文献情報
文献番号
201225013A
報告書区分
総括
研究課題名
重症型のレンサ球菌・肺炎球菌感染症に対するサーベイランスの構築と病因解析,その診断・治療に関する研究
課題番号
H22-新興-一般-013
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
生方 公子(北里大学北里生命科学研究所 病原微生物分子疫学研究室)
研究分担者(所属機関)
- 坂田 宏(JA北海道厚生連旭川厚生病院 小児科)
- 岩田 敏(慶應義塾大学 医学部感染制御センター)
- 高橋 孝(北里大学大学院感染制御科学府&北里生命科学研究所 感染症学研究室)
- 大石 和徳(国立感染症研究所 (感染症情報センター))
- 藤島 清太郎(慶應義塾大学 医学部救急医学)
- 阿戸 学(国立感染症研究所 免疫部第二室)
- 池辺 忠義(国立感染症研究所 細菌第一部)
- 秋山 徹(独立行政法人国立国際医療研究センター 感染症制御研究部感染症免疫遺伝研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
30,241,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
肺炎球菌とβ溶血性レンサ球菌は,化膿性髄膜炎や敗血症,あるいは重症肺炎を含む市中型呼吸器系感染症の原因菌として最も重要である。急速な少子・高齢化社会を迎えたわが国では,これらの重症感染症が増加している。また,2010年末には,肺炎球菌も対象となる「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」が施行された。
これらの細菌による侵襲性・重症感染症の実態を明らかにするため,(1) 侵襲性β溶血性レンサ球菌・肺炎球菌感染症例からの分離菌を全国規模で収集する。(2) 肺炎球菌例についてはワクチン効果を明らかにする。(3)肺炎球菌とレンサ球菌の疫学変化と抗菌薬に対する耐性化状況を調べる。(4) 致命率の高い成人発症例の予後不良関連因子を明らかにする。(5) 重症化,劇症化に関わる菌側因子をゲノム・動物モデルを用いた解析から明らかにする。(6)啓発活動を行う。以上の6項目を主たる目的とした。
これらの細菌による侵襲性・重症感染症の実態を明らかにするため,(1) 侵襲性β溶血性レンサ球菌・肺炎球菌感染症例からの分離菌を全国規模で収集する。(2) 肺炎球菌例についてはワクチン効果を明らかにする。(3)肺炎球菌とレンサ球菌の疫学変化と抗菌薬に対する耐性化状況を調べる。(4) 致命率の高い成人発症例の予後不良関連因子を明らかにする。(5) 重症化,劇症化に関わる菌側因子をゲノム・動物モデルを用いた解析から明らかにする。(6)啓発活動を行う。以上の6項目を主たる目的とした。
研究方法
目的達成のため,(1)H24年度は1月末日までの10ヶ月間に全国341医療機関から肺炎球菌と溶血性レンサ球菌が733株収集された。(2)これら菌株の莢膜型別,emm型別,MLST解析,ならびに薬剤耐性遺伝子解析の実施,(3)発症例の予後関連因子についての多変量解析,(4)本研究で確立した迅速診断法の臨床応用,(6)感染動物モデルを用いた菌のビルレンス解析の実施,(5)Webサイトの新規データへの更新,等を行った。
結果と考察
(1) 侵襲性感染症由来株の疫学解析:サーベイランス参加医療機関(n=341)を通じ,H24年度は肺炎球菌とβ溶血性レンサ球菌733株を収集した。それぞれの菌について分子疫学解析,耐性遺伝子レベルでの耐性化状況,MLST解析を行ない,次の結果を得た。
(2) 「ワクチン接種緊急促進事業」後の肺炎球菌の変化:小児用7価結合型ワクチン(PCV7)の公的助成に伴い,小児の化膿性髄膜炎,敗血症,重症肺炎等は半減したが,2012年度の症例数は前年とほぼ同じで,PCV7の効果は急速に低下していた。PCV7のカバー率は2010年の71.8%から2011年は50%,2012年には20%を下まわり,菌が急速に変化していた。成人においても小児の影響を受け,PCV7に含まれる莢膜型菌による発症例は有意に減少していた。成人用23価ワクチン(PPV23)のカバー率は2011年度の82.7%から2012年度には72%へと低下した。PCV7は耐性肺炎球菌の割合が高い莢膜型をカバーするため,小児,成人とも耐性菌の割合は半減した。PCV7接種後に発症した児から分離された菌は,そのほとんどがワクチンで防げない非ワクチンタイプであった。
(3) β溶血性レンサ球菌:GASとSDSEは病原性に関わるMタンパク遺伝子を解析し,さらに世界の菌株と比較するMLST解析を行なったが,GASではemm1型が依然として優位であった。SDSEでは諸外国では分離頻度の少ないstG6792型がわが国では優位であることを明らかにした。GBSの莢膜型は新生児と高齢者では明らかに異なっていた。新生児では莢膜III型の割合が高かったが,高齢者ではマクロライドやニューキノロン薬耐性の多い型が優位に分離されていた。
(4)リスクファクター解析:それぞれの菌による成人の感染症について予後不良と関連する宿主因子と血液検査値について多変量解析を行い,有意差のみられた項目を明らかにした。
(5) ビルレンス解析と動物モデルの構築:劇症型GAS感染症の発症と遺伝子変異によるビルレンス因子からの産生物との関係について,csrR/csrS,rocA,rgg遺伝子に加え,spy0218遺伝子解析を行なった。変異は好中球の遊走能阻害とその殺傷能を増大した。劇症型感染マウスモデルを用い,IL-6とインターフェロン-γ(IFN-γ)の重症化への関わりを明らかにした。糖尿病マウスを用いたSDSE感染では,炎症性サイトカイン,特にIL-6の産生が劇的に増加することを明らかにした。
(6)啓発活動:Webサイト(http://strep.umin.jp/)を新たな研究成果に更新した。 速報を発行し医療機関に配布した。
(2) 「ワクチン接種緊急促進事業」後の肺炎球菌の変化:小児用7価結合型ワクチン(PCV7)の公的助成に伴い,小児の化膿性髄膜炎,敗血症,重症肺炎等は半減したが,2012年度の症例数は前年とほぼ同じで,PCV7の効果は急速に低下していた。PCV7のカバー率は2010年の71.8%から2011年は50%,2012年には20%を下まわり,菌が急速に変化していた。成人においても小児の影響を受け,PCV7に含まれる莢膜型菌による発症例は有意に減少していた。成人用23価ワクチン(PPV23)のカバー率は2011年度の82.7%から2012年度には72%へと低下した。PCV7は耐性肺炎球菌の割合が高い莢膜型をカバーするため,小児,成人とも耐性菌の割合は半減した。PCV7接種後に発症した児から分離された菌は,そのほとんどがワクチンで防げない非ワクチンタイプであった。
(3) β溶血性レンサ球菌:GASとSDSEは病原性に関わるMタンパク遺伝子を解析し,さらに世界の菌株と比較するMLST解析を行なったが,GASではemm1型が依然として優位であった。SDSEでは諸外国では分離頻度の少ないstG6792型がわが国では優位であることを明らかにした。GBSの莢膜型は新生児と高齢者では明らかに異なっていた。新生児では莢膜III型の割合が高かったが,高齢者ではマクロライドやニューキノロン薬耐性の多い型が優位に分離されていた。
(4)リスクファクター解析:それぞれの菌による成人の感染症について予後不良と関連する宿主因子と血液検査値について多変量解析を行い,有意差のみられた項目を明らかにした。
(5) ビルレンス解析と動物モデルの構築:劇症型GAS感染症の発症と遺伝子変異によるビルレンス因子からの産生物との関係について,csrR/csrS,rocA,rgg遺伝子に加え,spy0218遺伝子解析を行なった。変異は好中球の遊走能阻害とその殺傷能を増大した。劇症型感染マウスモデルを用い,IL-6とインターフェロン-γ(IFN-γ)の重症化への関わりを明らかにした。糖尿病マウスを用いたSDSE感染では,炎症性サイトカイン,特にIL-6の産生が劇的に増加することを明らかにした。
(6)啓発活動:Webサイト(http://strep.umin.jp/)を新たな研究成果に更新した。 速報を発行し医療機関に配布した。
結論
PCV7の公的助成は,小児の耐性肺炎球菌による侵襲性重症感染症を短期間で半減させることができた。しかし,莢膜型が93種と多い肺炎球菌では,既にPCV7でカバーできない型の菌へと急速に変化し,成人例もその影響を受けつつある。その中には再び耐性菌が増加しており,継続的なサーベイランスが必要と結論される。また,溶血性レンサ球菌においては基礎疾患を有するヒトで予後不良であることが統計学的,基礎的に明らかにされた。今後,診療科を横断した研究と啓発活動が重要と結論される。
公開日・更新日
公開日
2013-05-31
更新日
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