エンテロウイルス感染症制御のための診断・予防治療に関する国際連携研究

文献情報

文献番号
201225015A
報告書区分
総括
研究課題名
エンテロウイルス感染症制御のための診断・予防治療に関する国際連携研究
課題番号
H22-新興-一般-015
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
清水 博之(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 小池 智((財)東京都医学総合研究所ゲノム医科学研究分野ウイルス感染プロジェクト)
  • 小柳 義夫(京都大学 ウイルス研究所)
  • 滝澤 剛則(富山県衛生研究所)
  • 牛島 廣治(日本大学 医学部 )
  • 藤本 嗣人(国立感染症研究所 感染症情報センター)
  • 吉田 弘(国立感染症研究所 ウイルス第二部 )
  • 有田 峰太郎(国立感染症研究所 ウイルス第二部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
31,292,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1990年代後半~2000年代にかけて、マレーシア・台湾等で、また、2008-2012年には中国本土で、さらに2011-2012年にかけてはベトナム、カンボジア等において、多数の小児急性死症例を伴う手足口病の大規模な流行が発生し、アジア地域における大きな公衆衛生上の脅威となっている。国内外におけるウイルス感染症の発生状況の把握や他国との連携は、我が国で迅速かつ適切な感染症対策を実施する上で必要不可欠である。アジアを含む日本の周辺諸国における感染症発生動向の正確な把握は、新たな感染症から国民を守る重要な対策となる。このため、重症エンテロウイルス感染症の流行地域である東アジア地域の国々と連携し、病原体サーベイランス体制を整備するとともに、診断・治療法の開発につながる研究を実施する。
研究方法
重症エンテロウイルス感染症の診断および予防治療法に関するアジア諸国との研究協力を基盤として、新たなエンテロウイルス検査法の開発・評価を行うとともに、地方衛生研究所を中心とした国内エンテロウイルス実験室ネットワークとアジア地域のウイルス実験室との国際的技術協力・病原体情報共有体制を整備する。国内外におけるエンテロウイルスサーベイランス体制を強化することにより、重症エンテロウイルス感染症の迅速かつ正確な把握につなげる。エンテロウイルス感染・伝播・病原性発現の分子機構に関する基盤的研究成果を応用することにより、新たな検査法やエンテロウイルス感染動物モデル開発等、研究基盤の整備を行う。
結果と考察
重症エンテロウイルス感染症の主たる流行地域であるアジア地域の国々と連携し、国内外における腸管ウイルス感染症サーベイランス体制を整備し、重症エンテロウイルス感染症の診断および予防治療法を開発するための研究を実施した。国内およびアジア地域のエンテロウイルス実験室におけるウイルス同定・遺伝子解析に関する技術協力を実施した。病原体の国外移動は困難な場合が多いため、当該国で遺伝子解析結果を公開することによりウイルスゲノムデータベース整備を進めた。環境サーベイランス手法の開発研究を進め、中国等における環境サーベイランス導入のための基盤的研究技術協力を実施した。
EV71特異的受容体の機能解析を進め、受容体機能を利用したエンテロウイルス検査法への応用研究やEV71病原性発現機構解析のための研究を進めた。受容体特異性に関する研究成果を応用することにより、EV71感染マウスモデル開発研究を実施した。腸管ウイルスの感染増殖・病原性発現に関する研究成果、および、これらの研究を通じて確立された感染動物モデルは、病原性発現機構の解明のみならずワクチン開発等への応用が期待できる。ヒトカルジオウイルス、パレコウイルス等、近年新たに同定された様々な腸管ウイルスの解析により、アジア諸国における腸管ウイルス伝播状況を解析した。アジア及び国内のEV71研究者を招聘し”Current Progress in Enterovirus 71 Research in the Asia-Pacific Region“(日本神経ウイルス研究会共催)を開催した。手足口病の疫学、EV71病原性発現機構、EV71ワクチン開発、腸管感染ウイルスサーベイランスと基礎研究について有意義な研究情報交換の場を提供することが出来た。
 2012年11月、世界で初めて日本で定期接種に導入された弱毒化Sabin株に由来する不活化ポリオワクチン(sIPV)は、世界ポリオ根絶計画最終段階において今後必要とされる新たなIPVとして期待されている。その一方、我が国では、IPV移行期におけるポリオワクチン接種率の低下が懸念されており、腸管ウイルス病原体サーベイランス機能の向上は、ポリオウイルス病原体サーベイランスの一環として、きわめて重要である。腸管ウイルス病原体サーベイランスの一環として国内外におけるポリオフリーを確認し、流行予測事業調査報告書、WHO西太平洋地域年次報告書等により報告した。
結論
国内外における腸管ウイルス実験室ネットワークを強化することにより、腸管ウイルス感染症サーベイランス体制の整備を進め、EV71・ポリオウイルスを含むヒト重症エンテロウイルス病原体サーベイランスの質的向上に資する研究を実施した。国内外、とくにアジア地域の研究機関と連携し、エンテロウイルス病原体サーベイランス・遺伝子解析に関する技術協力を実施した。病原体の国外移動は困難な場合が多いため、遺伝子解析結果を公開しウイルスゲノム情報の整備に努めた。EV71特異的受容体の機能解析を進め、ウイルス受容体機能を利用した感染動物モデルの樹立、ウイルス検査法への応用研究を実施した。腸管ウイルス病原体サーベイランスや予防治療法開発に応用可能な、ウイルス学的研究および分子疫学解析等を実施した

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201225015B
報告書区分
総合
研究課題名
エンテロウイルス感染症制御のための診断・予防治療に関する国際連携研究
課題番号
H22-新興-一般-015
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
清水 博之(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 小池 智((財)東京都医学総合研究所 ゲノム医科学研究分野 ウイルス感染プロジェクト)
  • 小柳 義夫(京都大学 ウイルス研究所)
  • 滝澤 剛則(富山県衛生研究所)
  • 板持 雅恵(富山県衛生研究所)
  • 山崎 謙治(大阪府立公衆衛生研究所 腸管ウイルス)
  • 牛島 廣治(日本大学 医学部)
  • 藤本 嗣人(国立感染症研究所 感染症情報センター)
  • 吉田 弘(国立感染症研究所 ウイルス第二部 )
  • 有田 峰太郎(国立感染症研究所 ウイルス第二部 )
  • 西村 順裕(国立感染症研究所 ウイルス第二部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
重症エンテロウイルス感染症の主要な流行地域である東アジア地域の国々と連携し、国内外におけるエンテロウイルス病原体サーベイランス体制を構築することにより、重症エンテロウイルス感染症の迅速かつ正確な把握につなげる。ゲノムデータベースの整備により、国内およびアジア地域の腸管ウイルス遺伝子情報共有化を進める。EV71感染動物モデルの開発、新規宿主因子の同定等の基礎研究成果を応用することにより、重症エンテロウイルス感染症予防治療法開発のための研究基盤を整備する。国内外におけるポリオフリーを確認するとともに、IPV導入にむけた病原体サーベイランス体制を整備する。
研究方法
国内外、とくにアジア地域の研究機関と連携し、エンテロウイルス病原体サーベイランス・遺伝子解析に関する技術協力を実施した。病原体の国外移動は困難な場合が多いため、遺伝子解析結果を公開しウイルスゲノム情報の整備に努めた。EV71特異的受容体の機能解析を進め、ウイルス受容体機能を利用した感染動物モデルの樹立、ウイルス検査法への応用研究を実施した。腸管ウイルス病原体サーベイランスや予防治療法開発に応用可能なウイルス学的研究および分子疫学解析等を実施した。
結果と考察
重症エンテロウイルス感染症の主たる流行地域であるアジア地域の国々と連携し、国内外における腸管ウイルス感染症サーベイランス体制を整備し、重症エンテロウイルス感染症の診断および予防治療法を開発するための研究を実施した。国内およびアジア地域のエンテロウイルス実験室におけるウイルス同定・遺伝子解析に関する技術協力を実施した。病原体の国外移動は困難な場合が多いため、当該国で遺伝子解析結果を公開し、エンテロウイルスゲノムデータベース整備を進めた。また、環境サーベイランス手法の開発研究を進め、中国等における環境サーベイランス導入のための基盤的研究・技術協力を実施した。
EV71特異的受容体であるPSGL-1 およびSCARB2の機能解析を進め、受容体機能を利用したエンテロウイルス検査法への応用研究やEV71病原性発現機構解析のための研究を進めた。さらに、受容体特異性に基づいたEV71感染マウスモデルの開発研究を実施した。腸管ウイルス (EV71、ポリオウイルス、アイチウイルス、ヒトカルジオウイルス等) の感染増殖・病原性発現に関する研究成果、および、これらの研究を通じて確立された感染動物モデルは、ウイルス感染伝播の分子機構の理解に基づいた、新たな病原体サーベイランス・システム開発への応用が期待できる。ヒトカルジオウイルス等、近年新たに発見された腸管ウイルスの解析により、アジア諸国における新規腸管ウイルス伝播状況を解析した。特定疾患の流行との関連を含めた、疾患・病原体サーベイランス手法の整備と病原体検出・同定法の改良および標準化のための研究が今後の課題である。
 2012年11月、世界で初めて日本で定期接種に導入されたsIPVは、世界ポリオ根絶計画最終段階において必要な新たなIPVとして期待されている。その一方、安全性および有効性について膨大な実績を有するcIPVと異なり、sIPVのヒトにおける有効性・安全性のデータは限られている。sIPV含有ワクチンの有効性についての科学的知見を蓄積し報告していくことが、より広範な地域でsIPV導入を進めるため重要となる。国内外における腸管ウイルス病原体サーベイランス機能の向上は、ポリオウイルス病原体サーベイランスの一環としても、きわめて重要である。我が国では、IPV移行期におけるポリオワクチン接種率低下による集団免疫の低下が懸念されおり、腸管ウイルス病原体サーベイランスにより、ポリオフリーを確認することが引き続き重要である。
結論
国内外における腸管ウイルス実験室ネットワークを強化することにより、腸管ウイルス病原体サーベイランス体制の整備を進め、EV71・ポリオウイルスを含むヒト重症エンテロウイルス病原体サーベイランスの質的向上に資する以下の研究を実施した。

1. アジア諸国と国内の腸管ウイルス病原体実験室ネットワークを基盤とした技術協力・共同研究体制の整備
2. 国内外の手足口病・EV71感染症流行実態の把握と病原体診断・遺伝子解析
3. EV71基礎研究を基盤とした受容体発現マウスモデル・新たな検査法の開発評価
4. 腸管ウイルス感染伝播および分子進化機構の解析、病原性発現機構解明のための基盤的研究の推進
5. アジア地域の研究者を招聘し、環境サーベイランスワークショップ・国際EV71シンポジウムを共催
6. IPV導入・移行期における腸管ウイルスサーベイランスと集団免疫のモニタリング

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201225015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
国内外における腸管ウイルス実験室ネットワークを強化することにより、腸管ウイルス感染症サーベイランス体制の整備を進めた。EV71特異的受容体の機能解析を進め、ウイルス受容体機能を利用した感染動物モデルの樹立、ウイルス検査法への応用研究を実施した。腸管ウイルス病原体サーベイランスや予防治療法開発に応用可能な、ウイルス学的研究を実施した。
臨床的観点からの成果
EV71が主流行していた2010年に重症例調査を行い、WPRO症例定義による研究結果と国際的に比較可能な情報を得た。定期接種へのIPV導入後は成人に対してもIPVの追加接種を行う機会があることから、成人での免疫原性と安全性の検討を行う分担研究を実施し、過去に接種歴がある場合はほとんど全例で良好な抗体価の上昇が確認された。
ガイドライン等の開発
Country Progress Report on Maintaining Polio-free Status, Japan: WHO report (annual WHO report, 2012) [分担執筆; 清水博之]
その他行政的観点からの成果
ポリオワクチンに関するファクトシートを分担執筆し、予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会および不活化ポリオワクチンの円滑な導入に関する検討会等における参考資料として用いた。
その他のインパクト
Current Progress in Enterovirus 71 Research in the Asia-Pacific Region 共催 (2012、東京)

発表件数

原著論文(和文)
14件
原著論文(英文等)
38件
その他論文(和文)
20件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
40件
学会発表(国際学会等)
19件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
5件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nishimura Y, Lee H, Hafenstein S. et al.
Enterovirus 71 binding to PSGL-1 on leukocytes: VP1-145 acts as a molecular switch to control receptor interaction
PLOS Pathog , in press  (2013)
原著論文2
Hovi T, Paananen A, Blomqvist S, et al.
Characteristics of an environmentally monitored prolonged type 2 vaccine derived poliovirus shedding episode that stopped without intervention
PLos One , in press  (2013)
原著論文3
Arita M, Kojima H, Nagano T, et al.
Oxysterol-binding protein (OSBP) family I is the target of minor enviroxime-like compounds
J Virol , 87 , 4252-4260  (2013)
原著論文4
Fukuhara M, Iwami S, Sato K, et al.
Quantification of the dynamics of enterovirus 71 infection by experimental-mathematical investigation
J Virol , 87 , 701-705  (2012)
原著論文5
Arita M, Wakita T, Shimizu H
Valosin-Containing Protein (VCP/p97) Is Required for Poliovirus Replication and Is Involved in Cellular Protein Secretion Pathway in Poliovirus Infection
J Virol , 86 , 5541-5553  (2012)
原著論文6
Nakajima N, Kitamori Y, Ohnaka S, et al.
Development of a transcription-reverse transcription concerted reaction method for specific detection of human enterovirus 71 from clinical specimen
J Clin Microbiol , 50 , 1764-1768  (2012)
原著論文7
Wong KT, Ng KY, Ong KC, et al.
Enterovirus 71 encephalomyelitis and Japanese encephalitis can be distinguished by topographic distribution of inflammation and specific intraneuronal detection of viral antigen and RNA in the central nervous system
Neuropathology and Applied Neurobiology , 38 , 443-453  (2012)
原著論文8
Fujimoto T, Iizuka S, Enomoto M, et al.
Hand, Foot, and Mouth Disease Caused by Coxsackievirus A6, Japan, 2011
Emerg Infect Dis , 18 , 337-339  (2012)
原著論文9
Arita M, Iwai M, Wakita T, et al.
Development of a poliovirus neutralizing test with poliovirus pseudovirus for measurement of neutralizing antibody titer in human serum
Clin Vaccine Immunol , 18 , 1889-1894  (2012)
原著論文10
Burns CC, Shaw J, Jorba J, et al.
Multiple Independent Emergences of Type 2 Vaccine-Derived Polioviruses during a Large Outbreak in northern Nigeria
J Virol , 87 , 4907-4922  (2013)
原著論文11
Yamayoshi S, Ohka S, Fujii K, et al.
Functional Comparison of SCARB2 and PSGL1 as Receptors for Enterovirus 71
J Virol , 87 , 3335-3347  (2013)
原著論文12
Abe Y, Fujii K, Nagata N
The toll-like receptor 3-mediated antiviral response is important for protection against poliovirus infection in poliovirus receptor transgenic mice. J Virol
J Virol , 86 , 185-194  (2012)
原著論文13
Sasaki J, Ishikawa K, Arita M, et al.
ACBD3-mediated recruitment of PI4KB to picornavirus RNA replication sites
EMBO J , 31 , 754-766  (2012)
原著論文14
McWilliam Leitch EC, Cabrerizo M, Cardosa J, et al.
The association of recombination events in the founding and emergence of subgenogroup evolutionary lineages of human enterovirus 71
J Virol , 86 , 2676-2685  (2012)
原著論文15
Yamayoshi S, Fujii K, Koike S
cavenger receptor B2 as a receptor for hand, foot and mouth disease and severe neurological diseases
Frontiers in Virology , 3  (2012)
原著論文16
Yamayoshi S, Iizuka S, Yamashita T, et al.
Human SCARB2-dependent Infection by Coxsackievirus A7, A14, A16 and Enterovirus 71
J Virol , 86 , 5686-5696  (2012)
原著論文17
Nishimura Y, Shimizu H
Cellular receptors for human enterovirus species A
Front Microbiol , 3 , 105-  (2012)
原著論文18
Kotani O, Shirato K, Nagata N, et al
Neuropathogenesis of a mouse-adapted porcine epidemic diarrhea virus infection in suckling mice.
J Gen Virol , in press  (2013)
原著論文19
Umeki S, Suzuki R, Ema Y, et al.
Anti-adhesive property of P-selectin glycoprotein ligand-1 (PSGL-1) due to steric hindrance effect
J Cell Biochem , in press  (2013)
原著論文20
Himeda T, Hosomi T, Okuwa T
Saffold virus type 3 (SAFV-3) persists in HeLa cells
PLoS ONE , in press  (2013)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201225015Z