文献情報
文献番号
201225011A
報告書区分
総括
研究課題名
重症呼吸器ウイルス感染症のサーベイランス・病態解明及び制御に関する研究
課題番号
H22-新興-一般-011
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
木村 博一(国立感染症研究所 感染症情報センター)
研究分担者(所属機関)
- 小沢 邦寿(群馬県衛生環境研究所)
- 調 恒明(山口県環境保健センター)
- 竹田 誠(国立感染症研究所 ウイルス第三部)
- 野田 雅博(国立感染症研究所 感染症情報センター)
- 松山 州徳(国立感染症研究所 ウイルス第三部)
- 水谷 哲也(東京農工大学農学部附属国際家畜感染症防疫研究教育センター 伝染病疫学解明部門)
- 黒田 誠(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
- 岡山 吉道(日本大学 医学部)
- 梁 明秀(横浜市立大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
33,497,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本邦において、重症呼吸器感染症による年間死亡者数は推定で10万人を超えていることが推定される。これらの症例の中に、少なからず呼吸器ウイルスが関与していることが推定されるが、その実態は不明である。また、市中肺炎以外については、呼吸器感染症の重症度の指標は定まっていない。このような背景から、重症例を含む呼吸器ウイルス感染症の包括的なウイルスサーベイランス、臨床的な重症度の指標化、重症化の病態解明および効果的なワクチン開発も視野に入れた研究は重要でかつ必要性が極めて高いと思われる。本研究においては、国内の呼吸器ウイルス感染症のサーベイランス、病態解明および制御の拠点である全国地方衛生研究所、大学医学部・大学病院および国立感染症研究所により以下の内容の研究を行った。
研究方法
1)包括的な重症急性呼吸器感染症のウイルスサーベイランスに関する研究を行った。2)小児科領域の呼吸器ウイルス感染症の重症度を簡便に救急の現場でも把握できるよう、多呼吸、喘鳴、陥没呼吸、酸素需要、哺乳障害の5項目について指標化を行った。3)成人領域における重症度の指標化を行った。4)次世代シークエンサーによる解読リードを病院・地方衛生研究所等でも情報解析できるよう、ネットワーク経由で病原体鑑別するための情報解析パイプラインを構築した。5)新型コロナウイルス(HCoV-EMC/2012)のリアルタイムRT-PCR法による検査診断法の開発・検査診断マニュアル・標準物質(陽性コントロールなど)を作成し、全国衛生研究所における当該ウイルス検査診断体制の確立・普及を行った。6)パラミクソウイルス・コロナウイルスの感染機序解明に関する研究を行った。7)ライノウイルス(HRV)感染ヒト肺線維芽細胞(MRC-5細胞)が産生するサイトカインのプロファイリング、シグナル伝達機構解明およびコルチコステロイドの効果に関する研究を行った。8)HPIV3感染症に対し、コムギ無細胞タンパク質合成系を用いたhPIV3外被タンパク質hemagglutinin-neuraminidase(PIV3-HN)を合成し、マンノース被覆リポソームと組み合わせた新しいワクチンの開発を行った。また、HN全長タンパク質を抗原としたモノクローナル抗体作製を試みた。
結果と考察
1)ARIs症例検体からARIsウイルス検索を試みた結果、Respiratory Syncytialウイルス(RSV)、ヒトメタニューモウイルス(HMPV)、ヒトライノウイルス(HRV)、ヒトパラインフルエンザウイルス(HPIV)等が本疾患へ強く関与していることを明らかにした。2)小児科領域の呼吸器ウイルス感染症の重症度は、0-1項目は軽症、2-3項目は中等症、4-5項目は重症とすることが適切であると示唆された。3)成人領域における重症度の指標は、入院後の昇圧剤使用、人工呼吸器使用および予後を考慮すべきと考えられた。4)次世代シークエンサーを用い、重症呼吸器感染症の網羅的解析を実施した結果、地方衛生研究所において次世代型シークエンサーを基盤とした種々の呼吸器ウイルス網羅解析法の確立に成功した。5)HN全長タンパク質を抗原としたモノクローナル抗体の作製に成功した。6)HRV感染MRC-5細胞は、種々の炎症性サイトカイン、Th2サイトカインや気道リモデリングに関連するサイトカインを多量に産生することが明らかになった。
結論
1)RSV、HMPV、HRV、HPIV、HBoV、HCoVおよびEV68などの急性呼吸器ウイルス感染症への関与および分子疫学が明らかになった。2) 重症呼吸器ウイルス感染症の実態調査および重症度の臨床的な指標化が可能になった。3)重症呼吸器ウイルス感染症のサイトカイン、シグナル伝達機構およびコルチコステロイドのサイトカイン産生抑制効果が明らかになった。4)ヒトパラミクソウイルスおよびヒトコロナウイルスの感染機序が明らかになった。5)新型コロナウイルス(CoV-EMC/2012)の検査診断法の確立・普及により、全国衛生研究所において当該ウイルスの検査診断が可能になった。6)次世代シークエンサーの活用により、不明呼吸器疾患ウイルスの解析が可能になった。7) HPIV3のHN抗原に対する防御抗体産生機構が明らかになるとともにこの抗原を用いたマンノース・リポソームワクチン候補の作成に成功した。
公開日・更新日
公開日
2013-06-05
更新日
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