論
ウイルス蛋白生産量の増加が期待されるワクチン株作製の基盤となる知見を得た。新規力価試験として開発したサンドイッチELISA法は、従来法であるSRD試験法と比較すると再現性に課題を残すが、ワクチンの異なる部位の立体構造の保持を確認するために有用な試験法であることを明らかにした。油系エマルジョンアジュバント添加ワクチンに利用できるように現行の力価試験法を改良した。異なる剤型のワクチンによる免疫応答の量的、質的違いについて解析を行い、剤型によって異なる抗体が誘導されることがわかった。このようにして得られた知見や新規開発した抗体応答の網羅的解析方法はワクチンの接種戦略を検討するのに役立つことが期待される。ワクチン力価の安定性に寄与するアミノ酸変異を同定して、ワクチン製造用ウイルス株の品質管理上の観点から、抗原性だけでなく安定性に関連する変異についても注目する必要があることを明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2013-10-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201225019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
新型インフルエンザが発生した際に効率的にワクチン製造を行えるように、ワクチン製造用ウイルス株の増殖性にかかわる遺伝子領域を同定して、高増殖性ウイルス株作製の手法を開発した。また、新型ウイルスに暴露されたことのないヒトに対してどのようにワクチンを使用するのが適切であるのかを明らかにするために、ワクチンによって誘導される抗体応答の網羅的解析方法を、次世代シークエンサーを利用して開発した。
臨床的観点からの成果
新型インフルエンザ発生時にワクチン供給を迅速に行えるように、ワクチンの品質管理試験としてモノクローナル抗体を使用した新規の力価試験法を開発した。従来、ウイルス株ごとに標準抗原や抗血清を作製する必要があったために力価試験が実施できるようになるのに3ヶ月程度の日数を要したが、本試験法を利用することで準備期間を短縮することが可能になり、より短期間でワクチン接種が可能になることが期待される。
ガイドライン等の開発
新型インフルエンザ対策行動計画に則って計画実現に有用な技術的な課題について検討を実施した。
その他行政的観点からの成果
ワクチン製造株開発の過程で得られた知見は、プレパンデミックワクチンとして国家備蓄するワクチン製造用ウイルス株選択の指標となる。また、ワクチン製造株のアミノ酸変異がワクチンの有効性だけでなく、安定性にも寄与することを見出し、ワクチン製造用ウイルス株の選択における適性判断の指標のひとつを提供した。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
24件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
19件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
H5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識するモノクローナル抗体
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2011-22774
発明者名: 横田恭子ほか
権利者名: 国
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kazuo Ohnishi, Yoshimasa Takahashi, Naoko Kono et al.
Newly established monoclonal antibodies for immunological detection of H5N1 influenza virus
Jpn. J. Infect. Dis. , 65 (1) , 19-27  (2012)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201225019Z