文献情報
文献番号
201225012A
報告書区分
総括
研究課題名
早期麻疹排除及び排除状態の維持に関する研究
課題番号
H22-新興-一般-012
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
竹田 誠(国立感染症研究所 ウイルス第三部)
研究分担者(所属機関)
- 駒瀬 勝啓(国立感染症研究所 ウイルス第三部)
- 森 嘉生(国立感染症研究所 ウイルス第三部)
- 木村 博一(国立感染症研究所 感染症情報センター)
- 小沢 邦寿(群馬県衛生環境研究所)
- 調 恒明(山口県環境保健センター)
- 柳 雄介(九州大学大学院医学研究院)
- 前仲 勝実(北海道大学大学院薬学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
33,979,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、「麻疹排除」という目標達成に必要な調査研究、基礎研究等を通じて、わが国からの麻疹排除の達成を促進、そして実現させることを目的としている。
研究方法
(1)麻しん患者の、発症早期の検体を可能な限り確保し、RT-PCR法を用いた遺伝子検査を実施する。感染研が、検査に必要な試験プロトコール等を用意して、各地研や全国の10カ所の麻疹風疹レファランスセンターへ配布する。レファランスセンターは、それぞれの地域のデータを取りまとめ、実験結果の評価や解析を行う。麻疹ウイルスが検出された場合には、遺伝子型解析を通じて流行経路を解明する。世界の流行株についての情報収集に努める。地研への技術支援や試験法の精度管理を実施する。(2)nested RT-PCR法の改良や、リアルタイムPCR法を用いた試験法開発を目指す。市販されているIgM検出キット(麻疹IgM ELISA)の性能比較を行う。IgM ELISA法とRT-PCR法との比較解析を実施し、実験結果を総合的に判断するためのデータを収集する。(3)麻疹ウイルスの主要ウイルス抗原Hタンパク質に対する7種のモノクローナル抗体とHタンパク質を組換えた異なる20数種の組換え麻疹ウイルス、ならびに異なる麻疹ウイルス受容体(SLAM、ネクチン4)をもつ細胞株2種を用いた詳細な中和解析、ならびにウイルスの表現型や生化学的解析、加えて構造生物学的検討を実施して、麻疹ウイルスの単一抗原性決定の分子基盤を解明する。
結果と考察
(1)平成22年(2010年)11月の「麻しんの検査診断について」の通知以降、地研に送られる臨床検体数が、増加し、平成23年度に引き続き、平成24年度も、実験室診断が精力的に実施されていることが明らかになった。(2)麻疹患者報告数は、2008年に11,015例あった報告数が、2009年には93%減の741例、2010年は457例、2011年は434例、2012年は293例と確実に減少していることが明らかになった。また、一部の地域では、すでに麻疹の発生がみられないことが明らかになった。(3)輸入症例やワクチンの副反応例をRT-PCR検査にて的確に捉えることができ、平成23年度に引き続き、平成24年度においても、わが国で検出される麻疹ウイルスが、ほとんど外国からの輸入株であることが明らかになった。各遺伝子型のウイルス毎に、月毎、都道府県毎の表を作成して解析することにより、同じ株の流行がもはやわが国では持続していない状況が強く示唆された。(4)2010年以降の1,162名の患者のうち、2名以上の流行(全部で16回)の患者数の分布、流行期間の分布から、基本再生産数(R0)を推定した。その結果、R0値は、1未満(0.7365 [0.6836, 0.7894])であり、麻疹の伝播は持続しない状況(排除状態)であることが示唆された。(5)多くの麻疹疑い症例に対して実験室検査を実施することにより、麻疹と届けられている症例の中にも風疹など他の発疹性疾患が多くまぎれこんでいる可能性が明らかになった。(6)2013年4月1日には、「特定指針」の一部改正が行われるが、ほとんどの自治体あるいは地研で麻しん検査体制が構築されており、一部の機関では、指針の改正をもとに前向きに検討されていることが明らかになった。
結論
わが国においても麻疹対策が強化され、2008年以降、順調に患者数が減少した。2012年は、年間わずか293例の報告しかなかった。しかも、平成23年度に引き続き、平成24年度においても、わが国で検出される麻疹ウイルスが、ほとんど外国からの輸入株であることが明らかになった。各遺伝子型のウイルス毎に、月毎、都道府県毎の表を作成し、解析することにより、同じ株の流行がもはやわが国では持続していない(すなわち排除状態である)状況が強く示唆され、加えて推定した基本再生産数(R0)は、1未満であり、麻疹の伝播は持続しない状況(排除状態)であることが示唆された。さらに、麻疹と届出されている症例の中にも他の多くの発疹性疾患がまぎれこんでいる可能性が明らかになった。これらのデータは全て、わが国が、麻疹排除状態(土着の株によるウイルス伝播のない状態)に至ったことを示唆している。ただ、実際に「土着の株によるウイルス伝播のない」ことを証明するためには、麻疹症例のほぼ全例からウイルス株を検出し、遺伝子型の解析を行うか、あるいは、麻疹症例の全例について疫学情報を的確に収集し、流行経路を解明する必要があり、WHOもそれを求めている。しかしながら、以上の結果を充分に検討した上で、本研究班では、WHOが求める排除証明のための判断基準には、さらなる検査診断診断の強化が必要ではあるものの、わが国が実質的な麻疹排除状態に至ったと判断して妥当であると結論した。
公開日・更新日
公開日
2013-06-05
更新日
-