新技術媒体を利用した医療等に関する情報の提供と利用の現状分析についての予備的研究

文献情報

文献番号
199800103A
報告書区分
総括
研究課題名
新技術媒体を利用した医療等に関する情報の提供と利用の現状分析についての予備的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
大櫛 陽一(東海大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 田中忠一(神奈川県医師会)
  • 遠藤郁夫(神奈川県医師会)
  • 春木康男(東海大学医学部)
  • 岡田好一(東海大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療機関や医療技術に関する情報は患者に選択の際の指針を提供し、医療の質の向上や医療費の削減にもつながる。医療を受ける側が必要なときに容易に医療情報を得るための道具として、新技術媒体は非常に有望であり、社会の関心も高い。現時点では、利用者が自発的な意志により検索して見るインターネットのホームページ等については、医療法上の広告には該当しないと解釈されており、医療機関側にとっても魅力的なものであろうが、医療法の広告規制の本旨を損なう可能性があることも否定できない。こうした時期に新技術媒体を利用した医療情報提供の概要について把握しておくことは、重要な意義を持つ。しかしこのような新技術媒体による医療情報は、提供手段も様々で、その存在場所も多岐にわたる。そこで今回の特別研究では、本格的な現状調査を実施する際の調査手法の開発を目的とし、小規模なFeasibility Studyを実施した。この研究の成果は本格調査に応用され、そこで得られた結果は新技術媒体利用のガイドライン策定の基礎資料となる。これにより医療に関する広く正確な情報が迅速に入手可能になれば、それを必要とする患者にとってもメリットがあり、医療の質の向上も期待される。
研究方法
(1)医療関係者の医療分野に関するインターネット利用の現状について、神奈川県において予備的調査を行った。対象者は県医師会会員のうち、医療施設の長4,601人とし、調査方法は郵送法による質問紙調査とした。質問項目はインターネットの利用頻度・使用目的、ネット上公開してもよいと考える情報内容等であった。
(2)医療サービスを受ける側の医療分野に関するインターネット利用の現状について、アンケート調査を行った。対象は、ホームページを持つ等現時点で積極的に新技術媒体を利用している62グループとし、公開されている連絡先により、電子メール又はFAXによる質問紙調査を行った。質問項目はインターネットの利用頻度・使用目的、公開してもらいたい医療施設情報内容等とした。
(3)現状のホームページ上の医療機関による情報提供項目についての予備調査を行った。対象は1998年12月当時、日本医師会のホームページからhttp://www.osaka-med.ac.jp/~friend-2/toku/links.htm経由で直接リンクをたどれる42都道府県医師会のホームページ上で提供されている項目とし、民間業者により提供されている情報項目との比較を行った。(4)ホームページ上の医療情報検索の現状を分析するための予備的調査として、既に開発され一般的に広く使用されている種々のホームページ検索エンジンを(2)及び(3)の予備調査で実際に使用し、その評価を試みた。
(5)海外における医療関係機関に関する情報公開の事例を日本の場合と比較分析するため、米国のJoint Commission on Accreditation of Health OrganaizationsのWebページに記載されている情報の検索を行った。
結果と考察
(1)神奈川県医師会会員からのアンケート回収率は49.3%であった。回答者の平均年齢は59.4歳、インターネットを利用している医師は全体の30%であった。医学医療情報検索は利用者の61%が使用していた。厚生省、医師会、その他のWebページを月に数回以上閲覧している医師はそれぞれ25%、20%、70%であった。インターネットを利用していない医師の27%は、今後使う予定があると回答した。4%の医療機関がインターネット上で自院の情報を公開している。6割の施設長は今後の情報公開に前向きであった。9割以上の回答者が公開に同意している項目は、病院・診療所の名称、診療科名、所在地、電話番号、診療時間及び診療日、他に過半数が公開に同意したのは、医師又は歯科医師の氏名、入院設備の有無、地図であった。対象地域とした神奈川県は大都市及びその近郊地域と人口の少ない地域の両方を含んでおり、予備調査の対象としては適当であったと考えられる。対象団体とした医師会の会員平均年齢は高齢化しており、さらに施設の長を対象としたことで、この傾向はさらに強まったと考えられる。インターネット利用者は非利用者よりも年齢が低い層に多いこと、大規模な施設でのインターネット利用がより進んでいることから、本格調査では対象者をさらに広い範囲とする必要がある。医療情報よりもそれ以外の情報の検索にインターネットが多く利用されている理由について明らかにする必要がある。また厚生省、医師会関係以外のWebページを利用者の7割の医師が月数回以上閲覧するのに対し、厚生省、医師会関係のWebページを閲覧する医師が3割弱にとどまる理由についても明らかにし、必要があれば対策を講じることも課題の一つである。
(2)患者団体等からは24団体、69名から回答があり、団体としての参加率は39%であった。回答者の平均年齢は41.1歳で、88%はインターネットを利用していた。医学医療情報検索はそのうち18%が利用していた。厚生省、医師会あるいはそれ以外の医療関係ホームページを月数回以上閲覧しているのは、それぞれ21%、5%、28%であった。医療以外のWebページは、77%が月数回以上閲覧していた。各医療機関の情報を公開するのに最も望ましい場所については、厚生省(30%)、各医療機関(29%)、その他のWebページ(16%)の順で、インターネット以外が望ましいと回答したものは10%であった。公開内容として病院・診療所の名称、所在地、診療科名、診療時間、診療(休診)日及び電話番号は、8割以上の人が望む情報であった。医療サービスを利用する側の調査対象としたグループは、医療への関心が高く、かつインターネットを広く利用しており、この研究において利用の現状分析を行う対象として適切であった。ただし、医療サービスの利用状況についての情報も、対象者のプロフィールとして必要であろう。本格調査ではインターネット等を利用していない患者群、通常は医療施設をほとんど利用しない人も調査対象に含める必要がある。
(3)日本医師会のホームページにリンクしている42都道府県医師会のWebページ上で医療機関についての情報提供を行っていたのは、5県のみであった。内容としては、医療機関名、診療科名、所在地、電話番号、FAX番号の掲載が大部分であった。複数の民間業者が、これらの情報を全国分、地域別にまとめて提供するサービスを行っていた。予備調査の対象として、提供されている項目が比較的限定された医師会のホームページは適していた。本格調査では、さらに多くの医療機関の情報を広く探索し、分析する必要がある。
(4)医療関係のWeb検索のための検索ページとして、YAHOO! JAPAN、goo、infoseek Japanを評価した結果、YAHOO! JAPANは民間の医療機関紹介ページを検索するのに優れていたが、分類されていない、多方面にわたる医療関係のページを検索するのには不向きであった。goo、infoseek Japanのようなロボット型検索エンジンを使用したものは、数多くの候補が表示され、使いこなすのに習熟が必要で、医療機関検索のための使用には向いていないが、医療機関紹介ページやYahoo! JAPANでは検索できない情報が検索可能であった。
(5)米国の Joint Commission on Accreditation of Health Organaizations では、北米地域において、基準合格認定の結果別に医療関係機関を検索可能である。基準合格認定の結果をAllとすれば、医療機関名を指定してその評価結果を得ることもできる。評価の詳細に関しては、個別に申請すると、FAXで提供される。日本においては、財団法人日本医療機能評価機構による評価が同機構のWebページで公開されている。平成11年3月15日現在、掲載されているのは認定された186病院の病院名、所在地、電話番号、病院の種別であり、認定された病院のWebページでは、この認定についてふれているものが存在した。
結論
医療施設の情報は現在インターネット等の新技術媒体を利用して公開されている。情報の内容は多岐にわたってはいるが、医療法69条で認められた広告しうる事項が大部分を占める。しかし患者グループはさらに詳しい他の情報の公開も求めており、医療施設評価の結果もその要求に含まれていた。米国では、Joint Commission on Accreditation of Health Organaizations がWeb上で医療機関情報を提供しており、そこでは評価結果も公開されている。新技術媒体上での医療施設情報公開について、適切なガイドラインを定めるためには各方面からの意見の集約が必要である。また現状では、医療提供側、利用者側とも、インターネット上の医療に関する情報を必ずしも十分に利用していないのが現状である。その原因を明確にし、情報が十分に活用される方向に持っていくことが必要である。

公開日・更新日

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