小児臓器移植前後におけるワクチン接種の安全性と有効性に関する研究

文献情報

文献番号
201225018A
報告書区分
総括
研究課題名
小児臓器移植前後におけるワクチン接種の安全性と有効性に関する研究
課題番号
H22-新興-一般-018
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
齋藤 昭彦(新潟大学 医歯学系)
研究分担者(所属機関)
  • 竹田 誠(国立感染症研究所)
  • 笠原 群生(国立成育医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
6,363,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、国立成育医療研究センターにおいて、生体肝移植を受けた、あるいは、生体肝移植予定の小児の客観的な免疫学的評価を行い、効果があり、かつ安全なワクチン接種スケジュールの作成のための基礎データの蓄積を行うことである。
研究方法
免疫学的評価
1) 液性免疫能(B細胞機能)
生ワクチンに対する液性免疫能の評価を行うため、麻疹、風疹、水痘、ムンプスに対して、前二者に対して、Hemagglutinin inhibition (HI) 、後2者に対してEnzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)、ELISAによって、その評価を行う。

2) 細胞性免疫能(T細胞機能)
細胞性免疫は、抗体産生を担うB細胞の機能をコントロールしており、その機能は、多岐にわたる。特に細胞障害T細胞の機能は、抗原に対して生体が反応する重要な役割を果たしている。この機能評価を行うにあたり、麻疹、水痘、風疹抗原の刺激によるIFN-γなどのサイトカイン産生を見るELISPOTを開発した。精細な方法は、分担研究者(竹田誠)の報告書を参照のこと。
結果と考察
①肝移植後の生ワクチン接種後の液性免疫評価
 移植後約2年経過し、全身状態が良好で、カルシニュリン阻害薬1剤である条件を満たした条件を満たす児に麻疹、風疹、水痘、ムンプスのワクチンを接種し、その後の抗体価を、それぞれ、30, 30, 23, 28患者で調査した。それぞれの年齢の中央値は、49, 49, 49, 53ヶ月であった。それぞれの基礎疾患は、胆道閉鎖症 (53%, 57%, 61%, 59%)、代謝性疾患 (23%, 23%, 17%, 11%), 劇症肝不全 (13%, 13%, 4%, and 15%)、その他 (10%, 7%, 17%, and 19%)であった。1人の患者を除いて、全ての患者は低用量のタクロリムスを服用しており、接種時のトラフ中央値は、それぞれ、1.7, 1.8, 1.8, 1.7 μg/mlであった。
 抗体陽転率を比較すると、麻疹、風疹、水痘、ムンプスでそれぞれ、73.3% (22/30), 100% (30/30), 69.6% (16/23), 60.7% (17/28)であった。多変量解析によっても他の因子は、抗体価に影響をあたえていなかった。また、ワクチン接種後、重篤な副反応は、みられなかった。

②肝移植後の生ワクチン接種後の細胞性免疫評価
 ELISPOTによる細胞性免疫評価を抗体陽転率と比較したが、相関は見られなかった。尚、ELISPOTの結果の解釈に関しては、それぞれの検体のバックグラウンドの反応に差があり、より多くの検体の解析と、正常小児の検体の検討が必要である。

③水痘ワクチン接種後のワクチン失敗例の(Vaccine Failure)の検討

水痘ワクチンを移植前後に接種した82名の中で、29名の患者で水痘の病歴がなく、水痘ワクチンを接種した患者の内、14名(48%)がワクチン失敗例で、残りの15 例(52%)が抗体陽性であった。ステロイドの使用をワクチン接種の3か月以内のprednisoloneによる治療、並びに 6か月以内のmethylprednisolone静注による治療と定義すると、ステロイド使用歴は、ワクチン失敗群に多く(43%)、コントロール群に少ない(7 %)ことが分かった(P < 0.05)。一方で、2群の基本情報(P > 0.13)、他の因子(P > 0.17)に関しては、両者に差を認めなかった。また、多変量解析では、ステロイド使用歴のみがワクチン失敗群の唯一の危険因子であることが分かった(adjusted OR: 10.5; 95% CI: 1.1 - 103.5)。
結論
肝移植前、そして移植後にどの様なスケジュールでワクチン接種を勧めるかは、免疫抑制下にある児をVPDから守るためには、極めて重要な課題である。残念ながら、その基準となるデータは未だ存在せず、それぞれの患者の年齢、基礎疾患、免疫抑制剤の種類、量などによって、その適応が異なる。今回、麻疹、風疹、水痘、ムンプスの生ワクチン接種後の液性免疫の評価を中心にデータの解析を行ったが、移植患者における抗体陽転率は、特にムンプス、水痘、麻疹の順に低く、今後の追加接種の必要性を示唆した。また、同時に実施している細胞性免疫の評価であるELISPOTの一部を解析したが、抗体陽転率との相関は見られず、また、
それぞれの検体のバックグラウンドの反応に差がみられ、今後、より多くの検体の解析と、正常小児の検体の検討が必要であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201225018B
報告書区分
総合
研究課題名
小児臓器移植前後におけるワクチン接種の安全性と有効性に関する研究
課題番号
H22-新興-一般-018
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
齋藤 昭彦(新潟大学 医歯学系)
研究分担者(所属機関)
  • 竹田 誠(国立感染研究所 ウイルス3部)
  • 笠原 群生(国立成育医療研究センター移植センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、国立成育医療研究センターにおいて、生体肝移植を受けた、あるいは、生体肝移植予定の小児の客観的な免疫学的評価を行い、効果があり、かつ安全なワクチン接種スケジュールを作成するための基本データを構築することである。
研究方法
① 肝移植を実施した児の肝移植前後のワクチン接種歴とその効果、安全性の検証
実施された生体肝移植患者110名に行われた予防接種について、移植前と移植後に分けて接種されたワクチンの種類、接種後の副反応、その後の各疾患に対する罹患歴、ワクチンの効果を後方視的に調査する。
② 肝移植前後のワクチンの効果、安全性の前方視的調査
1) 生体肝移植前の患者の評価
 患者の免疫能の評価として、接種前の液性免疫の評価として、各種抗体価の測定、そして、細胞性免疫機能を評価する。また、移植時には、2つの検査を実施し、既に接種したワクチンの効果を液性免疫、細胞性免疫の機能をとして評価する。
2) 生体肝移植後の患者の評価
 移植後は、移植後1, 3, 6, 9, 12, 18, 24カ月に同様の抗体価、細胞性免疫機能の評価を実施する。

③ 免疫学的評価
1) 液性免疫能
生ワクチンに対する液性免疫能の評価を行うため、麻疹、風疹、水痘、ムンプスに対して、前二者に対してHI 、後2者に対してELISA法によって、その評価を行う。
2) 細胞性免疫能
細胞性免疫の機能評価のために、麻疹、水痘、風疹抗原の刺激によって、リンパ球のIFN-γのサイトカイン産生を見るELISPOT法を確立する。
結果と考察
①肝移植前の生ワクチン接種後の液性免疫の評価
移植前の44名の患者において、麻疹、風疹、水痘、ムンプスワクチン後のそれぞれの抗体陽転率は、71%, 85%, 68%, 50%であった。12か月以前に生ワクチンを接種した患者と12か月以降に接種した患者を比較すると、麻疹、風疹、水痘、ムンプスワクチンの陽転率は、それぞれ、21.7% / 70.7% (p = 0.0002)、86.4% / 90.4% (p = 0.68)、45.5% / 78.9% (p = 0.011)、44.4% / 60.5% (p = 0.38)であり、特に麻疹、水痘ワクチンにおいて、乳児で優位に低いことが明確となった。
②肝移植後の生ワクチン接種後の液性免疫評価
 移植後約2年経過し、全身状態が良好で、カルシニュリン阻害薬1剤である条件を満たした条件を満たす児に麻疹、風疹、水痘、ムンプスのワクチンを接種し、その後の抗体価を調査した。それぞれの年齢の中央値は、49, 49, 49, 53ヶ月であった。抗体陽転率を比較すると、麻疹、風疹、水痘、ムンプスでそれぞれ、73.3% (22/30), 100% (30/30), 69.6% (16/23), 60.7% (17/28)であった。
③水痘ワクチン接種後のワクチン失敗例の(Vaccine Failure)の検討
水痘ワクチンを移植前後に接種した82名の中で、29名の患者で水痘の病歴がなく、水痘ワクチンを接種した患者の内、14名(48%)がワクチン失敗例で、残りの15 例(52%)が抗体陽性であった。ステロイド使用歴は、ワクチン失敗群に多く(43%)、コントロール群に少ない(7 %)ことが分かった(P < 0.05)。
 
考察

今回の検討では、肝移植患者における生ワクチン接種は、1)肝移植後2年以降、2)全身状態が安定、3)免疫抑制剤が1剤、かつ低用量という条件を満たしていれば、安全に実施されていることが判明した。しかしながら、その液性免疫の評価からは、麻疹、水痘、ムンプスの抗体陽転率は60-70%と低く、特に2回接種の必要性が示唆された。また、水痘ワクチンで見られるワクチン失敗例は、ステロイド薬投与歴との関連があり、これらの治療歴を受けた患者では、追加接種の必要性が示唆された。
 細胞性免疫の評価に関しては、現時点で得られたELISPOTの結果と抗体陽転率との間に相関は見られなかった。それぞれの感染症に対するELISPOT法による細胞性免疫の評価を確立したが、実際の患者検体においては、そのバックグラウンドのばらつきがあり、今後、より多くの検体の解析と、疾患に罹患した免疫正常の小児に対する評価が必要であると考えられた。
結論
肝移植前後のワクチン接種は、一定の条件で安全に接種されているが、その接種に関する明確な基準は存在しない。生ワクチン接種後の抗体価をみるとその抗体陽転率は60-70%にとどまり、それぞれの疾患に確実に守られていない現実がある。児に効果があり、安全な接種を実施する上でも、現在研究に参加し、検体採取を実施している患者の液性免疫、細胞性免疫の両面からのデータの蓄積をする事は極めて重要である。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201225018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
肝移植後の患児にワクチン接種を行った際の評価として、液性免疫の評価は抗体を測定することで行われるが、細胞性免疫の評価法は確立されていない。この研究では、ELISPOTアッセイを用いて、水痘、風疹、麻疹に対する細胞性免疫評価のための検査系を確立し、採取された検体での測定を行った。今後の更なる臨床応用が期待される。
臨床的観点からの成果
肝移植をこれから受ける、あるいは、受けた後の患児にワクチン接種をした際の効果と安全性に関するデータは、極めて限られている。この点から、本研究では、特に生ワクチン接種後の抗体量について初めて明らかにした点から、極めて有用な研究といえる。
ガイドライン等の開発
現在、小児感染症学会が中心となり、肝移植患者に対する予防接種のガイドラインを作成しているが、この研究でのデータは、ガイドライン作りの基礎的データとなる。
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201225018Z